なにげに文士劇2024旗揚げ記念連載#3【澤田瞳子】
記憶の行き先
文:澤田瞳子
――えらいことになった。
最近ほぼ毎日、そう呟いている。言わずと知れた「なにげに文士劇」のことだ。
今から二十七年前、東京・よみうりホールで日本推理作家協会五十周年記念文士劇「ぼくらの愛した二十面相」が一度だけ上演された。小説を愛する大学生だった私に、四十三人もの作家による舞台は憧れだったが、チケットは何と十分で完売となった。幸いその後BS放送にて舞台の様子が放送され、私は録画をセットしながら、文字通りテレビに釘付けとなった。
脚本・辻真先さん、演出・山村正夫さんというだけでも豪華なのに、北方謙三さん・大沢在昌さん名コンビをトップに、まさに今愛読中の小説の書き手が次々登場する。作家に直に接する機会が少なかった時代だけに、客席の熱気はすさまじかった。京極夏彦さんが有名な京極堂の決め台詞を仰った時には、黄色い声まで飛んだ。と言いつつ私もテレビの前で、「ひゃああ」と叫んだのだけど。
この時のVHSはその後、友人に貸したまま行方不明となった。しかたない。明確な映像ではなく記憶と口伝えで語られる方があの舞台にはふさわしい……と思っていたところに持ち上がったのが今回の文士劇だ。
朝井まかてさんがすでにお書きの通り、初めて文士劇の話題が出た場には私もいた。推協文士劇を思い出しながらの「いいですね。楽しそう」との賛同に、嘘はない。ただ実現するとは予想していなかったし、事務方としてこうも奔走する日が来ようとは。
しかし本番まで半年を切り、やれ台本だ稽古だとの話題が飛び交うにつれ、「えらいことになった」との溜息に愛着が湧いてきた。時は確実に流れ去る。「ぼくらの愛した二十面相」がそうであるように、「なにげに文士劇」旗揚げ公演もいずれ過去となり、この多忙を懐かしく思い出す日がすぐに来る。
なにせ本業の締切は変わることなく押し寄せる上、劇の支度は日を追うにつれ忙しくなる一方だ。しかし今はその混乱を、ただ楽しもうと思う。
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日時:2024年11月16日(土曜日)16時開演
開演:サンケイホールブリーゼ
全席指定 8,000円
[主催・製作]なにげに文士劇2024実行委員会
なにげに文士劇の詳細は上記HPまで!是非チェックしてください♪
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