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『アニエスv.によるジェーンb.』と『カンフー・マスター』を上田映劇さんで鑑賞した感想記事


昨年に急逝したジェーン・バーキンの追悼記念上演として、上田映劇さんで上演された2本の映画を鑑賞してきました

フライヤー表
フライヤー裏

『アニエスv.によるジェーンb.』

ジェーン・バーキンについては、日本のドラマの主題歌になった曲がとても好きだったのと、エルメスのバッグの名前の元になった人、という情報だけを持って鑑賞しました
冒頭はティツィアーノの絵画(多分)の場面を模した扮装のジェーン・バーキンが40歳の誕生日を前に30歳の頃を回想する場面からで、イギリスのホテルでまずいリキュールを飲んで嘔吐した話から始まる すごくかましてくれる
ジェーン・バーキンの人となりに迫るドキュメンタリー映画…なのかも知れないけど、描かれているのは様々なモチーフに扮した彼女と、監督との対話が交互に挿入される、美しくおいしいとこ取りのポートレイト集のような趣向
色んなジェーン・バーキンを撮りたい、見せたい、という執念を感じる
前述のティツィアーノや、アンリ・ルソー、エドワード・バーン・ジョーンズの絵画(多分)の人物を模した、コスプレの最上級の艶姿を堪能できます
ゴヤの『着衣のマハ』と『裸のマハ』の姿を堂々と披露されていて素晴らしい
他にも“すごく映画的な”場面を様々な台詞と扮装で見せてくれる
西部劇のガンマン、ターザンの恋人ジェーン
スペインの踊り子、画家の恋人と争う画商
白黒映画の冴えない失業者の男
霊感を与えた恋人を喪ったミューズ
亡くなった暴力夫を愛し続ける寡婦
火刑に処されるジャンヌ・ダルク
そんな様々な姿を演じてみせるけど、監督との対話で感じ取れるのは、飾り気のない素朴で朴訥とまで言える程の雰囲気で、3人の娘さんの父親は3人とも違うとか、過激で大胆なグラビアや映画も(美しく撮ってくれるなら)厭わない姿勢とか、エロスとスキャンダラスな情報とのギャップがたまらない魅力があります
共演している動物が可愛いのもよいし
ジェーン・バーキンの家族も一緒に話してるところの仲良しな笑い声もよいです
全編を通じて聞こえる彼女のフランス語(は、イギリス訛りなのだそう)の心地よさで、お洒落な感性に浸れる映画でした

でも、何気に一番好きな場面は、ジェーン・バーキンがその名を冠したエルメスのバッグを持っていたけど、詰め込みすぎでバッグは観る影もなく型崩れしていて、中身も見せてくれたけどゴミや書類の束や裸のしわしわのフラン紙幣とか、あとなんかよく分かんないものがどさどさ出てきたところです 自分のカバンに似てた

ところで、
この映画の監督であるアニエス・ヴァルダとの対話の中で「15歳頃の少年と恋をする映画はどうか?」との企画が持ち上がり
40歳のジェーン・バーキンの相手役の少年に監督が自らの息子を推薦する場面なんてのもあった
いや、15歳とは駄目でしょう…
何やってんのジェーンと監督…と戦慄を感じながら観たのが、もうひとつの映画『カンフー・マスター』でした


『カンフー・マスター』

自分の娘と同級生である15歳の少年と、恋に落ちてしまう40歳の女性の映画ですが、論理的な問題などはどのように対応しているのか興味津々で鑑賞しました
しかし、特に対応はしていませんでした
よく確認したら1988年の映画だったので、未成年の保護の意識や不同意性行等罪などの感覚が今現在より緩かったのだろうか

でも映画として見てとても、恋心が美しく切なく描写されていたし、少年にも女性にも感情移入してしまう説得力はあった
台詞のテキストでの説明より、ふたりの眼差しや待ち焦がれたキスで、はっきりと 
ジェーン・バーキンも相手役の少年も、役者さんがとにかく素晴らしい

でもストーリーはよう分からんところだらけで、ふたりの関係は娘にも知られてしまうけど、更に(娘から見て祖母にあたる)母親もそれを察して、どうしても離れたくないでしょうし少しの間だけでもふたりで別荘で過ごしなさい、と孤島に送り出してくれたりする どういう展開?
そして、美しいかりそめの時を過ごしたふたりの関係は、結局公のものとなり、激しい非難を受けて引き離される
そこまでで、隠す気配りをしてない堂々さが凄い 展開が読めなさすぎる

あと、少年の方がアーケードゲームの『カンフー・マスター』(日本でのタイトルは『スパルタンX』)をやっていたり
学校での話を彼女に聞かせる時に『ダンジョン&ドラゴンズ』をプレイしてる事を話したりしていたので、恋愛いいからゲームの尺をもっとくれ! とゲーム&TRPG好きとして思いました めちゃくちゃ気が散ってしまった
『D&D』の説明を聞く彼女が、ただ彼が語るのを聞いていたい…と、恍惚の表情でいて内容には上の空なので
「よし! じゃあ、おばちゃんともD&Dすっか! ゲームマスターやったげるぞ!」と映画の中に入りたくなった
そう、美しい映画で恋愛を描いていたけど、そんなんよりゲームしてあげたい衝動に駆られてしまったのです
傷つけあう恋愛相手より、ゲームの友だちになればいいのに…そうぶち壊したくなる映画でした

『ジェーンb.~』と続けて観ることで、この作品の虚構性と寓話性はより、はっきりするので目くじら立てるもんではないのかも知れない
けど、娘役の女優さんはジェーン・バーキンの実の娘であったり、彼と過ごす孤島に送り出す母親も実の母親だったりするので、どういう気持ちでこの映画を製作されたのだろう…と本気で分からなくなる そして15歳の彼は監督の実の息子さんなのだが、実母としてそんな役柄演じさせて良いのだろうか? フランスわかんねえ、ってなってしまう映画でした 議論の種にはいいのかも知れないけど…


こちらは恒例の、上田映劇さんのはんこです

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