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【奇談】 未来の声

昨年(2021年)に友人が体験した奇妙なお話。

愛媛県出身の男友達がいる。
彼の父親が長崎県生まれということで、ゴールデンウィークなどの少し長い休みには父親の実家に帰ることが多かった。

いつものように休みを利用し、長崎に帰った時の事である。

家の裏手は山になっており、手入れはあまり出来ていなかったらしい。
木々が覆い茂ってきているので草刈りを手伝って欲しいと頼まれた。

作業にはチェーンソーを使った。
彼はチェーンソーを使ったことがなかったが、まぁなんとかなるだろう。そんな気持ちでひと通り使い方を教わり作業にとりかかった。

二人はお互いに背中を向けた状態で、別々の方向を手分けして作業した。
ときおり父親から、危ないから気をつけてやれよ。と声をかけられる。

作業は順調だ。
チェーンソーもけっこう面白いもんだな。なんてことを考えはじめていた。

「うわぁっ!!」

突然、だれかが驚くような声が聞こえた。
どこかで聞いたことがある声だ。どこから聞こえたのかはわからない。

作業を中断し、背中側で作業している父親の方を振り返る。
エンジン音に負けないよう大きな声で聞いた。

「今、何か言うたー?」

父親も作業の手をとめる。
「んー?何も言うてないぞー」

何だったのだろう…?気のせいだったのかな?
首をかしげつつ体を正面に戻し、作業を再開しようとした。その時…

ふと目に入ってきた。
祠だ。

縦にしたビールケースのコンテナほどの小さな祠。
草に覆われていて気がつかなかったのだが、ひっそりと祀られていた。
おそらく手入れなどもされていないだろう。

さっき聞こえてきた声といい、少しだけ気味がわるいとは思ったが気にしないよう作業を再開した。

大きな木の剪定にとりかかる。
彼は大きな木から横に伸びている太い枝にまたがった。

またがった状態のまま、枝の上側からチェーンソーの刃を通していく。
三分の一ほど切れた時点で、今度は下方向から刃をいれた。

実は、チェーンソーで横になっている木を切る際には、先に下側を切っていかないと木に刃が挟まってしまうのだ。
そしてそれを無理に動かして抜こうとすると、チェーンソーの刃がはじかれて跳ね返り、大事故につながりやすい。

もちろんそんなことを知る由もない彼。
上側を先に切ってしまい木に刃が挟まってしまった。

やっちゃったなーとは思ったが、刃を回転させながら前後に動かせば抜けるだろうとたかをくくり、動かした。

バンッ!!!

大きな音と共にチェーンソーははじかれ、唸りながら回転する刃先がすごいスピードで右脚にとんでくる。

「うわぁっ!!」

チェーンソーは彼の太もも上を鋭くかすめ、作業着が切り裂かれた。

しかし、彼の脚はどうにか無事だった。

布一枚分の厚さ。わずか数ミリ。
奇跡的だと感じた。

もう少しズレていたら自分の脚がなくなっていたかもしれない状況に肝を冷やしながら、ハッ!と気がつく。

さっき聞いてた声…… 俺の声や…

どこか聞き覚えのある、驚く声。
それは自分自身の声だと、直感的に理解した。

どういう理屈かはわからないが、少し先の未来で発した自分の声を聞いていたのだ。

一体、何だったのだろう?
よくわからない状況に立ちつくしていると、ふたたび祠が目に入る。

祠が注意を促すために声を聞かせたり、助けてくれたのかもしれない。
キレイにした方がいいのだろうか…?

そうは思いつつも、彼はこの不可解な体験を受け止めきれなかった。

結局その後、祠には近づくことなく帰ってきたそうだ。


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