【赤黄色の金木犀/フジファブリック】感想
1番好きなバンドの1番好きな曲。
必ずこの季節になると聴く。
郷愁を誘う歌詞だし、元々アコースティックなアレンジをする構想もあったらしい。
でも今の8ビートのバンドサウンドアレンジがバッチリハマってる。
クリーントーンのギターとロックオルガンの高音が澄んだ秋の空気感を感じさせるし、イントロのアルペジオが「日本の秋」過ぎて"たまらなくなって"しまう。
外国人から見たよそゆきの日本じゃなくて、平屋とか水たまりとか田んぼの中の畦道とか、灰色かったり茶色かったりする日本のノスタルジーを音にしたらこうなる、っていうイントロ。
※※※ここから先は、自分はこの曲の歌詞を「こういう風に解釈して楽しんでる」という話であり、正直身も蓋もない「要約」をしてしまったりしている。 不粋な行為だとは重々承知してるけど、それでもって人だけこの先を読んでほしい。
「もう会うことのない人に、言いたかったけど言えない、言わなかった事を言語化して反芻している」ところから始まる。
個人的な感想だけど、言外にはもう一度会いたいという願望があって、それを頭では分かってるからこそ整理を付けようとしてる、と捉えている。
春が来て、暑い夏が来るもんだと思っていたらあっという間に秋が来て、肩透かしを食らったような驚きで「もう秋か」という感覚なんだと思うけど、ここも言葉で説明されてないだけで、「別の事に気を取られてた」という情報が隠されてるような気がする。
主人公はもう二度と会えなくなった誰かに未練がたらたらなので、その人と会えなくなった事を考え続けてたんだと勝手に思っている。
過去を振り払って未来の予定を立て始める部分。ここで演奏隊もテンポが上がるのが演出として神。
サビ。金木犀の匂いは懐かしい感覚になるけど、金木犀を修飾する言葉は匂いについてじゃなく「赤黄色」であるという色の情報である。
"何故か""無駄に"胸が騒ぐのは何故だろう。
過去に囚われていた主人公は、未来に目を向けて文字通り歩き始めるんだけど、金木犀の匂いがした。そこで匂いに意識をとられて、予定(残りの月にする事)を考えていた頭の中は金木犀のイメージが塗り潰していく。だから、金木犀は見てないけど、頭の中の金木犀のイメージとして鮮烈に色を放つ。
Cメロ
金木犀の匂いが「ものを懐かしむ気持ちを思い起こさせる力」を待つと思った主人公は、それをあてに意識をして金木犀の匂いを嗅ぐ。
"過ぎ去りしあなた"を強く思い出せると考えてのことだと思うんだけど、結果は"期待外れなほど感傷的にはなりきれ"ない。
この心の機微の切り取り方が上手くて聴くたびに唸ってしまう。
「ノスタルジーに浸ってあなたを思い出す」ではなく、その「ノスタルジーに浸ろうとしたけど、その程度ではダメだった」というリアリティ。その体験自体が郷愁を誘うという入れ子構造が見事すぎ。
目を閉じるたびに→眠るごとに、日を経るごとにっていう意味と、躍起になって思い出そうとする度にっていう意味の2通り考えられる。
あの日の言葉が消えていく
→"過ぎ去りしあなた"に言われた言葉。
身も蓋もなく言うと
思い出は日を経るごとに、思い出そうとするたびに消えていって、考えるのに疲れて頭の中を整理し始めていたところに金木犀の匂いがして、思い出を忘れたくない焦りを思い出す。ただ、金木犀の匂いは忘れそうな思い出を揺り起こすほどの作用はない。という話だ。
この前に入るキーボードソロもめちゃくちゃイイけどね。グリッサンド多用するキーボードパートは最高すぎる。
ここで影が伸びているのも(自分の中では)解釈が2通りある。
気付かないうちに年月が経ち自分が成長していたから→目を閉じるたびの解釈を眠るたびにするとこっちが都合良い
気が付かないうちに時間が経って、太陽が低くなった→冷夏が続いたせいか今年は、と言う歌詞とはこっちの解釈の相性が良い
どちらにせよ、自分を置いて周りが進んでいくことに取り残されたような寂しさや焦り、困惑を抱いている部分だと思う。
そこでもう一度サビ
さっきは「忘れたくないことを忘れそうな焦り」から胸騒ぎがした金木犀の香りだが、一度過去を思い出そうとして意識して金木犀の匂いを嗅いで、主人公の心境はどう変わっただろう。
1回目と同じことを思っててもおかしくないけど、個人的には「過去を振り返るうちに取り残された様な感覚を経て、いつまでも過去にしがみつかないで先に進もう」という焦りが胸騒ぎになってたのかな、と思ってる。
終わり。
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