清水多嘉示・作品紹介①《のぞみ》
私は半年前に東京から、八ヶ岳美術館のある長野県原村に移住してきました。原村に引っ越してきて最初に遭遇した清水多嘉示の彫刻作品は、転入届を提出しに向かった原村役場の入口ロビーにある裸婦像《のぞみ》でした。
1971年に現在の役場庁舎(当時はJA信州諏訪との合同庁舎)が落成した記念に設置された像とのことで、以来50年間役場に訪れる人を迎え続けています。
真剣さを帯びた口元とその眼差しから、女性の確かな気品やプライドが感じられます。清水多嘉示の作品に現れる女性のなかでも突出して気高さを思わせる彫刻作品です。
制作されたのは1968年、清水多嘉示が71歳の頃でした。《のぞみ》というタイトルからは、遠くを望むという直接的な意味に加え、女性の抱える未来への観想、その女性性から溢れる未来への希望が想起されます。個人的にはcomtemplationという英単語がぴったり合致する作品だなと感じます。
石膏原型は八ヶ岳美術館で見ることができます。石膏原型の生っぽい優しい雰囲気もいいですが、ブロンズ像になると光沢を増し、モニュメントにふさわしい存在感が出るように思います(照明の違いもあるかもしれませんが)。
下半身をよく見ると実はしゃがみこみながらつま先立ちになっていて、実際に自分で再現してみるとその体勢を維持することの難しさに気付かされます。両手の置かれた位置が身体のバランスをとるために実に自然な位置にあり、ブールデル的な構築性に富んだ彫刻作品と言えるでしょう。
この下半身の姿勢は他のいくつかの裸婦像にもみられる形で、清水多嘉示が長年研究を重ねたフォルムの一つでした。
《のぞみ》は八ヶ岳美術館や原村役場のほかに、長野県立美術館にも収蔵されています。
同じ作品と違う場所でも出会うことができるのは、(輸送される場合を除いて)彫刻にしかない面白さですね。
スタッフ・平林