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THE"5"〜拘り抜いた男達〜

ある日、マネージャーの和田さんが言った。

「ワンマンやりましょう。
サポート入れず、メンバー5人だけで」

なに?

アンマン食べましょう?

よかろう。

俺はアンマンには目がないんだ。

という事で、2023年3月3日。
GET BILL MONKEYS久しぶりのワンマン『THE"5"』が決行される事になった。

ワンマンをやると決めてから数ヶ月。

全員がセットリストを頭だけでなく体でも憶える為、何度も何度もリハを繰り返した。

どうすれば楽しんで貰えるか。

どこで『ハッ』としてもらえるか。

みんなであれこれ意見やアイデアを出していった。

「特別感を出すために、前回のワンマン『Ones Dance Romance』の第一部で着た衣装も準備しておきましょう!」

この提案は、視覚的要素に拘りの強い男、ボーカル湯口翔平のものである。

前回のワンマンで色々かましてくれたキーボードのノロナオキも
(詳しくはこちら)

この日の為にオープニングを飾るSEを頑張って作ってくれた。

「入場はカッコよく!これ大事です!」

バンドの為に自分が出来る事は全てやりたい。

そんなノロの拘りが散りばめられたSE。

「まだまだ!もっとカッコよくなります!」

数日前に行われたゲネプロの時点でも、ノロは更にアレンジを提案し一切の妥協を許さないアグレッシブな姿勢を保っていた。

そして当日の朝。

湯口翔平からLINEが入る。

湯口〈みんな衣装、全部忘れずにね!〉

一同〈了解!〉

湯口〈ネクタイも持ってきてね!〉

当たり前じゃないか。
ここまで心配するなんて全く可愛いヤツだぜ。
クスっとなった数分後、ノロナオキから返事が来た。

ノロ〈今日ネクタイっていりますか?〉

流石ノロナオキ。
なぜこんな土壇場でそんな斬新な質問をするのか。
『Ones Dance Romance』の第一部で使った衣装とネクタイはセットのようなものなのに。

カッパ巻きを注文した客に
『きゅうりっていりますか?』
ぐらい強烈な質問じゃねぇか。

湯口〈だから!第一部で使った衣装持ってきてって!!!〉

湯口翔平の小さな苛立ちが文章でも伝わってくる。

ノロ〈は〜い〉

ノロナオキの大きな余裕が文章でも伝わってくる。

まるでトムとジェリーを観ている様な気持ちになり静かに携帯を閉じた。

その後準備を済ませ、会場まで移動していた電車で携帯に通知が来る。

ノロ〈SE完成しました!〉

流石ノロナオキ。
本番当日のこんな時間までSEの調整を続けていたとは。

添付されていた音源を再生する。

・・・まさに『カッコよく』、『オシャレ』。

ワンマンライブの登場に相応しいオープニングの入場SEである。

拘り抜いた男。

ありがとうノロナオキ。

そして会場入り。

本番リハーサルの最後に、全員で入場の段取りの確認を行なった。

「SEは調整しましたが、ゲネプロと長さは変わってません!
4小節のブロックが4回来て『THE"5"』って声が入ります!
なので、4小節毎に1人1人入場しましょう!」

一同「オッケー!!!」

そしてその通りにリハーサルを行い、ステージ上で各々『よしよし!』と頷く。

が、

一人、顎に手を当てて考え込む男がいた。

心配性の湯口翔平だ。

この流れの場合、湯口がステージに登場した途端、すぐに曲に入る事になる。

湯口的には、『THE"5"』のタイトルコールが聴こえる時にはもうステージにいたい。

マイクを持ったり少し余裕が欲しい。

「何故だ…?ゲネでは大丈夫だったのに…?」

そりゃそうだ、メンバーは5人いる。

ブロックは4つだ。

一つ足りないのだ。

そう思っていたら、寡黙な男ブッチーが口を開く。

「ゲネの時は僕はKONGさんの後にすぐに出ましたから」

今の今まで誰も気がつかなかった時点で、ここにいる5人の成人男性、全員がおバカさんだったようだ。

続けてブッチーがこう言った。

「じゃあ16小節を4人で割るんじゃなく、5人で割って約3小節ごとに出てきましょうよ!」

結局5人のおバカさん達は、普段あまり使い慣れない「算数」という技術をフル活用する事に成功。

こうして心もカラダもスッキリして本番を迎えた。

会場ではお客様達が待ってくれている。
恐らく、ドキドキしてくれた人もいるだろう。

オンタイムで鳴り響くSE。

「行ってくる!!3小節ずつ!」

ステージに上がるKONG。

3小節後にブッチーが登場。

次の3小節でノロさんが…

来ない…!!!

『アンマンでも食ってんのか?』

ブッチーと目が合う…。

ブッチーがベースを構えたまま、ステージ袖に目をやる。

『まさか…事故が起きたか?
なんだよ…この変な間は…。』

と、思っていた時、

本番前の確認で失敗したサイズ通りの所で、ニコニコしてノロさんが登場。

そしてその後カワコウが登場。

湯口!

間に合うのか!?

おい!

ようやく湯口が登場するものの案の定、定位置に着く前に、試合開始のゴング

「ざ・ふぁ〜いぶ」


が鳴り響く…。

『さらば湯口!!
KONGいっきまぁーす♪』

ドンタタッタ♪ドコドコドドド♪

多分湯口…焦ってただろうなー…。

……。

本番終了後。

「ノロちゃん。SEの時なんで遅れたん?なんかトラブルあったん?」

ノロははにかみながら

「あ!すみません!数え間違えちゃって!3小節ってちゃんと数えなきゃダメっすね!」

流石ノロナオキ。

あんなにSEにこだわり抜いてたのに。

あんなに

「入場はカッコよく!これ大事です!」

って言ってたのに。

笑顔のノロの背後に見えた、湯口の背中が切なく見えた。

こうして…。

涙と笑顔に包まれ、
色んな意味でも『ハッ』とさせた、素敵なメンバー5人によるワンマンライブ。

THE"5"

は、幕を閉じたのでした。

皆様ありがとうございました!

それでは!

また!



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