李強首相は中国を蘇生できるか?

李強首相は中国を蘇生できるか?
“シーチン”修一

【雀庵の「大戦序章」221/通算652 2023(令和5)年9/14/木】「共産主義者は呼吸するように嘘をつく」と昔から言われている。指導者・ボスが「奴は敵だ!」と言えば同志・子分は一斉に「異議なし! 奴は敵だ、殲滅すべし!」となる。ためらっていると「軟弱」「異分子」「反党分子」「階級の敵」とされ、追放されたり「裏切り者」として処刑されたりする。処刑する方は全然ためらわない、それを正義だと心の底から信じているからだ。古人曰く「正義と思えば何でもできる」。共産主義者はそれが甚だしい。いずこの国でも共産主義の歴史は“政敵”虐殺の歴史でもある。

猪突猛進だけが取り柄の小生は「レーニン&トロツキーのウクライナ侵略は間違っていた」と言ったら中核派幹部から「腐敗分子」と烙印を押され三里塚戦線から追放された。それだけで済んだが、中露北なら間違いなく殺されるか、ソルジェニーツィンのように刑務所≒強制労働キャンプ行きだ。共産主義者は自由や解放を唱えながら、やっていることは真逆・・・そう言えば秦剛・中共外相の解任後の消息はまったくないが生きているのだろうか。

BBC2023/7/26:スティーヴン・マクドネル中国特派員の「中国外交の新星が突然の解任 秦剛氏に何があったのか」によると――
<私は過去に何度も秦氏に会ってきたが、秦氏は熱心に中国を擁護し、中国の良さを最大限アピールしていた。秦氏はまさに共産党が必要としていた、現代的で洗練された官吏のようだった。習国家主席は、駐米大使だった秦氏をワシントンから呼び戻し、外相に任命した。しかし今、秦氏の命運は分からない。外務省のウェブサイトからはすでに秦氏に関する情報が削除されている・・・>

古人曰く「3人揃えば派閥ができる」、習近平の一党独裁と言っても裏では当然、派閥はあるだろう。一枚岩のようでも政権内部では毛沢東時代の純粋共産主義復古派(王毅共産党政治局員兼外相など?)、トウ小平以降の改革開放支持派(失脚した秦剛前外相など?)がありそうだ。そこに“野党”として習近平(太子党)に駆逐された上海閥(江沢民派、資金力があるらしい)や共青団派(李克強、胡錦涛)など資本主義的自由経済に肯定的な勢力がある。

習は、駐米大使だった秦剛をワシントンから呼び戻し外相に任命したのだが、秦剛はマオイストの純粋共産主義復古派あたりから「危険分子」とされて抹殺されたのかも知れない。毛沢東は建国後まもなく「百家争鳴」と称して言論を解放したものの、それは異分子をあぶり出して一掃するための「反右派闘争」だった。習政権下に熱烈な純粋共産主義復古派がいるとすれば秦剛追放で「現代版の反右派闘争」を始めたことになる。

純粋マオイストなら政敵を「資本主義の走狗、右派分子」として駆除するのは正義であり、毛の真似っ乞食の習近平はそれを止めることはできない。習の選択肢は、西郷どんの如く現状不満分子に担がれて一緒に党内腐敗分子を叩く「内戦」か、それを避けるために台湾・日本への「外征・侵略」を始めるか、二者択一しかない。病気と称して逃げる手もあるが、これではとても毛沢東と並ぶことはできない。「内乱危機を外戦へ転嫁する」、即ち台湾・日本への侵攻が最も現実的だろう。

しかし盟友プーチンのウクライナ侵略が長期化し、世界の顰蹙を買い、経済封鎖も招いていることから、習近平は今は外戦をしたくない。必勝を期すための兵器や食糧の準備も整っていないからだが、体調が芳しくないこともあるようだ。ところがグズグズしているうちに求心力は衰え始めたようで、かつては効き目があった日本バッシングもパッとせず、逆に日本の反発を起こし、経済も低迷し、カリスマ性が急速に衰えてきたようで、今や党内統治まで怪しくなってきたのではないか。

秦剛を「いなかったことに」したところで、緩んだタガが戻ることはないだろう。党内の派閥争いが顕在化してきたように見える。チャイナウォッチャー・近藤大介氏の「中国『日本叩きの消火役』李強首相と『放火役』王毅外相」(現代メディア2023/9/5)から。
 
