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ゲストハウス思い出ノート第一弾受賞作品  私の『ゲストハウス思い出ノート』

9月16日より第一弾受賞作品を、選定したゲストハウスの選考理由とともに再掲載しています。選考理由をふまえて受賞されたみなさんの作品を再度お楽しみください!


投稿者 さんかくワサビのオーナーさん

選定者 神奈川県鎌倉亀時間

【受賞理由】:今から7年前、たったの数日間だけでしたが彼女に宿直仕事をお手伝いしてもらったことがありました。期間は短かったけど個性的で、いつか爆発しそうな内に秘めたエネルギーを感じて印象に強く残りました。

時は過ぎ、大分県の佐伯という街に定住して、ゲストハウス開業したと聞いたときにはとても驚き、喜びました。しかも、宿代は1000円+投げ銭なんですよ。なんて最先端で、アヴァンギャルドなんでしょう。亀時間に憧れた、と文中で表現してくれていましたが、憧れを実現してその先へと進んでいます。

地域への溶け込み力、読む人を惹きつける文章力、多様な人々を受け入れる包容力など、彼女の大いなる飛躍が作品を読んで伝わってきて、とても嬉しくなりました。


私の『ゲストハウス思い出ノート』


《プロローグ ―空き家― 》

2021年6月。
散歩の途中で気がついた。
近所の、今にも崩れそうだった空き家の解体が始まった。
夏には台風も来るし、隣家とも近い。
雨が降る度、強い風が吹く度に建物が崩れないだろうかと心配だった。
だから少し安心した。
寂しさもあった。
ふと解体中の空き家の方に足が向いた。
いつも眺めるだけで、近づいたことはなかった。
壁はなくなり、柱と水道などの設備だけになった状態。
いつも以上に哀愁を漂わせていた。
外からふと覗いた。
洗面所だったであろう箇所でふと足が止まる。

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こ、こ、これは・・・!!

・・・2014年、鎌倉のゲストハウス 『亀時間』で数日間宿直のお手伝いをした、あの頃の記憶が一瞬で蘇った。

《1.お金》

2014年、あの頃の私は東京で訪問介護の仕事をしながら毎日を忙しく暮らしていた。
一生懸命働き、休みの日にはそのお金で友人たちと遊ぶ。
欲しいものは、量販店かネットで買える。
あまりにも典型的な生産と消費に疑問を感じていた。
だけどそこから脱却できずにその疑問は胸の中にしまって過ごしていた。

その当時の東京で、私は(多かれ少なかれ、きっと誰もが同じだったように)
『3.11』『原発』『政治』『選挙』『消費社会』などの小難しいことに片足を突っ込みたいような、突っ込みたくないような・・・そんな暮らしをしていた。
いつも頭の片隅にこれらの言葉があり、だけどどれにも実感が湧かなかった。
私の実感のなさは、解決方法どころか課題すら見つけられないほどだった。
なんとなく、時代の転換期のような気がするだけだった。

会社からのお給料は銀行振込だった。
毎月いろいろなお金が引き落とされ、残ったお金をA T Mで引き出して使う時にやっと「自分で稼いだお金」という実感が少しだけ湧いた。
でもA T Mの中からお金が出てくる仕組みは、考えても考えてもわからなかった。

《2.小さな頃から》

頭で考える前に体が動いていた。
母が危険を知らせる前に、
先生が注意事項を言う前に、
自分の身がどうなるかを予測し終える前に。

あるときはレストランの熱せられた鉄板にジューっと触り、
あるときは頭からプールにドボーンっと飛び込み、
あるときはバイクごとトラックの下にガッシャーンっと滑り込み、
あるときはオーストラリアの農道でウワーンっと絶望した。

どれも、危険なことだとわかったのはやってみた後。
だけど、どれもやってみないとわからなかった。

武勇伝ではない。
やる前にわかれば、それに越したことはないと、ずーっと思っている。
本当に、やる前にわかりたい。わかってやめられたらどんなに楽だろうと思う。

だけどやってみないとわからない。
病気かもしれない。
でも病気かどうかはもはやどうでもいい。
私はやってみないとわからないし、やってみた方が断然楽しいのだ。
いろいろ理由をつけてやっていない人の話はつまらない事が多い、とさえ思う。

