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第3部 第三セクターシリーズ 並行在来線

第1部:地域鉄道に生まれ変わる並行在来線

1-1 これまでの三セク転換線区の概略


 整備新幹線(整備五線)と並行在来線型三セク路線は、同日に開業してきた。しなの鉄道(北しなの線)や青い森鉄道(八戸~青森)のように、整備新幹線延伸に伴い、継承する在来線区間も伸びた会社もある。この延長区間も、新在同日で開業してきた。新幹線開業前日付にて、JR線としての廃止届が、第三セクター転換される区間には出される。
 かくして整備五線では、並走する“JRの”在来線が消失する。したがって運賃計算は、在来幹線の別線としてではなく、「単一の路線として旅客の取扱いをする」ものとされた。


 肥薩おれんじ鉄道を除き、並行在来線を引き継ぐ三セク会社は県・道ごとに独立して発足してきた。
 この理由は「地域鉄道」として、沿線の需要に密着したダイヤを組みやすくするためと、組織の過大化防止といわれている。
 転換後数年程度すると、よく輸送指令システムもJRより分離されている。
 また自治体をまたいでの経営、共通の運賃とすると、利用者数の差により、収入にも格差が生じる。この調整がややこしくなることを避けるためである。
 一方、共同経営とすれば車両基地や検修設備を共有できるなどの利点もある。事前の、県境をまたぐ通勤通学などの旅客流動分析も踏まえ、三セク会社のあり方は決められている。
 ならびに運行とインフラ保有が別の主体となると、沿線の需要に対するきめ細やかな施策が、やりづらくなる。このため並行在来線型三セクでは、上下分離方式があまり採用されていない。 

『しなの鉄道』と『えちごトキめき鉄道』が接続する妙高高原駅(H28(2016).8)


 三セク会社同士で境界駅は、基本的に県境より、最も近い駅が選ばれる。ただし形式的な境界駅と、実際の運行上のそれが、異なる場合もある。
 例えば『IGRいわて銀河鉄道』と『青い森鉄道』の境界駅である『目時』は、棒線駅である。そのためこの駅での接続、折返しはなく、両社は相互直通運転をしている。同様にあいの風とやま鉄道とIRいしかわ鉄道の境界駅は『倶利伽羅(くりから)』であるが、両社では相互直通運用のダイヤが組まれている。
 他にも『あいの風とやま鉄道』と『えちごトキめき鉄道』の正式な境界駅は、新潟県側にある『市振(いちぶり)』である。だが実際にはほとんどの列車が、その2つ先にある富山県内の『泊』にて接続している。
あるいは青い森鉄道では、同社線内でも八戸で運行系統を区切り、沿線の輸送需要に対応している。


 このように地方自治体ごとに異なる会社線になり、運行系統が杓子定規なブツ切りになったわけではない。
 JRと三セクでの境界駅は、JR及び沿線自治体の同意を得て、確定した分離区間に基づき設定される。
 このため必ずしも、整備新幹線と並行在来線型三セクの区間が、一致するとは限らない。
 例えば長野新幹線(北陸新幹線)開業に際して、信越本線と篠ノ井線が合流する、篠ノ井~長野はJR東日本のままとされた。
 ほかにも九州新幹線西九州ルート(鹿児島ルート)では、鹿児島本線の博多や熊本、鹿児島といった主要都市圏内の区間は、JR九州が引き続き保有、運行している。
 昭和48(1973)年に決定された整備計画は、現在も未完である。
 現在、北陸新幹線の敦賀延伸に伴い、北陸本線金沢~大聖寺はIRいしかわ鉄道の営業区間を延伸する形で、また福井県内の大聖寺~敦賀が、令和6(2024)年3月16日に、『ハピラインふくい』に移管される。
 