<2023年3月11日、全国人民代表大会で李強氏は国務院総理(首相)に選出された。李強新首相は、その2日後の3月13日、300人以上の内外の記者たちを前に、就任の記者会見に臨んだ。1時間23分に及んだ記者会見を、私はCCTVのネット生中継で見た。共産党の党色である真紅のネクタイを締めた李強新首相は、右手を振りながら8人の部下たちを従えて現れ、壇上の中央に腰かけた。李強氏は会見で内外の10人の記者たちの質問に答えた。そこで飛び出した興味深い発言は、以下の通りだ。

【人口を見るより人材を見る】◆「われわれはいついかなる時も、『人民政府』の政府の前についている『人民』の2文字を心に刻んでおかねばならない」◆「現在、われわれの発展に解決が多く求められているのは、『あるかないか』の問題ではなくて、『よいか悪いか』の問題の解決なのだ」◆「私の世代が小さい頃から一番多く聞いてきたのは、大禹治水、愚公移山、精衛填海、跨父遂日といった物語だ。すべて困難を恐れず、苦労をものともせず、勇ましく戦い、たゆまず自己を鍛えていく精神だ」

◆「近年、各種の影響を受けて、香港とマカオの経済発展は一部困難に見舞われたが、それは一時的なもので、かつ発展していく中での困難だ。中央政府は全面的に、的確で確固とした『一国二制度』の方針を貫徹していく」◆「私は、民営経済が比較的発展した地域(浙江省・江蘇省・上海市)で仕事をして、民営企業家と頻繁に交流してきたので、彼らの発展の中での期待や憂慮については、比較的理解している」

◆「われわれは新たな起点に立って市場化、法治化、国際化のビジネス環境を構築していく。各種の企業を平等に扱い、企業の知的財産権と企業家の権益を法によって保護していく。時代は広範な民営企業家たちが新たな創業の歴史を記すことを求めている」

◆「私は時間があると、インターネットの愛好家たちが何に注目していて、どんな素晴らしい意見が出ているかと見回している」(注:習近平主席はパソコンが使えない)◆「就業問題の解決の第一条は、やはり経済の発展だ。今年(7月)、大学卒業生は1158万人を予定している。就業の面から見れば、もちろん圧力だが、発展の観点から見ると、勃々たる活力が社会に注入されることになるのだ」◆「わが国の人口が減少に転じたことで、人口ボーナスが消失したのではと心配する人もいるだろう。だが私は、そんなに単純なことではないと思う。人口ボーナスというのは総量であって、もっと大事なのは質だ。人口を見るより人材を見るのだ」

◆「多くの台湾同胞、台湾企業に大陸へ来てもらい、ただ来るだけではなくて、さらに進んで前向きの発展ができる。両岸の同胞の正常な往来が早く実現し、各分野の通常の協力が回復することは、いまの皆の共同の願いだ」◆「中国の地方は『十里と同じ風が吹かず、百里と習俗が同じでない』のだから、千村を一面に考えてはいけない。農村改革を深化させることで、農村振興を促進していく」

◆「ここ数年、アメリカ国内で一部の人々が中国との『デカップリング』(分断)を画策する論調があることは知っている。時に盛り上がっているが、そんなことをやって、一体どれだけの人が真の利益を得るのだろうか?」

【李強首相の「孤軍奮闘」が始まった】この「初会見」をつぶさに観察して、私は李強新首相の印象を改めた。まず、話す内容は、前任の李克強首相とほぼ変わらなかった。かつ話し方は、李克強前首相より上手である。例えば、紙を棒読みせずに、必ず質問した記者の方を見つめながら話す。各質問の回答の最後には、必ず「謝謝」と、記者に対する敬意を示す。

李克強前首相は「エリート臭さ」が前面に出て、ややもすると「上から目線」だったが、李強首相は記者から、たとえ不快な質問が飛んできても、記者と同じ目線で答える。そのざっくばらんとした態度は新鮮だった。

話す内容も、自分の言葉で分かりやすく語り、時に自分の意見や経験も添える。これは私の勝手な想像だが、習近平主席にしてみれば、同じ報告を受けるのでも、李克強首相から受けるとイライラし、李強首相から受けると安心するのではないか。

まことに「物は言いよう、梨は噛みよう」で、発言に誠意を感じるのである。李克強首相の前任の温家宝首相が、そういうタイプだった。さらに言えば、習近平主席の絶大な信頼を得ているせいか、割と自由に発言していた。ちなみに、会見中に「習近平」という単語は7回出てきた。私は20回以上出るかと思っていたので、意外に少ない印象だ。

