インテリジェンスやカトリック考

インテリジェンスやカトリック考
“シーチン”修一

【雀庵の「大戦序章」185/通算616 2023(令和5)/6/8/木】「アラビアのロレンス」・・・懐かしい。戦後生まれの小生らにとって彼は英雄だった。昔は英雄がいたのだ。

<「アラビアのロレンス」はイギリス陸軍将校のトマス・エドワード・ロレンス(1888~1935年)が率いた、オスマン帝国からのアラブ独立闘争(アラブ反乱)を描いた歴史・戦争映画である。日本での公開は1963年2月>(WIKI)

小生が小6か中1の頃で、「アラブのために戦った白人」と当時は日本でも大評判になり、映画を見ていない小生までが「アラビアのロレンスはいい人だ」と思ったのだろう。そのロレンスが、「カトリックとは何か」を知るために枕頭の書のひとつにしている曽野綾子氏のエッセイ「思い通りにいかないから人生は面白い」に登場していた。

曽野氏は1931年生まれだからロレンスの映画を見ていたろう。1964年には海外観光渡航が自由化されると夫の三浦朱門氏と共に欧州旅行に出掛けている。当時は40日間ツアーが一般的で、今の金額にすると400万円、夫婦なら800万円当たり。デキル人は「自分への投資だ!」と借金してでも訪欧した時代である。氏はロレンスの同僚(?)に出会っている。こう書かれている。

<私が30代初めのころイタリアのカプリ島で不思議な体験をしました。夫婦で現地ツアーに参加したら、無口で猪首の、ジャン・ギャバンに似た老紳士がいました。ツアーの途中から雲行きが怪しくなってきて、やっとのことで山頂の近くまで来ると、物凄い豪雨になったんですね。

教会のような建物に雨宿りしたのですが、小さな中庭には見たこともない植物がびっしり石垣を覆っており、老紳士が「この植物は北はどこそこから南はどこそこまで生えているものだ」と教えてくれました。私は驚いて「この人は“間諜”かも」と夫に言いました。「スパイ」と言うと分かってしまうでしょうから。

雨脚は弱くなっていきましたが、私たちの船の出航時間は迫っていました。何とかして港にたどり着こうと来た道を戻りかけると、老紳士が「来た道と同じルートを取ってはいけない」と忠告してきたのです。途中で窪地になっていたから道は冠水して通れないはずだ、だからその脇のルートを取るべきだ、と。(曽野・三浦夫妻は英語に堪能)

老紳士は来る時から頭の中にきっちり逆方向の道を記憶していた、ということに私は驚嘆した。「やっぱりこの人は間諜だと思うわ、退路を考えながら歩いているもの」と夫に言ったものです。

私たちは、崩れた石垣を乗り越えたりしながら夢中で港に帰りつきました。船が出港してホッとした時、私は手に小さなケガをしているのに気付き、ハンカチで傷を包んでいると、それをじっと見ていた老紳士は、突然、若い頃の話をしてくれたのです。

彼は昔、英国諜報機関にいたと言います。私の想像した通りでした。任務は、イギリス軍を中東に進める時に、何人くらいの兵士とラクダを養うだけの水があるか、オアシスを調査して歩くことだったそうです。

ところが、あるオアシスで異様な人物に出会った。土地の遊牧民の服装はしているけれど、どうしてもイギリス人のような気がする。懐かしさを感じて英語で話しかけようと思ったのだけれど、その男の手を見て止めた。とうてい白人のものとは思えないほど荒れていて、指の皮膚は分厚かった。結局、彼は声もかけず、黙ってオアシスを後にしました。

しかしその後、彼は、その遊牧民風の男が「アラビアのロレンス」であることを知ったというんです。ロレンスが報告書の中で、彼のことを書いていたのだそうです。

私は後年「アラビアのロレンス」という映画を見た時に、その話が本当だと思うようになりました。そのワンシーンに、ロレンスの一つの逸話として、燃えている火を指でもみ消すシーンが出てきたのです。それほどに彼の指の皮は厚かった。老紳士はあの時、やわな私の手を見ているうちに、対照的なロレンスの手を思い出したんでしょうね。

私は豪雨に遭うと、しばしばその話を思い出します。私が老紳士に尊敬の念を抱いたのは、「退路を考えていた」ということが分かった瞬間でした。常にダメな場合を考えて、前に進みながら退路を見ている。その姿勢に引かれたんですね。なかなかできないことですが、そういう人間でありたい、と実は私は思っていたんです。常にできる限りの対処法を考えておくことが必要だと思うんですね>(以上)

「常にできる限りの対処法を考えておく」・・・小生は「全力で挑戦する、ダメだったら諦めて、次の挑戦に向かう」という猪突猛進タイプだったから「ダメな場合の対処法」なんてまず考えたことがなかった。失敗して関係者に迷惑をかけたら速攻で誤ったが、記者稼業だから「お詫びと訂正」で済んだ。半島人相手の時はウンザリしたが・・・

日本人同士なら「まあまあ」で手打ちできるが、半島人は「土下座しろ、誠意を示せ、カネを出せ」式のようで、粘着性と言うか、民族性の違いなのだろう。以来、日本生まれ、日本育ちでハングル語ができない韓国籍の方とは仲良くしていたが、それ以外の半島人は敬遠するようになった。君子危うきに近寄らず。

曽野綾子氏と母親(良家のお嬢様)はカトリック信者だが、父親は明治人(士族?)で慶應義塾大卒の実業家。向田邦子の父みたいに家庭では絶対的な“暴君”で、結局、曽野氏によって離縁(追放)されてしまった。インテリ+宗教のパワー恐るべし!

