科学館の展示アイテムを作る
今日は、今年オープンとなった北九州市科学館「スペースLABO」のシンボル展示について書いてみようと思います。
大雑把な構成
メインの展示会場は「物理科学」の内容でまとまっていますが、その展示手法は以下のような構成になっています。
シンボルとなる展示
シンボル展示の見方や示唆を与える映像
体験展示
大きいことは正義
シンボル展示は、基本的には触れることができない展示となっていますが、理由があります。とにかく大きいのです。
大きな展示で、動きもこだわって作っています。とにかく魅力的に見えるように頑張りましょうという設計時点の構想でした。なので、siroでは動きの制御を担当していたので、責任重大です。
そして、こういう大きな展示は実物を前にしないと動きの調整ができないのですが、展示装置が完成するのをまって動きを考えるのではちょっと不安があります。なので今回は、シミュレータを作って挑みました。ある程度はシミュレータで検討しました。そして実機ができた後は、シミュレータとの差異を調整するなどし仕上げていきました。
そして、動きはGUIの操作で設定できるようなタイムラインツールを独自に開発し、それを使ってシミュレータも実機も動かせるようになっています。これによって、試行錯誤の回数を増やし、動きにこだわれるようにしました。
結果、魅力的な動きが作れたのではないかと思っています。
示唆映像
示唆を与える映像を壁面に出そうということが企画時点で決まっていました。やってみないとわからないことが多いものの、企画時点では「示唆映像とシンボル展示の動きは連動する」という想定で検討していました。企画時は演出スコアというものを作り、紙面上で検討をしていました。(脳内で補完)
実際に壁面に映像を投影し、シンボル展示を動かしながらの調整をやってみて、アイテムごとに示唆映像との連動が必要か最終的に決断しました。やはりやってみないとわかりません。
そして、示唆映像のなかには、時々一風変わった映像が流れます。それは我々は「幕間映像」と呼んでいました。
以下のような映像です。
アイテムが全部で9つあるので、それぞれに幕間映像を6つも用意してますので、相当な量です。これをまともに一つずつイラストを描いていると大変なので、一旦以下のような方式にしました。
イラスト担当の荒牧悠さんにはあらかじめいくつかのイラストを描いてもらう。それをステッカーのように利用し、デザイナーの松下裕子さんをメインに何人かでアイデアを出しながらコピーとイラストの組み合わせ案を作っていきました。案が出揃い、数の調整をしたあと、改めてイラストの追加要望を出したりして荒牧さんに仕上げてもらいました。
それらを松下さんに改めてレイアウトしてもらい、市原賢治さんにアニメーションへと仕上げてもらいました。これはシュールに静止画でいきましょう、とか、ここは好き放題動かしちゃってくださいとか、そういう指示で市原さんだよりでお願いしました。
仕上がった映像は数が多いにも関わらず、すべてしっかりと仕上がっており、とてもいい具合にまとまりました。
この幕間映像のねらいは、いくつかあります。
ひとつは、息抜きとなるような時間が欲しいということです。原理原則について映像と展示の間を目線を行き来させながらなんとか理解しようと見ているのはわりと疲れることだと思います。その合間に「ほっとできる時間」があるといいだろうというシンプルな理由です。
もうひとつは、ちょっと視点をずらすということです。科学真正面という内容だけではなく、ちょっとずれた内容も積極的にいれました。「ふふ」っと笑みが溢れるような内容です。それはある時は「哲学的」と思えるような時もあります。そういうずらしは、ある意味目の前の現象にフォーカスしている視野から、ぐっと広げ、一歩引いた景色を見ながら考えることにつながると思います。視野が広がることで自分の感覚として記憶できるのではないか。そして、それは「科学好き」と自覚していない子供にも興味を持ってもらうきっかけになるんじゃないかと思ってます。
体験で反復する
siroでは担当範囲外ではありますが、体験展示が重要な役割を担っています。シンボル展示は触れないため、小さい触れる展示があります。シンボル展示で見た動きを再現しようと試みることができそうな感じにしてあります。これによって、子供たちは自分の手で動かしてさらに魅力的な側面はないかと探れるようになっています。
おまけ
今回の示唆映像エリアは空間に点在し全部で9つあります。それらのうち、7つは同一のプログラムで内容を変えて動かしています。せっかく支配下にあるのでいくつかの演出をいれています。
音のパートを分けて入れ空間のBGMを構成する
常に会場には高橋琢哉さんに作ってもらった音楽が鳴っています。シンプルなフレーズが繰り返し流れていますが、じつはメロディを構成する要素がバラバラにスピーカーから流れており、聴く場所によって違う聞こえ方になるようにしています。7台のスピーカーで合奏してるような感じですね。
時報演出を追加
最後に企画者制作者のこだわりで、時報を追加してみました。毎正時に演出が流れます。時間によって2種類の演出が流れます。荒牧さんのイラストを使って空間を乗っ取るようなニュアンスで構成しました。
せっかく空間全体に7つもの画面が制御可能でしたので、「連動して一つの演出をする時間があってもいいだろう」ということで、それを実現しました。
音楽制作を担当してもらった高橋さんにもむちゃぶりして、追加で音楽を作ってもらいました。こちらも同様に複数のパートに分かれていて、聴く場所によって違うニュアンスが楽しめます。
最後に
今回の仕事は、トータルメディア・丹青社北九州市新科学館制作設置共同企業体に発注を受け、実施設計フェーズからコミットし、企画のコアメンバーとも密にやりとりしました。北九州市の担当の方も科学館に熱い想いがあり、その他のメンバーもそれぞれこだわりが強く濃いチームでした。妥協なく思ったことを言い合うような感じで進んでいきましたので、企画もいろいろ試行錯誤しましたし、制作時点でも積極的に見直しながら進めてきました。「ここらでまとめよう」というのが普通ありますが、今回はそれがなっかなか来ない。。ヒヤヒヤすることもありましたが、結果としてこだわりが詰まったいい展示空間ができたと思います。