「自分にしかできない仕事」なんて本当はあっちゃいけない

39年いろんなスタイルで働いてきました。
組織→フリー→会社経営→組織1→組織2→組織3→フリー。
自分で望んでというよりは、そうするしか続けられなかったから。

最初に組織からフリーランスになった時は、赤ん坊抱えて当時いた業種の「普通の勤務時間」を会社内でまっとうするには、赤ん坊を背中に背負ってやるしかなく、物理的に無理だったから。
だから、PC、ワープロ、FAX取り揃え、自宅でそれをできるようにした。
まだ昭和の時代、これができたのは、任せとけばとりあえず仕上げてくる猫の手よりましなスキルがあったから。世の中バブルで仕事はいくらでもあったし。

世の中の流れで「個人に仕事を出すのは難しいから法人にして」と要望され、法人も作った。忙しい時には人も雇った。
このあたりで、「この仕事、一人でやるのは無理かも」と思い始めた。
法人にはしたけれど、結局一人の働きで何人も食わせてる状態になっちゃって。

それで組織に戻ることにしたのだけど、このフリーランス、自営業根性ってどうにもなくならず、結局どこでも「社内自営業」になっていった。
社会保険は会社が半分出してくれるし、機材も交通費も事務経費もアシスタント費も会社経費だったのでやってきたけど、損だったのか得だったのかは今でもよくわからない。

やってきた仕事の売り上げが全部自分の収入になっていれば、フリーで仕事していた方が格段に収入は高かったと思う。
でもその仕事がすべて個人で受けられたからというと、2005年あたり以降は特に、コンプライアンス強化とかで絶対無理だったと思う。

その理由の一つに、個人に仕事を出した時の継続性リスクがあった。
受けた人が病気になったら、家庭の事情で途中で止めざるを得なくなったら、その仕事は飛んでしまう。
実態は「社内自営業状態で自分しかできない」ことであっても、「組織で受ける」ということは、そのリスクを回避できる体制であるべきなんだ。

それは自分自身の心身の健康を守る意味もあるけれど、組織として仕事を受けた会社の責任でもあると思う。
そのあたりが日本の企業はとても曖昧。さらにそれが人によって違う。

何があってもやり遂げてきたAさんは、「あなたにしかできないことだから」という言葉を「私にしかできないんだ」と受け取り、何がなんでもやり遂げ続ける。
すぐに「無理です」というBさんは、なぜだかそれが許され、さらにはなぜだかAさんに「もうこれはあなたにしかリカバリーできない」と振られ、Aさんが「無理です」と言うと、「なんと無責任な!」「じゃあ誰がやるんだよ!」と怒られる。
そしてAさんはまた頑張るわけだけど、結果やり遂げても、褒められることも感謝されることもなく「ほらできたじゃん」。

回避しようとは思いつつ、Aさん体質だった私。
でも、実はそれをどこかで喜んでいたところもあったんだと思う。
「あなたが担当でよかった」
「あなたにやってもらってよかった」
「次もあなたに頼みたい」
これらの言葉の魔力は、1週間家に帰れなくても、徹夜ハイになっても、50半ば過ぎてそれをやっていても、たぶんどこかでうれしかったから、やっていたんだと思う。

「頼んでいない」「好きでやってるだけ」
腹の立つこともいろいろ言われたけど、でもどこかで「やり遂げた自分」「やっている自分」「自分にしかできないこと」に自分自身が酔っていた。

さて、そこで何が起こったかというと、「1年ちょいでフリーランスで仕事できるようになった私」が作ったのは、2年目でそれ?が3年目でそれ?になり、最近じゃ「まだ3年だもんね」と思っていたら実は5年以上経ってた子だった!なんて人たちだったのかもしれないということ。

なぜそうなるのか、個人の資質なのか、社会の仕組みが複雑になったからなのかよくわからなかったけど、それはそういう体制を作ってこなかった会社という組織の問題もある一方で、「自分にしかできない」と酔っていた自分にも責任はあったのかもしれないと思うようになった。

やっちゃう人がいれば、任せとけばやってくれるになる。
見て覚えろ!盗め!と言われ続けた私たちの世代とは違う。

組織を離れようとしている今、改めて思う。
組織として受けた仕事には、誰だろうと「自分にしかできない仕事」は本当はあっちゃいけない。
それは組織の責任でもあるけど、先を走る人の責任でもあるんだと思う。
なぜならば、その仕事は「継続性が損なわれるリスクを回避するために組織に出した仕事」だから。
これは1本の仕事だけのことではなく、社会がつながっていくために必要なことだ。

「自分にしかできない仕事」は自分の席を守ることにはなるのかもしれないけど、人はいつまでも働き続けられるわけではないので、それをやり続けていると、その仕事は自分とともに消える。
だから、自分のためにも組織のためにも社会のためにも「自分にしかできない仕事」はあっちゃいけない。


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