小生の散歩コースに「カリタス学園」(カナダのカリタス修道女会が設立)があり、父兄会の集まりなのか最寄り駅で知的で品のある奥さん連中が時々20人ほど群れているが、服装が皆黒の上下。カリタス女子高では春になると日射しを避けるために傘を差している生徒が珍しくないが、そんなに日焼けが嫌なのか。白い顔に黒のスーツが流行なのか・・・そのうちヒジャブになったりして。「個性」に価値を置く(目立ちたがり屋の)小生には分からない世界だ。

カトリックの人は「私は正義・正道」意識が強そうだ。斜陽のようなプロテスタントから蛇蝎の如く嫌われても意に介さずのよう。WIKIによると「カトリック教会の信者は12億人、プロテスタント諸派の信者は5億人、正教会の信者は3億人」。信者数で言えば基本的に一人横綱、「キリスト教≒カトリック」だから、幕下の他宗派に対しては「相手にせず、無視」のスタンスか。

有名作家になると“敵性読者”からクレームが寄せられたり罵倒されるのは日常茶飯事で、いちいち反応していたらキリがないから、シカトするのが一番で、曽野氏もそうしているよう。

それにしても、作家の作品や言説が気にくわないからネットで匿名で罵倒する・・・人間の劣化、堕落で、賤しい感じがする。その手の礼節に欠ける人が増えているのではないか。米国のプロテスタントは理性、知性が劣化して「限りなくアカに近いピンク」に堕した印象を受けるし、日本の学者や国会議員も神道・仏教・武士道を忘れて随分劣化が進んでいるようだ。

ロレンスに話を戻すと、彼の著書はしっかりロングセラーになっている。「知恵の七柱 /1」(全3部、柏倉俊三訳、東洋文庫1989/12/1)の読者書評では――
<2003/9/4:巨魔的な魅力を持つアラビア砂漠で繰り広げられる冒険、砂漠の民ベドウィンの特異な生き様、現代に通じるゲリラ戦戦法、国家間の泥沼の駆け引きに振り回される個人の苦しみなど、この自叙伝のみどころは多い。だが、最大の魅力は何といっても、主人公ロレンスの特異な性格だろう。

学者の頭脳と頑強な肉体を兼ね備え、内向的かつ活動的、ユーモアと機知に富み、奇想天外で、親しみやすいのにいつも謎めいている…。そんなロレンスの、カリスマティックな魅力を堪能して欲しい!

この本は人生の厳しい時期に、私の心の支えになってくれた。プラス思考、異文化交流の考え方、文学作品の読み方…ロレンスに教わったものは非常に多い。どんな状況に置かれても、自分の人生を自分らしく生き抜いていくたくましさ…そして夢やぶれても、重たい現実に耐え抜く強さ。彼の人生は風変わりなので、そのまま見習うことはなかなか難しいが、彼のように強く、自分らしく人生を生き抜いていきたいと、心から願った>

「砂漠の反乱」 (小林元訳、中公文庫2014/5/23)では、
<2014/5/30日:1960年に世界ノンフィクション全集(筑摩書房)の一冊として刊行された翻訳の新装文庫刊。映画を始めとして、ロマンティックな英雄として粉飾された姿しか知らぬ読者には、時に文中に述懐される大英帝国の利益の為にアラブ民族を利用したのではないかという欺瞞への自省が率直に映る。

この時代の英国の三枚舌的な外交の歪みが現代のアラブ世界の混迷を招いた事が本書を通しても浮かびあがるが、それが様々なゲリラ戦の冒険小説的な興趣と相反することなく語られることがロレンスという人物の引き裂かれた内面を象徴しているかのようである>

いずれもインテリ向きのようで、猪突猛進単細胞貪欲発展途上人の小生に読みこなせるかどうか・・・まずは図書館で「『アラビアのロレンス』の真実『知恵の七柱』を読み直す」と「砂漠の反乱」を借りる手配をした。子曰く「学びて時に之を習う 亦よろこばしからずや」。

とは言うものの、最後の大日本帝国軍人、陸軍中野学校のインテリジェンス中尉・小野田寛郎氏の英雄的生涯をまとめたいとか、日本人の書籍離れを止めるにはどうしたらいいのだろうとか、やること、模索することが山のようにある。気力体力があるうちに何とか目途をつけたいが、多動爺だからアッチコッチに目が移り、思うに任せず、ひたすら焦りまくる日々・・・ま、暇を持て余すよりはいいか?

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