作品について語る
東京都現代美術館で展示している作品について少し語ってみようと思います。会期は2月14日まで。
作家
今回は、高橋琢哉との共作となります。高橋とは仕事のなかで知り合った間柄ですので、日頃のクライアントワークでも一緒に作っています。それとは別に、もう少し「作品」というノリの制作を共にすることもあります。
高橋は「音楽」の分野のプロですが、「この空間でなにをするのか」というぐらい大きな枠で考えるのが得意な人で、松山の目線からすると「感覚的にまとめ上げるのがうまい人」という認識です。ふたりともKAPPESのメンバーでもあります。
高橋はOysterという会社を経営していて、音を中心として様々な仕事をしています。
私、松山はというと、siroという会社を経営していて、エンジニアリングに軸足を置きつつさまざまなものづくりに携わってきました。
ふたりとも商業的な活動を軸にしていはいますが、「作品を作る」という気持ちは常にあるタイプで、実際自主制作で作品を作ってきていたりします。
その二人で今回作品を作るということになり、これはなんというか、「待ってました!」という機会です。「チャンスに恵まれた」という感覚です。
コロナ禍
これは無視できないことなので、触れておきます。MOTサテライトというのは地域連携のプロジェクトです。本来なら地域の人たちと交流したり、美術館外でもなにか展示をしたりというのが期待される展覧会だと思います。ですが、今はコロナ禍です。いろいろと動きにくい状況のなかの展覧会となりました。作家も過去の1~4回のMOTサテライトとは違い、2組の作家だけです。
MOTサテライトというコンセプトの中での展示ということもあり、美術館の中のパブリックスペースを使って展示が行われています。2箇所用意され、2組の作家がそれぞれの場所で空間を分け合い展示します。
我々、高橋+松山は、悩んだ末、同一のコンセプトで2作品つくることにしました。
わかるか、わからないか
高橋とは膨大にコミュニケーションをとり、掛け合いのなかで作品が作られていきました。とはいえ、それぞれ言葉の使い方も違いますし、おそらくこれまでの作風みたいなものも結構違う二人だと思います。なので、このnoteで説明してるのは松山で、松山の目からの考えを松山の言葉で書いてみようかと思います。きっと高橋が語ると結構ニュアンスが違うのが聞けるのではないかと思います。
今回のテーマはMOTサテライトの中で作るということで、深川周辺のことを軸に考えていくことになりますが、我々二人の作家性というか、二人で追いかけているテーマがもともとあります。それは、非言語的な思考を呼び覚ますことです。わかりにくいですね。
(たぶん)わかりやすい話として、高橋が語っていた話があるので、それを紹介します。
眠りに落ちる前あたりに、どこかで聞いたような誰かの声で言葉が聞こえる。誰の声で何を言ってるのか、わかるようなわからないような。そんな脈略のない色んな人の声を毎晩聞いていると、理路整然とした原因と結果が当然のようにつながっている世界とは違う、時間も固有性も入れ替え自由な世界みたいなものを感じて嬉しくなる。
入眠時心像とか、そういう類のものだと思いますが、そのランダムに聞こえる声に可能性を感じとってしまった高橋。高橋はこの可能性に魅力を感じていて日頃からこれを追い求めているということです。
以前、二人で作っていた作品でこの感覚になったものがありました。
これはシリーズでいくつか作ったんですが、この中でも画面のところが重要でした。画面に文字を表示するんですが、文字が素早く2文字ずつ表示される。どんどん表示する時間を短くしてスピードをあげていくと、あるところで文章として読めなくなります。そうすると今度は、唐突に読める文字や単語が現れ、それらだけが断片的に頭に入ってきます。きっとこの知覚できる文字は人によって違い、瞬きのタイミングなど様々な理由でランダムに知覚できるのではないかと予想しています。
これを見た瞬間高橋が「これだ!」と言ったわけです。こちらとしては「なんだ?」というわけですが、聞くと追い求めていたものにとても近いとのこと。
ということで、今回の作品2つは、「この感覚」を呼び覚ます作品を2つ作ろうとしたわけです。
B1の作品「彼女はしゃべるように引き算をする」
2つのパネルにそれぞれ文字が現れます。それが変化していくことで「あの感覚」を狙います。
まさにこれは「あの感覚」に遭遇したオリジナルに近い形で作りました。文字によるアプローチです。これは作品を体験して見て感じるものなので、ここで多くは語りません。
1Fの作品「雷が船と鯰の夢を見た話」
建具の奥にある映像、水盤、スピーカー、ベンチ、和船の櫂。これらが配置された空間。
「あの感覚」を空間インスタレーションでなんとかアプローチしようとしたものです。こちらも、空間を感じることが重要なので、説明は特にしません。
制作メンバー
今回はとても豪華なメンバーで制作を進めました。紹介したいと思います。
映像
まず映像ですが、ディレクター兼カメラマンとして田島太雄さんにお願いしました。後処理系で脇坂航さん、映像パートの制作進行を濱本みずほさん。
この3人に協力してもらって作ってもらった映像を素材として、プログラムでいじって表示しています。
田島さんの映像は、なにか景色の捉え方みたいなものに強さがあって今回の映像の役割として最高の人にお願いできたとしみじみと嬉しく思っています。
水盤
今回のテーマとしては、深川エリアの川、特に小名木川を軸に考えていきましたので、「水」というのが重要な存在としてあります。なので空間にも水を置きたいという気持ちがあり、水盤を制作することにしました。
松山としても思い入れのある仕掛けが入っている水盤なのですが、これは佇まいがとても重要になります。ということでデザインを吉田真也さんにお願いしました。
名前が同じ「真也」ということもあり、出会ってからなにかお互い気になる存在だったと思いますが、ついに作る過程を共にできました。
細部までとても美しく仕上げてもらいました。空間のなかで重要な役割を担う水盤としてとても誇らしいものが出来ました。
音やシステム
音は当然ながら高橋琢哉が制作しています。現場で様々な調整を加えて作っています。没入を誘うようなバランスをうまく作ってきます。さすが。そして今回のオーディオ機材は本気モードです。
そしてシステムは私松山が開発しています。多くは語りませんが、様々な素材を使って臨機応変に変化させていたりします。
言いたいことは山ほどある
今回の制作期間中、なにかいろいろなことを考えてきましたので、いろいろと言いたいことは山ほどあるんですが、それらは会期が終わってから語っていこうかと思います。
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