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朝のルーティンから考える「世界のニュースを日本人は何も知らない」ということ

「世界のニュースを日本人は何も知らない」を読んだ。

筆者の谷本真由美さんは元国連専門期間職員で、日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国で働いた経験をもち、Twitterでは「May_Roma」(めいろま)さんとして歯に絹着せぬ物言いが素晴らしい人物としてご存じの方も多いのではないでしょうか。
この「世界のニュースを〜」はシリーズ化されていて、昨年12月に第4巻が発売されている。本巻はその1巻目で初版発行は2019年10月と少しばかり昔になりますね。

冒頭、筆者は「日本人」に対して問題提起をしています。なぜ、世界のニュースを日本人は何も知らないのか。そして、シンプルに2つの理由を示しています。

「世界はひとつ」の時代にもかかわらず、日本人は世界から取り残されつつあるのです。グローバル化が進み、通信技術が発達し、さらにいえば日本は政府による検閲もなく、表現上の規制も世界最小限の国のひとつであるのに、他国との情報の往来にはいつまでも透明な障壁が存在しています。
 それは一体なぜでしょうかーーー。
ひとつは、日本のメディアは非常に閉鎖的であるということです。
もうひとつの問題は、そもそも日本人は外部のニュースに興味を持っていないということです。

ところで、皆さんの朝のルーティンは何でしょうか?

  • モーニングサテライトでマーケット情報をチェック

  • 日経新聞電子版で昨日のトピックスを流し読み

  • 地元紙で取引先の記事掲載がないか、おくやみ情報に取引先の関係者の名前がないかをチェック

  • めざましテレビの朝の星座占いを見てから家を出る

特に意識も高くなく、ごくごく平凡に銀行員生活を過ごす私の場合はこんなところでしょうか。
その他に資格試験や業務検定に向けて、出社前や会社近くのカフェで勉強することもあります。(Twitterを始めてからは、銀行員の方でもいろんな資格試験に向けて取り組んでいる方を目の当たりにしました…)
そして、会社に出社してからは、毎日大量に発行されている通達文書に目を通し、朝ミーティングでは進捗率の悪い項目の各自のリストとアタックする日にちを確認され…といった具合でしょうか。
正直、ただ毎日の仕事をこなすだけであれば、これくらいの朝のルーティンや情報チェックで日々の仕事はそれなりにやれていしまいます。

ただ仕事をこなすだけであれば、です。

個人の価値観にもよるので、決してそれが悪いことではありません。しかし「やりたいことをやりたいようにやる」とか、「なにかの実績や能力で他人に差をつけたい」と思うならば、そのために必要な情報を取捨選択し、正しく「判断」する必要があります。
ところが、この「必要な情報を取捨選択し、正しく判断する」こと自体が現状では大きく歪んでしまっているのだと、筆者は指摘しています。その理由が、

ひとつは、日本のメディアは非常に閉鎖的であるということ

であり、

もうひとつの問題は、そもそも日本人は外部のニュースに興味を持っていないということ

だと言えます。
その典型的な例が朝のニュース情報番組です。海外と日本ではテレビや新聞で報道されるニュースが他の先進国と比べて大きく異なっているそうです。
とある日のトップニュースを日本と世界で比べてみます。

・老人の車が暴走
・あおり運転事件続発
・崎陽軒のシウマイが売り切れ etc…

朝のニュースではよく見かける類の内容です。私自身も星座占いの前後ではこうしたニュースを見ています。
一方で海外(主にアメリカやイギリス)の場合はどうかといいますと、

・オピオイド危機でジョンソン&ジョンソンに判決
・アマゾンの火災でブラジルが貿易交渉でEUを脅す
・レバノン大統領がイスラエルのドローン攻撃は宣戦布告と述べる

ぱっと見ただけでも随分と内容が異なっていますよね。海外のトップニュースはNHKの夜遅めの番組なんかで流れていそうな内容です。
これは日本が島国であり、メディアが閉鎖的ということだけでなく、読者や視聴者側もまた外部のニュースに興味を持っていない、というより持たなくても生活していけるからこそ起きていることと言えます。
日本は政治的にも経済的にも比較的穏やかな国です、表面的には。しかし、それは日本を内側から見ているからに過ぎないのかもしれません。

多くの日本人が抱いている“スゴイ日本”のイメージはなく、すでに経済成長が終わり、世界で最も早く高齢化と少子化という問題に直面する大変厳しい状況に置かれた先進国であるーー、それが外国での日本に対する認識なのです。これは政策や金融の専門家などに限らず、世界では一般的に知られていることといっていいでしょう。

仮に筆者のいう姿が海外から見た正しい日本の姿だとすると、私たちは海外だけでなく日本のことすら正確に把握しきれていないのでしょう。
私はこの本を読み始めてから、ずっと日本や日本人を「銀行員」に否応なく読み替えて読んでいました。世界のニュースを銀行員は何も知らない、のだと。

会社がいうとおりに研修を受けて働いていればスキルアップし、給料も自然と上がり、クビを切られることはないと信じ込んでいる人の多いこと。なかには非正規雇用者や、いつリストラされるかわらかない中間管理職の人もいて、自分の置かれた現実を直視せずに昭和的な感覚で会社との関係を捉えているわけです。
長らく終身雇用が一般的だった日本とは異なり、他の先進国では転職が当たり前だし、数年スパンで転職を重ねてどんどんスキルアップしていく人もたくさんいます、成果を出さなければあっさり解雇されることもめずらしくないので、受け身になってのんきな姿勢で生きるということは、自分の人生を破綻させることにつながりかねないのです。

知識もスキルも受け身でいることーーそれは「今はまだ」いいのかもしれません。あと数年で定年退職を迎える支店長クラスの方々はそれで逃げ切れるのかもしれません。
しかし、社会人経験10年ほどの私のような世代にとっては、その判断が命取りになる。今のままでいるには今のままではもうダメなのでしょう。
私が日々繰り返している朝のルーティンによる情報チェックではいかに偏った情報しか捉えられていないか、本書を読んでいくとそれがよくわかります。

各章で「政治」や「教養」、「国民性」などに分けて筆者は世界の実情を示してくれます。もちろんその内容がすべてではないですし、本書の終わりのほうでは、「正しい知識を身につける方法」として信頼すべき情報ソースについても示してくれています。
能動的になるには、まず正しく情報を得ることが、自分自身の判断のための土台となるはずです。

この正しく情報を得るという作業はなにも海外や日本の情勢に関わる特別なことではありません。
銀行員にとっても、生の決算書(確定申告書含む)や直接取引先や物件の現場を見に行くとか、取引先の口座の移動を1年分見てみるとか、日々の業務の中でも当然に求められていることなのでしょう。

情報の提供先のひとつとしてインターネットが挙げられますが、そのインターネットが「適切な情報がなんの制限もなく利用者に届けられることがいかに難しくなっているか」を指摘したイーライ・パリサー著『フィルター・バブルーーインターネットが隠していること』(ハヤカワ文庫NF)について次回は書いてみたいと思います。

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