4/4 三セク鉄道シリーズ 並行在来線
1-3 並行在来線のポテンシャル
しばし、その沿線地域にとって整備新幹線と並行在来線は”光と影”と比喩される。「特急街道」としての役目を終えた並行在来線の三セク化は、JRによる地方路線の切り捨てと批判されるからである。
国鉄改革期、国鉄再建小委員長を務めた三塚博は、並行在来線は、もはや「鉄道の特性」を発揮できないとしていた。
「新幹線と並行しない主要幹線の優等列車」に限れば、高速バスや航空としのぎを削りながらも、採算性を確保できるとしていた。
一方、新幹線開業以降の並行在来線における地域輸送の展望を、言及すらしていない。
1-3-1 地理的なポテンシャル
しかし、並行在来線はかつての主要幹線として、地方の主要都市を結び付け合っている。この地理的条件から相応の潜在需要を、沿線地域に抱えている。
そしてそうした路線の優等運用が、新幹線に置き換わり、地域輸送に専念できるようになった。
このため、都市鉄道に準じた経営施策が応用できる。
例えば普通列車のフリクエントサービス(高頻度運行化)や快速・ライナー列車の運行、新駅・P&R設置など利便性向上により、沿線地域の潜在需要を発掘出来うる。
三セク化後も「幹線(8,000人/㎞)」に肉薄・匹敵する輸送密度を担っている路線も見られる。
あいの風とやま鉄道は約7,500人/㎞、しなの鉄道は約6,800人/㎞の輸送密度を誇る。IRいしかわ鉄道に至っては、北陸新幹線の敦賀開業前までは金沢近郊区間のみを継承したため、15,400人/㎞となっている。
1-3-2 『特急街道』ゆえに取りこぼされていた需要
整備新幹線開業前の主要幹線では、特急・急行で線路容量がひっ迫していた。このため普通列車が、地域の需要に見合うだけ設定されていないことも、しばしばであった。
例を挙げると、信越本線はかつて碓氷峠を超えて、高崎と日本海側を結び付ける特急街道であった。その分ダイヤが優等運用に圧迫され、普通は軽井沢~小諸間では2時間間隔が基本で、はなはだしいときでは4時間以上もの間さえあった。
このため沿線に通う高校生は、部活加入を諦めたり、学校に無断でバイク通学に切り替えたりした生徒もいたという。
だが現在、同区間には上下28本に加え、土休日運転の2往復(軽井沢リゾート)が設定されている。
このうちの14往復は、平成22(2010)年8月より増便実証運行として『しなの鉄道活性化協議会』による費用負担で設定されている。同協議会は、沿線自治体や商工会議所などにより構成されている。
これにより全区間の、年度別輸送密度は減少傾向にあるものに対して、小諸~軽井沢のそれは、コロナ禍前まではむしろ増加基調にあった。
1-3-3 地域輸送の需要の受け皿:新駅の設置
先述の通り並行在来線は特急街道であったため、駅間距離が長い傾向にある。これにより、比較的短い距離での鉄道利用を諦めていた人々の需要を拾うべく、新駅の設置も盛んになされている。
IGRいわて銀河鉄道では、特に需要の旺盛な盛岡近辺に『青山』『巣子』の2駅が、しなの鉄道では『テクノさかき』『信濃国分寺』『屋代高校前』『千曲』の4駅が、青い森鉄道では沿線高校への通学の利便性向上のために『筒井』駅が、あいの風とやま鉄道では『呉羽』駅が設置された。えちごトキめき鉄道では『えちご押上ひすい海岸』が糸魚川の隣に開業した。
1-3-4 各地域に根差した経営努力
各社独自の企画きっぷも、積極的に発行されてきた。
特徴的なものにIGRいわて銀河鉄道が、平成20(2008)年11月より発売している「IGR地域医療ライン」が挙げられる。
これは高齢者が、盛岡市にある総合病院に通院するための長距離移動を、タクシー会社と提携して引き受けるサービスである。盛岡よりある程度距離のあるいくつかの駅の駐車場には、IGR地域医療ライン専用の駐車枠が設けられている。
かつて盛岡市内までの送迎に、マイカーでの往復を余儀なくされていた家族の負担が、これにより軽減されたのである。
また「IGR地域医療ライン」の運用に指定された電車には、アテンダントが添乗している。
他には「中学生往復半額きっぷ」により、週末や長期休みの間、地元中学生に鉄道利用を促している。これによりクルマ社会でも鉄道の乗り方になれてもらい、高校進学以降も鉄道通学が選択されるようにする意図がある。
1-3-5 沿線地域社会からの協力・経営参画
北陸本線沿線では平成19(2007)年より、『北陸連携並行在来線等活用市民会議』が市民団体主導により開かれていた。これを通じ、平成20(2008)年5月の中間報告では、「地域公共交通の基幹として再生」「(行政による)積極的な投資」「地域ぐるみでの利用促進」が発表された。民間側からも並行在来線を、社会資本として利活用する素地が用意されていた。
くわえて転換前より、P&Rの普及をはじめ利用促進策がとられてきた。これにより推計の輸送密度は7757人/㎞日(H23)から7800人/㎞日(H24)とわずかとはいえ、年間での利用者数を増加させている。
1-3-6 快速運用の拡充
あいの風とやま鉄道では、ラッシュ時に快速『あいの風ライナー』が設定されている。
しかし当初設定されていたこの夕方の下り1本は、普通に置き換えられた。地域鉄道としてのこまめな停車が、実際には求められたからである。
一方、しなの鉄道では上田~長野を無停車で結ぶ、有料ライナー『しなのサンライズ』『しなのサンセット』が令和2(2020)年、専用の新型車両導入により設定された。近年「有料快速の増発」は同社の経営改革における、主要な施策と位置付けられていた。
長野市のほか軽井沢や、小諸、上田といった都市が点在する地理的な環境に加え、北陸新幹線や上信越自動車道が、地理的にしなの鉄道のライバル関係にある。このため、まとまった通勤需要を奪取する意図もあるようだ。
速達列車ひとつとっても、各地によってその需要はまちまちである。これに対して自治体ごとに独立した会社は効果的に、各沿線地域の輸送需要に応えられているといえよう。
1-3-7 観光列車への挑戦
都市輸送に恵まれなかった路線では、観光需要の開発に積極的である。
肥薩おれんじ鉄道の、本格的な食事の提供で先鞭とつけた『おれんじ食堂』や、道南いさりび鉄道の『ながまれ海峡号』などが挙げられる。
えちごトキめき鉄道では、首都圏から富山方面に向かう客足を下越に振り向けるべく、開業時より『雪月花』が走っている。またかつて鉄道の要衝であった直江津機関区跡とタイアップさせて国鉄型『観光急行』が運行されている。
(了)
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