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怖い絵と怖い話 ③真夏の谷中で一挙公開。幽霊画展の話

1  全生庵を知っていますか


日本の怪談を愛する人たちへ。
毎年8月は東京都台東区、谷中で夏を満喫してほしい。

幽霊画がずらり。全生庵で待っています。

全生庵、最高なんすよ。

わずか500円、谷中の立派なお寺の境内で、江戸から明治期の幽霊画を見られます。

すべてが幽霊画です。
白い着物に脚がなく、すっと浮かぶように現れる。なぜか女性ばかりで、現世に恨みを持っていることが多い。典型的な日本の幽霊の姿ですね。

日本写生画の祖と言われた、円山応挙(1733-1795)。
美人画で有名な鰭崎英朋(1880-1968)、鏑木清方(1878-1972)。
ちょっとアレな「責め絵」がドキドキ、伊藤晴雨(1882-1961)。

名画家たちが描く個性豊かな幽霊画です。

※彼らを検索すると、見たことのある代表作がたくさん出てきます。「あ、あの絵か」の人たちです。

日本初の洋画家、高橋由一(1828-1894)の幽霊画もありました。
由一の絵は、やはり少し洋画っぽく見える。男の幽霊なのですが、髪は断髪、その顔の線が、洋画のイラストっぽいのです。

涼しくひんやりとした床をギシギシと歩きながら、何幅もの幽霊画を間近に見られます。

心がスーンとして、ちょっと魂を抜かれるよう。折しも季節はお盆。豊かな時間です。

私は今回で5回目の訪問でした。

コロナ明けの4年ぶりに来ました
「やっと会えたね(©️辻仁成)」

【開催概要】

全生庵 幽霊画展
・場所:全生庵(東京都台東区谷中5-4-7)地図 : https://zenshoan.com/access/
・期間 :2023年8月1日(火)~8月31日(木) ※土日祝祭日も開催
・開館時間:10:00~17:00(最終入館16:30)
・拝観料 :500円
・アクセス:JR・京成電鉄 日暮里駅 徒歩10分/東京メトロ千代田線 千駄木駅(団子坂下出口)徒歩5分

幕末の三舟の一人、山岡鉄舟がお寺を開きました
安倍元首相が坐禅を組みに来ていたことでも有名
靴を脱いで上がります
ポストカード・グッズ・図録もあります。
左下は、鏑木清方の作。
拝み倒すように茶を差し出す女性の両手は、骸骨寸前です。お願い、顔を上げないで。

2  幽霊画コレクターとは

2-1.三遊亭円朝(1839-1900)


三遊亭円朝は、江戸末期から明治期に活躍した落語家です。
彼は、客を笑わせる滑稽噺よりも、人情噺や怪談噺を得意とする名人でした。

江戸期に武家で起きたお家騒動や、市井のうわさ話をアイデアに取り入れた創作落語。これを円朝が発表すると、人気演目となり、彼の創作した落語は現代に伝わる名作となりました。

【三遊亭円朝 代表作】
・怪談噺
『真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)』
『怪談牡丹灯籠(かいだんぼたんどうろう)』
・人情噺
『文七元結(ぶんしちもっとい)』
ほか

円朝が怪談噺の参考として収集したものが幽霊画です。当時、柳橋の料亭で開催した百物語の怪談会にちなんで、100点の収集を目指していたそうです。

それらの幽霊画コレクションは、円朝没後、名跡を守ってこられた藤浦家から全生庵へ寄贈されました。

2-2.円朝のお墓へ


円朝さんのお墓は、全生庵の境内にあります。

本堂の裏にあります。表示が親切
今年も幽霊画を見せていただきました

谷中では、毎年8月に円朝まつりが行われます。

3  私の家の話。座敷わらしの正体は

捕まえたらハクビシンでした。

天井裏に何かがいる。
四つん這いで、ものすごい速さで這い回っている音が、上から降ってくる。
同じ天井裏の一角には、親を呼ぶ子の鳴き声がちゅいちゅいと聞こえる。

この春に、祖母の家で起きた事です。

祖母が昨年の夏に99歳で亡くなってから、古い家は主人を失ってしまいました。

私と母がたまに来て、掃除はするものの、それっきり。掃除をしても住むわけではない。
田舎にあるこの家は、便利な都心で生活する遺族にとっては、頻繁に立ち寄る場所ではありません。

つまり今、ちょうどいい空き家になっています。

この土地に棲息する者たちがこれを放っておくはずがない。

そりゃ住むね。野良猫。ねずみ。ハクビシン。座敷わらし。

天井を這い回る正体不明の音を聴いたとき、私は、昔の人が感じていた、座敷わらしの意味を理解したのでした。

4  幽霊画に描かれた子どもは

どんな大人も、昔はみんな子どもでした。

子どもの心はすぐ夢中になる。

ガチャガチャを1回することが、どうしてあんなにドキドキなのか。
ハムスターを飼うことを親に許してもらって、天にも昇る喜びの舞。
学校が休みでお菓子とゲームさえあれば、永遠に生きていられると思う。

なぜなのか。
それは子ども自身が希望の塊だから。

鉛筆を見つめて、いつか自分の超能力が開花したら鉛筆が浮くかもしれないと、本気で練習している子がいる。かつての私です。

これを希望と言わずして何なのか。

全生庵には、赤ん坊を抱いている幽霊画があります。この幽霊は赤子の父親です。

妻の浮気相手によって自分が殺された恨みと、この世に残した我が子への思いが溢れている。
彼は鬼のように恐ろしい顔で、赤ん坊を抱いています。
その腕には、赤い頬で穏やかに眠る赤ちゃんがいます。

伊藤晴雨『怪談乳房榎図』
(↓サイト内、3枚並んだ画像の一番左)

この怪談『乳房榎(ちぶさのえのき)』も、三遊亭円朝が得意とした怪談噺でした。

歌舞伎になり、現代も上演されています。

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