嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六の歌~
《天命記 Ⅰ》 原作:中納言家持
なぁ、あったかいやろ、カップ酒。
終いに、もう一度だけ渡ろうや、天神橋。
夏の宵宮に二人で行ったんがあかんかったんやろなぁ。
好き合うた者が二人でお参りにゆくと天神さんがイケズして仲を裂んやて。
しもうたなぁ……けど、もう手遅れや。
(注)天神橋=大阪市、淀川に架かる橋。近くに天満宮がある。好き合うた者=すきおうたもん、と発音。イケズ=意地が悪いこと。
蓮生 「家持はんの頃には、まだ、天神さん生まれとらんやろ。おまけにカップ酒とは、どないや」
定家 「ま、ええがな。難波のアホなおっさんに別れ話はつきもんやさかい。別れ話と言えば、天神さんが名所や」
蓮生 「ほな、カップ酒は、どないするんや」
定家 「かささぎの 渡せる橋に おく霜の白きを見れば 夜ぞ更けにける。その霜の降りた橋のねきに竹林があるんや。そこの竹を節のとこで切って手頃な酒の器をこさえる。でけた器が冠符(かっぷ)、言うんね」
蓮生 「ほんまか、それ」
定家 「ええがな、どないでも。さ、飲もう、飲もう。まごまごしてると朝が来てまうで」
To be continued
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