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仮面をつけて別人になる

この人は「仮面」をつけて話しているな・・・
「化けているつもり」だろうが、すっかり仮面の下が見えている・・・

「仮面をつけなくちゃ、もうあなたに会えない」と同級生が笑う・・・
仮面を使い分けているから、「日常生活ができる」ともいう・・・

仮面があるから呪術が世界中にある・・・
どちらでも「仮面をつけて別人になる」のである・・・

羽衣の松の下で

「三保の松原」から見る富士山はとてもきれいです。
むかし、天女が舞い降りてきて、この松原の枝に「衣」をかけて
綺麗な海で気持ちよく泳いでいたら
漁師の白龍(はくりょう)が、この衣に気が付いて隠してしまった。
天女に「舞を見せてくれたら返す」と約束したら
羽衣をつけた天女が、舞いながら雲の向こうにきえていったという。

三保の松原と富士山      

世阿弥はこの「羽衣伝説」にそって、謡曲「羽衣」をつくりました。
能・羽衣は、世界に誇る日本の伝統の美です。        

能 羽衣

むかし、三保の羽衣の松の下で「能・羽衣」を演じる舞台をつくりたいと、ひとりの女性がやってきました。
彼女は「羽衣の本物の松の下で、能・羽衣を薪能でやりたい」というのです。「屋外では、天候も不順だし・・・」といっても引き下がらない。
結局、彼女の熱意で多くの支援者を獲得して実現するのですが、当日の砂地の仮設舞台は不安定でした。
夜の静寂さの中の「幽玄の美」は、沢山の人に感動を与えました。
このイベントは、40年も継続し、2024年も開催されると聞いています。

羽衣の松の下の「薪能」

別の日、私は早稲田大学の民俗学の大林太良先生・民俗学者の谷川健一先生の協力を得て「白鳥伝説」の学習会を主宰しました。
この記録は雑誌「ユリイカ」に残っています。文化人類学の分野です。
数年後、彼女の行動がNHK銀河小説で「ドラマ化」されて放映されました。

<チョット寄り道> 世界中にある「白鳥伝説」
天女を白鳥になぞられて語られることが多いです。
世界中に「白鳥伝説」がありますが、いろいろなバリエーションがあります。
インドネシアに広く伝わっている伝説の多くは「豊穣」と繋がっているものが多いそうです。美しい白鳥が飛来することと深くつながっているのです。民俗学は興味深いです。         

かぐや姫は天に還っていった

富士市に「竹とり塚」があります。富士山に近いこの竹藪の中から「かぐや姫」が生まれたといわれています。
育ての親である翁・媼に「不老不死」の妙薬を残して去りますが、翁は富士の山に登って、この妙薬を燃やしたので、その後、山頂から噴煙が立ち上ったといわれています。勿論、諸説があります。

かぐや姫天空に帰る

かぐや姫は、天上から迎えの御車が来て、「羽衣を着ると天女」になり、月の世界に去っていったといわれます。民俗学では「竹取物語」の天女と、「三保の松原の天女」の話は、仮面伝説で、同根だという説があります。         

<チョット寄り道> 古代ギリシャの仮面劇

ギリシャで古代のポリスを廻ってみると、どこにも劇場があることに気づきます。市民は「兵士」であると同時に、劇場で「演技すること」が義務だったのです。ポリス市民の「一体感を涵養する」ためですね。
このステージで演じられる悲・喜劇は素晴らしいです。現代でも「オイデプス王」など上演されます。      

古代ギリシャの劇場

劇場は屋外です。音量マイクがないのですから、どうしてセリフが伝わるのか。不思議に思った私は、ステージに降りて行って、声を出してみました。最後列までしっかり「声が通るように設計」されているのですね。素晴らしい建築技術です。反円形のところがオーケストラ(orchestra)です。

古代ギリシャの仮面

物語の進行は合唱隊(コロス)が受け持ちます。コーラスですね。この前で「仮面」を付けた人が、それぞれの「役」を演じるのです。
 
変身願望と仮面
静岡市の「登呂遺跡」の片隅に「芹沢圭介美術館」があります。
ここで、染色家で民俗学が専門の芹沢圭介さんが、世界各地から集めた「仮面」を展示したことがあります。仮面は多様で、世界各地の地域文化により、全く異なる表情を見せるのです

芹沢コレクション 仮面

仮面は、シャーマンが「占い」・「祈り」・「予言」の時につけることが多いようですが、仮面をつけることで「巫女」になったり、「神」になったりするのですね。 東南アジアやアフリカの民族の表情は、特に多様です。

能面

私たちになじみが多いのが「能面」ですね。翁・小面・般若などいろいろな能面がありますが、舞台に立った演者は、仮面にそって「別人格」になっています。

<チョット寄り道> マスカレード(仮面舞踏会)

マスカレードは,もともと1年の決まった時に仮面,仮装の人が登場して踊り,豊作を祝福する季節的な儀礼のことです。
日本では、新嘗祭などで、巫女になった少女たちが「御神楽」を披露します。
ヨーロッパではマスカレードmasqueradeといいますが,これはマスクmasque(mask)(仮面)からきたとも,アラビア語のマスハラmaskhara(物笑いのたね)からきたとも諸説があります。

ロミオとジュリエットから

イタリアのヴェローナの街に、小さなベランダがある家があります。
観光客の人気スポットになっています。ここはシェークスピアの「ロミオとジュリエット」の素材になった舞台なのです。
中世のイタリア・ヴェローナの仮装舞踏会で知り合った二人は「相手が何者か」を知らないまま恋に陥ってしまいます。こうして,華麗な演劇的物語が出来上がりました。
 
私は、ベネティアの派手なカーニバルが大好きです。華麗で賑やかなカーニバルです。コロナ禍が去って復活したと聞いています。

ベネチアのカーニバル

<チョット寄り道> 変身願望 蝉の羽化


誰にも「変身願望」があります。
いくつもの仮面を持つことは無駄なことではありません。大切なことは、この「仮面をいかに使い分けるか」です。
「仮面の効用」は大きいのです。
サナギである貴方が、どんな羽化をして飛び立っていくか。愉しみです

 むかし、「羽化する蝉」を小学生の息子が、夏休みの自由研究で取り上げました。自宅の庭から「蝉のサナギ」を見つけてきて、羽化の様子を記録するのです。

蝉の羽化

少しずつ、少しずつ、時間をかけて「脱皮」して行く。その途中で絶対に羽根を触ってはいけない。固まってしまうからです。生命の掟です。      

<チョット寄り道> 生命の神秘
人間の生命も、10月10日をかけて、母親の羊水の中で、細胞分裂を繰り返し、少しずつ形をつくっていくのです。昔、人間が海の中で生命をはぐくんできたように・・・。「生命の神秘」です。仮面を剝いで、本来の姿になっていくのです。

仮面をつけて別人になる
私は仮面がいらない年齢になりました。
いや、いくつかの仮面が身についてしまって、意識しても、意識しなくても使い分けているのでしょう。
父の顔・夫の顔・仕事の顔・友達の顔・・・怖い顔・優しい顔も、仮面のうちに入るでしょうか。これからも「仮面の効用」を大切にしたいと思います。まだまだ、いろいろと「やりたいこと」があるからです。

  

 

     


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