祖父の原稿14

  十四 第3回尾瀬片品高原もみじマラソン全国大会

 「走ることは全てのスポーツの基本であり特に文明社会の中で身体を動かすことの少ない現在、走ることは大きな意義があります。『自然のふるさと片品』の大会コースはのどかな田園風景と、遠くには美しい山並みが展開され変化に富んでおります。紅葉を満喫しながら上り下りの多いコースで体力をつけてください」
  第3回尾瀬片品高原紅葉マラソン全国大会
  
  平成4年10月25日
  主催 片品村観光協会
  後援 群馬県、NHK前橋放送局、群馬テレビ、上毛新聞、読売新聞、朝日新聞、産経新聞、毎日新聞
 
 この豪華なマスメディアのバックアップの片品マラソンに直ぐにのめり込んだ。
 上越線沼田駅で降り、待機していた片品鎌田行きの東武鉄道バスに乗る。初めての土地心細くなる。乗り合いはランナーと見える人が僅か。どこまで行くのか老人の集団でいっぱいとなった。町中を過ぎて一挙に高台に登ったあとは右崖下に片品川を見下ろしながら注意深く進めて1時間後老神温泉に着いた。老人達が降りた車内は空車同然30分走って鎌田に着いた。
 東京都の水瓶利根川の支流片品川の源流部に存在する片品村は、日本列島の中央部に位置する高原の山里と分かった。北に2228mの至仏山を控えていてその背後には日光国立公園尾瀬沼がある。東方に目を転ずれば日光山群の盟主白根山(2587m)がそびえ、その南東に中禅寺湖、北西に丸沼を抱え込んでいる。西方を見れば武尊山(ほたかやま)が夕日を背に眩しい姿を見せている。武尊(ほたか)とは日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が景行天皇の命を受けて熊襲(くまそ)を討ち東国を鎮定した故事にならい付けられた山名で、以降御嶽請の修験場となっている。名峰の遠巻きの中心部すり鉢の底に出来た高原地帯片品村は紅葉の最盛りだ。
 温泉センター前のバス停で下車する。道路を大跨ぎした(片品村高原もみじマラソン大会大歓迎)のアーチをくぐって、500m程度上り坂を歩いて片品中学校校庭に張られた万国旗下の受付に出た。人懐かしい笑顔に迎えられて里帰りの気分になった。
 大会要項と10kmコース14クラス、ゼッケン667を受け取る。要項によると片品村には、温泉郷を控えた冬期スポーツ祭典の場、武尊オリンピックスキー場、武尊スキー場と全7ヶ所もスキー場があると。見渡せば展望の開けた高原の周辺には温泉郷が存在し、正に関東の奥座敷といった風格のある山里だ。
 待っていた宿泊所行きバスに乗る。川も最上流部で両側から迫り出してきた山間の底を流れる方品川沿いの未舗装の道を10km揺られて、笠品川の合流点、後に尾瀬戸倉スキー場を背負った尾瀬戸倉温泉に着いた。全ての建物はそれぞれ巨木を抱えていて荘厳な佇まいの温泉郷だ。
 旅館美山荘に入る。相部屋になった東京墨田区の東京千代田走友会に所属しているという、自分と同年齢69才になる林潤太郎さんに迎えられた。「関東以外からの参加珍しいですねぇ」の挨拶を不審に思って「どうしてですか」と聞き返した。
 「私は初回大会から参加しました。観光地に陸上の華マラソン大会が開催されるのを知って3回目の参加となりました。観光地振興を図るため、片品村観光協会が全国大会と銘打ってマラソン大会を開催しました。ここ片品村は福島、新潟との県境に接する日本最奥の山里なので、なかなか名前が行き渡らなく3年経っても関東外の選手の参加は淋しい限りです。コースは自然の中で素晴らしいから森脇さんのような人が増えるのを期待しています」初めての人と尽きない話で睡眠のない夜を明かす。走ることがこれ程人を結びつけることに。
 スタートラインに並ぶ。最高年齢14クラスは列の後部の位置となる。競技の結果は考えないで、来年以降も大会参加をするために、林さんから聞いたコースの素晴らしさを瀬踏みすることを兼ねた走りをしようとスタートする。列のスピードに合わせて、転倒に気を付けながら坂下り400mで片中菅沼分岐点で左折下平コースに入る。300mの坂登りで標高870mと聞いた菅沼高原に出た。コースの両側低木でいっぱい実をつけたリンゴ園に迎えられてホッとする。展望が開けて対岸の観光地武尊の集落が一望出来る壮観に感動し走りに力が入った。1700mポイント10kmの折返し、この素晴らしいコースをここで折返すか、10kmに参加したこと悔やみながらターンする。720mコース最低の標高地点農協前まで走り抜けた。ここから日光へ抜ける旧道「とうもろこし街道」の坂登りになった。ここから折返し地点穴沢までは、丸沼から流れ出た小川沿いの街道2kmの距離50m坂登りとなる。左側の素晴らしい見晴らしに足の疲れが無くなった。折返して後は下りを一目散にゴールに駆け込んだ。
 タイム51’32’’57。林さんは52'32''57。笑顔で抱き合い健闘を称え再会を約した。
 林さんはこれから富士見峠を越えて、水芭蕉の尾瀬沼に行くと別れた。
 素晴らしいマラソンコースを覚え、親身以上の走友が出来たマラソン大会に感謝。

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