ともあれ、この日から李強首相の「孤軍奮闘の日々」が始まった。3月から3期目を始めた習近平主席は、「政敵」を残らず払拭したせいか、「ほしいがままの政治」を始めた。それはひと言で言えば、毛沢東主席が墓場から這い出してきたような政治だった。

習近平主席は、7月11日と9月2日の活動を除けば、ゴリゴリの社会主義邁進活動に徹している。こんな「逆風」の中で、3年にわたるゼロコロナ政策でズタボロになった中国経済をV字回復させるよう命じられた李強首相は大変である。

8月24日、日本が福島原発のALPS処理水の放水を始めると、周知のように中国は猛反発。日本に対して「戦狼外交」(狼のように吠える外交)を展開した。だが、中国の中で「対日戦狼外交」を主導しているのは、王毅外相(党中央外交工作委員会弁公室主任)率いる外交部だ。外交部の定例会見では連日、報道官が日本に向かって吠えている。8月31日には3回、9月1日は2回吠えた。

だが9月4日までで、李強首相はこの件(処理水の放水)に関して一度もコメントを出していないどころか、CCTV(中国中央広播電視総台)ではこの一週間ほど、ニュースから消えた。『人民日報』傘下の国際紙『環球時報』でも、社説からこの問題が消えた。つまり、一方で「放火」していて、もう一方で「消火」しているのだ。前者を主導しているのが王毅外相であることは明白だが、後者を主導しているのは、私の見立てでは李強首相だ>(以上)

近藤氏は李強首相に甘過ぎないか? 李強はまともなのか? 日米欧などと関係を修復したいと本気で願っているのか? ボスの習近平は「威嚇+恫喝=戦狼外交」を止めて自由民主主義に転向したいのか? 毛の真似をして「百家争鳴」の罠を仕掛けているのではないか?・・・李強と習近平の狙いが分からないから、いずこの国でも様子見のよう。何しろ李強のボスの習近平には“前科”があるからだ。

<トウ小平の改革開放に賛同し1987年、中国に真っ先に進出した松下・パナソニックは大歓迎され、それからは「古い友人」と敬意を表されていたが、25年後の2012年、尖閣諸島の国有化に抗議する反日デモが活発化した際、山東省と江蘇省の工場が反日派に攻撃された。次期共産党総書記に内定している習近平国家副主席が主導して対日強硬路線に転じ、反日デモを容認・推奨したことが報じられている>(WIKI、東洋経済2020/3/27など)

習は根っからのマオイスト、反・資本主義、反・自由民主主義。その子分の李強が愛想良くしていても、とても信じられるものではない。FNNプライムオンライン2023/9/6「中国・李強首相 ジャカルタ到着後異例の書簡 経済回復に向けASEANとの連携強調か」から。

<中国の李強首相は5日、ASEAN(東南アジア諸国連合)の首脳会合が行われているインドネシアのジャカルタに到着し、関係国との関係強化に期待する書簡を発表した。
この中で李強氏は、一連の会合への参加を「うれしく思う」と述べ、「ASEANの地位や役割をしっかり支える」と評価した。
李強氏が現地に到着した直後、一連の会議の前にこのような書簡を発表するのは異例で、コロナ禍からの経済回復に向け、東南アジア各国の協力が不可欠な中国の実情を示した形といえる。
中国は、南シナ海の領有権を主張する独自の境界線を28日に発表するなど、安全保障面では強気の態度を取りつつ、経済面では融和的な態度で連携を模索している>

要は、自分の都合次第で下劣な戦狼殺人鬼のハイドになったり、温厚な紳士のジキルになったり・・・小説ではハイドに人格を完全に乗っ取られてジキル博士は自滅するが、人民から支持を失い始めたような習近平・中国も自滅に向かっているよう。

自滅と言っても共産党独裁政権が消滅するだけで、中国は基本的に漢族が90%と圧倒的多数の国だから大した混乱もなく新しい“普通の国”になるかも知れない。その際は中国7大言語(北京語、広東語、福建語、江浙語(江蘇省と浙江省)、湖南語、江西語、客家語)別に分かれた方が良い。必要なら英語を共通語にすれば良い。今のままの14億の人口は多過ぎてロクなことにならない。世界の安全のために最低でも7か国に分割させた方が良いと思うが如何に。
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