なにげに文士劇2024旗揚げ記念連載#2【一穂ミチ】
私信
文:一穂ミチ
文士劇、というものにお誘いいただき、「文士」の部分にも「劇」の部分にもまったく自信がないのだけれど、おもしろそうなので「やります!」と軽率に答えた。去年九月の決起集会では「なるべく台詞のすくない役を……」「木の役を……」と志願するメンバー続出で親近感しかなかった。演目って『与作』でしたっけ。
そのすぐ後、旅先でトレッキング中に足を挫いてしまった。不幸中の幸いというべきか最終日だったので翌日は亀の歩みでよちよち帰宅し、しばらくサポーターと湿布と杖が手放せない生活を送った。激痛というほどではなかったため病院には行かずにすませたが、その後も違和感が続き、下り階段は手すりにつかまらないとどうにも心細い。違和感というより恐怖心なのかもしれない。
今年の二月、朝井まかてさんにお会いした時「去年の捻挫が治んないんですよね〜」と考えなしにこぼしたら「舞台はどないすんのっ!」と思いのほかガチトーンで心配されてしまった。自分、木ッスから……。
そして七月現在も完治には至っていない。そういう歳なんだとしみじみ思った。やらかす前の肉体には戻れない。
かれこれ十五年ほど前に、腰の骨を折って入院したことがある。人生初の入院、しかもうち一カ月はほとんど寝たきりでベッドから動けない日々だった。搬送(というか搬入)されて間もなく、ピアスを外した。何をするにも看護師さん頼りの生活でちゃらちゃらピアスなどぶら下げているのは悪印象かもしれないと危ぶんだ。その時点で穴を開けてから半年くらい経っていて、すっかり馴染んだものだと思っていた。
しかし、二カ月後に退院し、晴れてピアスを再装着しようとすると、耳の裏側の皮膚がふさがってしまっていた。半分がっかりして、半分嬉しかった。ひしゃげた骨を固め、針穴を埋める。ベッドの上で悶々としている間、肉体が愚直に頑張ってくれていた証拠だから。
今ならきっと、ふさがらないんだろうな。ぷつっと窪んだピアス穴の名残に触れながら思う。まあ仕方がない。その時ある武器で挑むしかない。お芝居にせよ、小説にせよ。
できるだけ労りながらやってみるから、一緒に頑張っておくれ。
楽しもうね。身体へ。
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開演:サンケイホールブリーゼ
全席指定 8,000円
[主催・製作]なにげに文士劇2024実行委員会
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