 だが直近では前例にない、並行在来線の存続方式も現れだした。かつては三セク化以外に方法はないとみなされていたというが、あくまで覚書による取り決めで、法的拘束力はない。
 西九州新幹線(長崎新幹線)開業に際しては、(一社)佐賀・長崎鉄道管理センターが長崎本線(江北~諫早)の地上設備を保有する、上下分離方式をとっている。これによりJR九州による運行が継続されている。
 また北海道新幹線の札幌延伸に伴い、函館本線の山線廃止が事実上決定された。並行在来線の廃止は、群馬県が存続を断念した、信越本線の横川~軽井沢に続き2例目となる。
 現状、長万部~倶知安では、全通する普通列車が日に4往復半しかない。このため鉄道存続の必要性が、沿線自治体から認められなかった。
 また同線の函館~長万部についても、存廃の議論が浮上している。新幹線開業後、同区間の予測された輸送人員は95人/㎞である。一方、同区間は青函トンネルとつながり、本州との貨物輸送ルートを形成している「函館本線海線」の一部でもある。
 このように貨物輸送では引き続き、主要幹線として機能する区間もある。こうした路線のために今後、三セク会社設立に変わる、新たな存続の枠組みづくりが求められよう。



1-2 三セク会社発足までの手続き


 整備新幹線建設が本的格に動き出すと、並行在来線転換に向けた手続きは、活発となっていく。
 具体的には三セク準備会社の発足に、鉄道事業免許(第1種鉄道事業・青い森鉄道の場合は第2種)の申請、およびそれによる国からの許可取り付け、また公募による愛称の決定がなされる。準備会社であった場合は、増資により本格会社に移行される。あわせてJRより継承される鉄道資産の、譲渡価格が協議される。
 会社立ち上げにくわえて、移管後の経営計画を構想する対策協議会(検討協議会、準備協議会などとも)が発足する。協議会は県など、地方公共団体主導により立ち上げられる。
 また三セク会社自体への出資とは別に、地元自治体や企業による、経営安定基金が創設されることもある。これが運賃補助や設備の改良にあてがわれる。
 設立される三セク会社の出資比率は、県を筆頭に沿線市町村、地方銀行に信用金庫、沿線地域の各企業に商工会議所などが名を連ねている。



 多くの路線では三セク化により、運賃が値上げ改定されてきた。具体的には、JR時代より1.2~1.3倍程度に改定されている。
 このため「激変緩和」措置期間を設け、転換開業時とその数年後の2度に分けて、改定がなされてきた。
 また定期券、特に通学定期については値上げ幅を1.05倍程度に抑える。あるいは別途自治体が先述の経営安定基金を用いて、JR時代との差額を一部補填するなど、公共性を鑑みた配慮がなされている場合もある。
運賃値上げの理由は近距離利用を中心とする輸送で、採算を合わせるためである。JR時代のように、大都市圏や新幹線などからの内部補助ができなくなった。加えて、駅勢力圏の人口も将来的に減る見込みである以上、利用減少は避けられないとみられているためでもある。
 加えて、県境やJR区間などを乗り通せば、単算運賃により清算されるようになった。すなわち、他社区間での初乗り運賃分も支払うため、分離前より割高となるようにもなった。
 ただしこちらについても、新型コロナウイルス感染拡大前までは、乗り継ぎ割引が適用されてきた。
 また新在で都市間輸送で競合して、二重投資となりえない地方交通線は、引き続きJRが運行している。例えば長野以西の北陸新幹線開業に際して、飯山線の一部区間(豊原~飯山)は分離対象とならなかった。
 北海道新幹線の場合、JR北海道が運行の委託先となった。このため、JR東日本の津軽線は二重投資に当たらないとされた。
 現在では並行在来線型の三セク会社にも、他の地域鉄道に準じた支援策が適用されている。例えば行政側からの支援として、税金の減免がなされている。具体的には登録免許税、不動産取得税を非課税とし、固定資産税、都市計画税は開業後20年間半額としている。
 以後の運行を託すJR旅客会社からは、鉄道インフラが実質無償にて整備されて引き渡される。また運行管理や研修の即戦力となり、三セク会社が自社採用した社員を育成するJR社員が、一部賃金をJRが負担する上で派遣されている。

(続)

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