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『思い出のマーニー』の海辺に行った話

数年前『思い出のマーニー』の舞台になったバーナムオーバリーステイスに行きました。
でもそれは当初の目的ではなく。カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』に「ノーフォークはイギリスのロストコーナー」とあったので、私も何か見つけられるかな、なんてちょっと考えながら、就職を控えての一人卒業旅行、ぼんやりした旅でした。ルースのオリジナルを探しに行くクローマーの街を見てみたかったので、その時はとりあえず起点になるノリッチに滞在していました。

映画の『わたしを離さないで』でのロケ地はクローマーじゃないんですよね。あの桟橋はクリーブドンだそう。それと今調べて知りましたが、船が朽ちていた海辺の場面、あれはノーフォークのウェルス=ネクスト=ザ=シーでのロケだったとか。ほら、下調べが足りないから!

それで、クローマー・シェリンガム間のコーストウォークで満足したのですが、あと何をしようかな、うーん、といろいろぐぐって、そういえば『思い出のマーニー』の舞台があるらしいということで、急遽行くことにしました。どなたかのブログを参考に、キングズリンからさっとコーストホッパーバスに乗りました。
コーストホッパーはその名の通り海沿いを走ります。生憎雨がしょぼしょぼ降っていてあまり車窓風景はよくなかった。次の停留所のアナウンスがあるわけでも、文字で教えてくれるわけでもないので、運転手さんに「バーナムオーバリーステイスに着いたら教えて」って言っておいたのに完全に忘れられてたけれど、全集中で窓の外を凝視していたお陰で無事に下車。一時間半くらい乗っていたかな。なおバーナムオーバリーの次がバーナムオーバリーステイスです。ステイスは波止場っていう意味だそう。

到着してすぐに帰りのコーストホッパーの時間を調べましたら、日曜日だったから?最終バスが17:50。現在15:53。この時点でキングズリンに戻る選択肢は消えました、きっと遅くなるだろうし。キングズリン観光は次回に回すとして…。

ステイスのバス停から歩いてすぐ、マーニーのお屋敷がある入江に出ます。この青い窓のお家がそう。

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さて、この波止場から30分弱も歩けば美しいビーチに出られます。ノーフォークコーストパスの一部です。写真の通りお天気があまりよくなく、夕方ということもあって人影は少なかった。お天気がよければもっと綺麗だったろうに!

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一人ぼっちで、本当に静かで、自分が周りの風景に溶け込んで行く気がしました。私という存在、自我が圧倒されて意味をなさなくなるような(意味があるのかどうかはさておき)。それと、今ここで私が消えても誰にも気付かれないんだろうなあ、という変な焦燥感。砂浜、海、風、なんて力強いんだろうかと思いました。それは寂しい感覚だったけれど、私もちゃんとこの世界の一部なんだという風にも感じられて。

Love! when we wandered here together,
Hand in hand through the sparkling weather,
From the heights and hollows of fern and heather,
God surely loved us a little then.

エルガーの『海の絵』なんかを口ずさみながら。

で、一人きりを満喫して戻ってきたとき、マーニーのお屋敷の前ですれ違ったお散歩に出られるおじい様と、こんにちはの挨拶を交わしました。すごく温かい気持ちになった。人の世界に私はまだ属してるぞ、がいちばん近い気持ちだったかな。

バスまでまだ時間があったので、「サイロは嫌!」のモデルの風車を見に行きました。バス停から15分くらい歩いたかな?

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終バスに間に合うよう、早めにバス停に戻って待っていたら、向かいのパブからご夫婦が出てきて、私の隣に並ばれました。お二人ともアウトドアスタイルで、お話を伺っていると今日は五時間ぐらい!コーストウォークされて来られたとのこと。一人で卒業旅行です、『思い出のマーニー』という映画の原作が、ここを舞台にしてるらしくって、と言ったけれど、残念ながらお二人とも映画も原作もご存知ないそうで…。しっかり宣伝しておきました。When Marnie was there見てね。ちなみにお二人の息子さんも今まさに卒業旅行の真っ最中、友達とアメリカ横断の旅をされているらしいとのこと。

ご夫婦はノリッチにお住まいだったので、一緒に帰ることに。コーストホッパーでシェリンガムに向かい、電車でノリッジに帰る作戦。しかしシェリンガムに着いてみると、次の電車は一時間後!あんまり寒くて、三人で近くのパブで待つことに。この時に飲んだホットチョコレートは今までの人生で一番甘い飲み物でした。

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シェリンガムからは電車で一時間程。ノリッジ駅前での別れはあっけないものでした。じゃあねって手を振っておしまい。まあそんなところですよね。People come and go, come and go...私もあのご夫妻にとっては、そういった通行人のうちの一人になったのでしょう。

「イギリスのロストコーナー」で拾ったもの。上記のご夫婦、挨拶を交わしたおじい様、ノリッジで泊めてくれたカップル、煉瓦の塔のそばに座っていた女の子、クローマーピアを眺めながら並んで一緒にフィッシュアンドチップスを食べたおばさま、シェリンガムからクローマーに戻る途中で私に飛びついてきた犬、ノリッジ大聖堂で私に飛びついてきた犬などなどの出会い。と同時に、一人でいること、自然の一部だという感覚、そういった経験で私は出来て行くのだなあ。

そんな具合に、こんなことあったなあってのを、写真があったら一緒に綴っていきます。

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