からくりの森 2024年
ヘッダ写真をみて「あ、メイキング記事か?」と思った人は多いと思いますが、今日は気持ちの上でのメイキング記事を書こうと思います。テクニカルな記事はおそらくSPLINE DESIGN HUBの神山くんが書いてくれると思いますので。
(更新)といってたら書いてくれました。
2回目の依頼
2023年にはじめて「からくりの森」に参加しました。2023年の1月に連絡があり、プロデューサーの桐山さんのオフィスに行きました。nomenaの武井さんやTangentの吉本さん、CANOPUSの平瀬さんが呼ばれていて「こ、これは何が始まるんだ」という感じでスタートしました。
そんなこんなで、時にしずくを作り、2023年の展示を終えたわけですが、なんと今年も連絡が来ました。2年連続で呼ばれたということで光栄でしかないです。
意気揚々と最初の打ち合わせに行きました。小松宏誠さんも呼ばれていて、外部のクリエイターは、小松宏誠さんとsiroということでした。小松さんとは実は古い付き合いで、小松さんが大学院生のころから知ってます。
これまでの「からくりの森」はnomenaやTangent、siroということで、各社アートっぽい活動はしていますが、アーティストという感じよりはデザインスタジオとかそういう匂いが強いかと思います。そしてテクノロジーが強いイメージ。その流れからすると、小松さんは意外でした。が、自分にとっては近しい存在なので楽しみでもあるわけですが。
不安
オファーを頂いたときから一抹の不安がありました。それは「テーマ」です。
第1回は「メトロノームウォッチ」「音声デジタルウオッチ」の2つがテーマに選ばれていました。
第2回は「機械式腕時計」がテーマでした。
第3回となる今年はどういうテーマになるのか、それが不安でした。そして、一抹の不安は的中しました。第3回のテーマは「機械式腕時計」でした。
2年連続同じテーマ
正直むずかしいです。テーマがまず難しい。そして2年連続。その上、去年は快作「時のしずく」を作ってしまいましたので、去年と比べられる恐怖があります。
といっても、最近何があっても動じない自分としては「チームをどうするか」という次の課題を考えていました。
チーム紹介
デザインエンジニアの「神山 友輔」(SPLINE DESIGN HUB)
昨年も企画からメカ設計など活躍してもらいました。メカ設計からソフトウェア開発までこなせる珍しい幅広さです。そして作品も作ってる。
表現がわかるエンジニアの「後藤 祐介」
最近仕事でもいろいろ手伝ってもらってる後藤さん。ディレクションもできるプログラマーで、ハードウェアからソフトウェアまで広く扱える人。趣味でメカっぽい秀作作ってる!
若き研究者の「頃安 祐輔」
筑波大学の博士過程1年生の頃安くん。最近知り合って早速オファー。彼は水滴のことを「液滴」といいます。さすが研究者。
アーティストとしても活動してる「狩野 涼雅」
siroではものづくりのスペシャリストとしてCADから木工作業まで幅広く活躍してます。時計の機構を使った作品を作ってる作家なので、この仕事には欠かせないメンバー。
なくてはならない進行役「片桐 崇門」
siro所属のプロジェクトマネージャー。アイデアも出しますし、ムードメーカー的な動きも期待できます。
この5人に加えて自分の合計6名で取り組むこととしました。
地獄のアイディエーション
毎週ぐらいの頻度でzoomミーティングを繰り返しました。全員でmiroを共有しそこでアイデアを出し合います。
そもそも、時間が関係ありそうな過去の事例なども出し合ったりしてかなり面白い議論でした。今回のメンバーは研究者からアーティスト、デザイン、エンジニアリングと活動領域も専門線もバラバラで、しかも横断してる人が多いので知識も興味も幅広い。
「これだ!」というアイデアにはなかなか至らなかったですが、「これかもしれない」というアイデアは複数出ました。
裏テーマ
今回のメンバーの中のアイデアが採用されるといいなーと思ってました。昨年は松山の切り札である「水の制御」を出しましたので、今年は違うジャンルに切り込みたいと思ってました。
といっても、自分も負けてられません。全力で強そうなアイデアを考えました。
松山案をちらっと紹介
その他メンバーの案もあり、7案に絞り込みました。そして、その案のなかからインナーメンバーだけでは絞り込むのが難しいので、プロジェクトメンバー外の仲間に見てもらいました。あと、自分の場合は妻や娘たちに見てもらうことも多く、意見を集めます。客観的な反応をこちらが読み取り、意見を集約していきます。
そのうえで3案に絞り、SEIKOさんや桐山さんを交えた全体会議で相談して決めることにしました。
それで選ばれたのが「時の足音」のプランです。
リーダー交代
ここまで松山がディレクションをしてきましたが、このプランが選ばれた時点で選手交代したほうがいいと考えました。メカの美を追求するようなアプローチになることは見えていたので、ここはSPLINE DESIGN HUBの神山が指揮をとるべきと判断しました。
チーム名も「SPLINE DESIGN HUB + siro」と変更させてもらい、実際の動きと合致するように。これで神山くんにとっては「自分の名前をかけた大仕事」に変化するので、手が抜けなくなるわけです。
と、このあたりで、方針がかたまったので、実験設計、発注、組立、ソフトウェア開発などが待ち構えますが、詳細は神山くんの記事を待ちましょう。
新たな相談
桐山さんから別の相談が来ました。
ここに来て追加オーダーが入りました。で、作ることになったのが時の囁きです。そちらについては以下で語っておきました。
完成
最後に
今回はいろいろな展開がありましたが、松山個人としては満足の仕上がりです。
「時の足音」については、自分が想像できていなかったこととして、ロボットの動きがとにかくずっと見ていられる魅力があります。動きのゆっくりさがとても重要だったんだと思います。初期のプランにMOON WALKとかいてありますが、まさにそれですね。重力をカウンターウェイトで軽減してあげることでロボ自体は地球の重力とは違う世界に行ってます。鑑賞する側からは、放物線をゆっくりと描きスローモーションのように見えます。
その世界観でいながらも、着地のときは足がぐぐっと曲がります。重力に負けて足のバネ性が現れるわけです。これはこの動きを狙ってモーターを選定していますので、その結果です。
テクニカルな選択と表現との噛み合い、そしてプランの秀逸さが実を結んだと思います。とにかく「ずっと見ていられる」というのは達成したいポイントだったので、本当にそこがうまく行って良かったです。
「時の囁き」については、急遽作ることになりましたが、そうとは思えない物ができました。レンズの可能性については今後も追いかけたいと思える魅力です。詩をかけ合わせるアイデアは、それなりに上手くワークしてる姿を見かけましたので、成功したと思っています。そして、評判がいいです。これはこちらが驚くぐらい評判がいい。特に映像に携わる人、カメラを触ってる人たち(玄人)に気に入ってもらえているようです。「え、これで投影してるの!?」っていう理解があると一気に面白くなるんだと思います。そして、実際無限の解像度の威力を目の当たりにするという、ある種ノスタルジーでもあり、アナログの勝利でもあるというところ。この見せ方を機械式時計の魅力の表現に使ったのは、やはりいいアイデアだったと思います。
どちらも実物を見てほしい作品です。そのうち動画も公開すると思いますが、ぜひ見てほしいです。