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第二弾投稿作品 「ゾウの時間・ネズミの時間・コバさんの時間」


あれは昨年の11月のこと。
ふらりと京都からお客様が亀時間に泊まりに来られました。あだ名はコバさん。のっぽさんがかぶるようなシャッポ(帽子)が似合う40代の男性。一目で自由人だと分かる雰囲気を漂わせていました。

コロナの影響でお客様が少なかったこともあり、その夜は泊まったお客様全員とスタッフでお喋りに花を咲かせていたのですが、コバさんが語ってくれた半生を聞くにつれて、みんながグイグイと話に引き込まれていきました。

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やりたいことが見つからず、金も仕事も無かった26歳の夏。
昼間は冷房の効いた山手線をぐるぐる回って8時間。暑さが収まる夕方になると適当な駅で降りて銭湯に入り、夜は公園で野宿したり、時々友人宅に転がり込んだりというギリギリの生活を2か月間したこともありました。

そんな追い詰められていたある日のこと。
たまたま高円寺の喫茶店に入ったら、居心地が良くて気に入ってしまいました。随分と長居した後に会計を済ませて外に出て、店の外観を改めて眺めると求人募集の張り紙を見つけました。すぐに再入店して勤務希望を申し出ました。

最低賃金を下回る激安時給だけど、自分で料理やスイーツなどの試作をするのは自由、という変則的な勤務条件だったのですが、8年半もその喫茶店で働きました。そして、いつの間にか自分の喫茶店を開くという夢がコバさんの心に芽生えました。夢を膨らませながら、京都に移住。開業資金を貯めるために工場でも働きました。
・・・・・・

去年の11月に来た時点ですでに開業資金は貯まっていましたが出店場所は検討中でした。 京都も良いけど亀時間のある鎌倉や三浦も候補とのこと。

話を聞きながら次第に分かってきたのは、コバさんはとてもマイペースで、
細部へのこだわり、ロマンを大切にしている人だということ。
マイペースなること、亀のごとし。

26歳で喫茶店の魅力に取り憑かれて、すでに約15年が経過しています。
それなのに京都の伝説のゲストハウス月光荘でラジオDJのような活動をしていると聞き、そんな悠長な半分遊びみたいな仕事やってていいのかな?と疑念がどうしても湧いてきます。

老婆心で「もう少し開業に向けて具体的に前へ、前へと進めたほうが良いのでは!」と急かしたくなるのですが、ぐっとその思いを胸に留めて彼のマイペースな話を聞いていると、「実は開業日はすでに決まっているんです」というではないですか!デイドリーマーではなかったんだ、と心の中で安堵。

「いつ開業するんですか?」と急かすように尋ねると「2022年2月22日です!」とのこと。計算すると、残りあと1年と3か月。近くはないが、遠い未来の話でもない微妙なタイミングです。

「お店の名前は決めたんですか?」と聞くとまだ未定とのこと。
「じゃあ、みんなで決めちゃおう!」と盛り上がり、あれこれ検討した結果、「余白」という名前に落ち着きました。

コバさんは自分のコーヒー道具を持参しており、自分の豆でみんなにコーヒーを振舞ってくれました。銅製で注ぎ口が象の鼻のように長いポットからお湯を注いで、淹れられたそのコーヒーは、実際とても美味しかったのです。楽しい時間は夜更けまで続きました・・・。

彼自身も「余白」という店名にしっくりきたようで、夜中に手書きの名刺を2つだけ作りました。そして、チェックアウトの前に、亀時間の本棚に並んだ、とある名著に差し込んで旅立って行きました。その名刺には「きみの中に余白はあるか。」という問いかけ、店名と開業日しか記載されていません。「見つけた人が、何だこの名刺は?と思ってもらえればそれで良いんです」と彼はあくまで控えめ。彼の生き方は、静かな波紋のように僕の心に響いて残りました。

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それから8か月が経った、2021年7月のこと。亀時間の電話が鳴りました。「小林と申しますが7月●日一泊泊まりたいのですが、空いていますか?・・・」受話器の向こうから、聞いたことのある声が!

「もしかして・・・昨年泊まってくれたコバさんですか?」

「そうですよ!」

再度、彼が宿泊予約をしてくれたのです。そして宿泊当日、久々に再会したコバさんは8か月前と全く変わらず、相変わらずのマイペース。ガラケーを駆使して、時間をかけてメールのやり取りをしていました。

気が付けば、開店日まであと7か月。
そろそろ開業の準備が具体的になっていないと間に合いませんよ、コバさん。チェックインして一息ついたのもそこそこに、近況報告を聞いて先行きの不安は安心に変わりました。驚くほど開業計画は進展していたのです。

なんと、昨年のあの夜からまた、いろいろ考えているうちに、どこかに店舗を構えるよりは移動できるほうが自分に合っていると考え直し、車を買ったというのです!しかもフォルクスワーゲンのバス。

オシャレじゃないですか、コバさん!
レコードプレーヤーも置いちゃうそうです。このアンティークな車の購入と改装に、出店資金をつぎ込みます。

店名も「余白」はいったん脇に置いて、ストレートに「喫茶コバ」として活動していくとのこと。そしてスマホを持たないアナログ人間のコバさんが、インスタを始めたというではありませんか。尋常じゃない時間をかけてガラケーで投稿しているそう。

「喫茶コバ」のページを覗いてみると、間借り出店などの予定が結構ちゃんと告知されていて安心しました。やるときはやるんですね、コバさん。おみそれいたしました。

ゾウの時間ネズミの時間』というベストセラーの本があります。哺乳類は象からネズミまで大きさに関わらず、一生に打つ心拍数が約20億回、呼吸数は約5億回だと決まっているそうです。極論すれば、慌てて生きる人間は生き急いで短い人生を送り、ゆっくり生きる人間の人生は長いということになります。

コバさんの人生はガンジス河のような大いなる流れをたゆたっているよう。刻む時間の流れは人一倍ゆっくりですが、周りに流されない強さがあります。彼の存在がベンチマークとなることで、加速化する時代の流れに乗せられて、慌ただしく生き急いでいる僕らのほうがむしろおかしいのではないか?という疑念すら沸き起こります。

今から開店日の2022年2月22日が楽しみでなりません。
そしていつか鎌倉に出店してくれる日を心待ちにしています。
気になった方はインスタをフォローしてくださいね。

亀時間代表 櫻井雅之(マサ)

追伸:コバさん手書きの名刺はまだ亀時間の本棚に隠されています。
是非見つけてみてくださいね。そして、コバさん、現在はアナログマインドはそのままにスマホも使い始めたようです。

●喫茶コバ

https://www.instagram.com/kissa_coba/

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詳細、投稿方法はこちらのリンクをどうぞ
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