《3.大分県佐伯市にて》


2021年8月現在、私はゲストハウスを経営している。
これを「経営」と呼んでいいのかわからないけど、宿泊したお客さんからお金をいただき、そのお金でゲストハウスを維持して、余ったお金で食べ物や服や生活に必要なものを買って暮らしているので、これはきっと「経営」なのだと思う。初めてから1年と10ヶ月が経った。


宿泊料は少し変わっていて、1000円+投げ銭。
投げ銭にした理由はいろいろあるけど、やってみたくて、もう仕方がなくなったから。
やってみないとわからないから。
さすがに、ゲストハウスを始めるにあたっては計画書を書いたり、許可申請をしたり、しっかりと順を追ってこなした。と思う。
お馴染みの見切り発車だけではどうにもならず、いろいろな人に助けてもらった場面がたくさんあった。
そして今もたくさん助けてもらいながら暮らしている。


《4.鎌倉のゲストハウス亀時間にて》

2014年、亀時間の手洗い場で、私は澄里(すみさと)さんに「これってなんですかね?」と聞いた。
手洗い場の陶器のシンクにある丸いくぼみだ。
昔からそこにあるであろう古いシンクでしか見たことのないもので、その丸いくぼみを使っている人を見たことはない。
丸いくぼみの底部分には排水用と思われる直径5mm程の穴が開いている。

澄里さんは、カメラマンで、旅人で、何をしているのか単純な肩書きだけでは理解できなかった。詳しい説明を聞いても、よくわからなかった。
私が宿直のバイトをしていた時に手伝いとして亀時間で働いていたので業務のあれこれは澄里さんからも教えてもらった。その日もチェックアウト後のゲストハウスの掃除を一緒にしていた。

私と澄里さんは手洗い場のその不思議なくぼみを眺め、触ったり覗きこんだりしたが、よくわからない。
「すぐに調べず、宿の掃除をしながら各々で考えてみよう」ということになった。

そのシンキングタイムがなんだかすごく楽しかった。
手を動かしながらもそれぞれの想像力をフル回転させ、知的な回答やへんてこりんな回答を発表しあった。
とてもくだらなくて印象的だった。

亀時間』という、地域に溶け込み、地域に大切にされながら存在しているゲストハウス。
あの頃の私が小難しく感じていた社会の課題のようなものを、さらっと小さく実践し、周囲に大きな影響を与えていたゲストハウス。
そしてそのゲストハウスを作って経営しているマサさん。
簡単に言えば「憧れ」という言葉に要約されてしまうのだろう。
そのゲストハウスでマサさんや澄里さんと話し、時間を共有できたことが、私にこんなに大きな影響を与えていたなんて。
今、自分もゲストハウスをするようになり、今回マサさんに依頼され、この文章を書き始めた。


《エピローグ》

2021年大分県佐伯市、何をするにも実感が伴っていて、毎日が刺激で溢れている。
信頼できる人たちと、自分たちの欲しいまちや暮らし方を思い描き、次の一手を考えながら前を向いて歩いている。
社会の課題と言われるようなことに繋がっていることもあるし、そうでもないこともある。
すること全てに実感が伴っていて、常に「楽しみ」と言える気持ちがついてくる。

あの時、亀時間に抱いていた「憧れ」を自分で実現してしまったような気がする。
いや、憧れていた姿よりも、もっと実感を伴い、楽しんでいるかも。
日々を一緒に過ごす地元の人、たまに交わる旅人。
ここ大分県佐伯市でしか、さんかくワサビでしかできないものや雰囲気が毎日ポンポンと生み出されている。

さらっと小さく実践し、解決したり失敗したりしながらくだらないことで笑い合っている。

そこに住んでいる人にしかできないこと。ふらっと訪問した人にしかできないこと。
これからもどんどん交わって、さんかくワサビといういつまでも不完全なゲストハウスができあがっていくのだろうと思う。

ワクワクする。


あ!みなさんが今、一番気になっている丸いくぼみ。

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これは、いろいろな説があって、正解がどれだかはわかりません。
コップ置き、歯ブラシ・カミソリ置き。
はたまた痰を吐くところだという説も。
謎は深まるばかり。

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以上、「6月中には書き終えます!」とマサさんにお伝えした私の「ゲストハウスの思い出ノート」でした。
遅くなっちゃった。ごめんなさい。


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