一首感想『星空がとてもきれいでぼくたちの残り少ない時間のボンベ』


星空がとてもきれいでぼくたちの残り少ない時間のボンベ

杉﨑恒夫(2010)パン屋のパンセ 六花書林

一目見た時、すごく青春の輝きを感じる歌だと思った。

夏に向かう季節の中で読んだからか、夏の夜の星空を想像した。この歌が含まれる連作の題が「夏へ旅立て」であることも鑑みて、ここからは夏の歌という妄想で書き連ねます。

上の句は夏の青春アニメみたいで懐かしいような切ないような気持ちになる。夏休みの旅行での最終日の夜、みんなでバーベキューしたり花火をしたりとひとしきり楽しんだあとに、地面に横並びに座って満天の星空を見上げているような感じ。
「とてもきれいで」や、ひらがな表記の「ぼくたちの」が小学生の夏休みの宿題で書いた日記のようで微笑ましい。残り少ないはじめての青春を楽しんでほしい老婆心が出てしまう。

しかし、続く下の句の最後に出てくる「ボンベ」という言葉でいきなり宇宙に放り出される。みんなで地面に座りながら眺めていた光景が、一気に宇宙服を着ながら無重力の中でこの星空を見ているようなイメージになる。ひらがなでの表記は小学生の感想から、特殊な状況下での本当に美しい光景に目を奪われて語彙を失っている青年の感動へと早変わりする。
また、「残り少ない時間のボンベ」という言葉は、残りわずかな時間しか使えないボンベを表すとともに、ボンベで例えられているのは主体達に許された残り少ない時間だ。読者は時間とボンベの間を行き来することになり、この比喩のループで読者はさらに宇宙の浮遊感を味わうことになる。ともすれば自分が宇宙のチリになってしまうような恐怖感がまた足元を不安定にし、地に足のつかない感覚を抱かせる。ふわふわしている自分もこの宇宙の星達に溶け込んでいるようで不思議な感覚になる。

夏にはこんな不思議な体験もあり得るんじゃないかという包容力がある。この歌はひと夏の冒険をした時のような気持ちを思い出させてくれるところも好きだ。

もし冬の歌だったとしたら澄んだ冬の空気に星々が輝いている様子がとても綺麗だと思う。残り少ないボンベから呼吸が浅くなり、薄寒く感じるところも冬の寒さに呼応するかもしれない。冬になったらまたこの歌を思い出したい。

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