《天命記 Ⅵ》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~七十一の歌~
《天命記 Ⅵ》原作:大納言経信
秋の夕べ、芦屋の離れに一人寝のウチを訪う
あんたは憎い人。
ウチの髪を梳り、振り乱して、うなじにすべり落とす。
乳房を揉みしだき、股間に口づける。
さらさらと零れ落ちては床の目地に埋もれる時間。
あんたは憎い風見鶏。
<承前七十の歌>
「定家様、連舞いをいたしましょうぞ」
式子は横笛をまた唇にあて、優雅な物腰で膝を折り、定家の前で一礼した。「さすれば、式子様」
二人は互いの眼を見つめ合い、静かに舞い始めた。離れず、近づかず、呼吸一つの距離で二人の裸体がすれ違う。
「夕されば 門田の稲葉 おとづれて芦のまろやに 秋風ぞ吹く」
定家の低い声が床に滴る。
しばらくすると二人の肌は汗ばみ、仄かに甘い匂いが満ちていった。
<後続七十二の歌>
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