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《ノー天気に嵐吹く》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十九の歌~ 

《ノー天気に嵐吹く》原作:能因法師
「三室の神さん、また、女の尻追いかけてんやて。」
「そうなん? 今度は誰?」
「立田川のもみじ葉姫やて。」
「まぁ、もみじ葉姫って隣組の娘やないの。失礼やわね、同じ組にうちらみたいな美人が居てるいうのに。」
―そこへ三室の神が通りかかる―
「おや? 三室の神さん、どこへ行かはるの? ここに美人がぎょうさん居るよ。」
「わぁ~! 化け物が口きいたぁ。あな恐ろしや、あな恐ろしや。はや、逃げよ!」
「えっ、なんやて? ちょっと誰が化け物やの?!」

<承前六十八の歌>
定家は扇を手にゆっくりと舞い始めた。それを見て式子は床に転がされていた横笛を拾い上げ唇に当てた。一息に、高く音を上げる。
それで定家の舞の容が定まった。蹌踉としていた足元は力強い運びを得て時を弄び、毅然と伸びた背筋が天地をつなぎ、広く両腕が辺りの空間を握りしめた。
「嵐吹く 三室の山の 紅葉葉は竜田の川の 錦なりけり」
朗々と横笛の音に合わせて定家が謡う。舞は激しい嵐が吹き散らした三室の山の紅葉の葉が龍田川 一面に散り敷いている場面をみせた。錦の織物のように美しい情景。
<後続七十の歌> 

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