坂本真綾を翻訳する / waiting for the rain 日本語訳
翻訳が趣味なので、翻訳をします。
また、どうやって考えながら翻訳をしているか書いてみることにしました。というのも、先日音楽のクリエイターの方とお話しして、どんなふうに曲を作ったり、詩を書いているのかお伺いしてとても面白かったので、自分もそういうプロセス=過程を書いてみると面白いかなと思ったためです。
ちなみにそのクリエイターの人たちは、まず情景、具体的な視覚的なイメージや感情を想起し、それが自然と音楽や言葉の選択につながっていくとおっしゃっていました。なるほどと思いました。
確かに自分も翻訳する時には、もちろん辞書を一語一語引いているものの、日本語にする際には、情景を心の中で描いており、そこから適切な日本語を選ぶというプロセスをとっており、似ているなと思いました。
では翻訳を進めたいと思います。
まずは一旦、最終的な言葉の選択をする前に、一旦明確に意味を取ります。意味がわからないことにはなんともなりません。明確に意味をとった上で、最終的に詩的な言葉を選択します。
タイトル
Waiting for the rain
雨を待っている
Aメロ1
I’m waiting for the rain
私は雨を待っている
(なぜ雨を待っているのかわからない)
I’m bracing for the thunder
雷に備えている(この表現だとダサイのであとで直す)
(単なる雨ではなく、雷を期待しているので、ここでのrainはかなり強い雨のことを指していることがわかる。全てを洗い流すような、破壊的な雨。やり直し、リセット、浄化的なニュアンス。)
A twig that wouldn’t sway
In the wind
風の中で全く揺れない小枝
(おそらく名詞 = twig 小枝から始まっているため、twig 小枝 = I つまり私のことであると思われる。比喩的に、雨と雷を待つ自分が、強い風に全く動じずに佇んでいいることを示唆する。wouldn't というのはかなり強い意志を持ってそうならない、ということを表す助詞です。もっといえば、普通風が強かったら小枝なんて揺れるよね、という一般的な「予想」に、強く反している状態にあることが wouldn't が示す状態です。ですからここでは、周りから見たら動じてしまうような強い変化、浄化が起きる雨が予期される強い風の中でも、凛としてそこに佇む坂本真綾が想起されます。)
Aメロ1を一個一個辞書で引いていってわかるのは、坂本真綾はかなり風の強い中で凛として存在しているということです。その風は強い嵐を想像させます。強い雨と、雷まで伴うような。雨と言っているけれど、ほぼ嵐です。そういう雨を待ち望んでいるわけです。
なぜでしょうか?雨は大地を洗い流します。そういう雨は破壊と再生、浄化と恵みを示唆しているように思えます。ノアの方舟の洪水のような。後半を読むとわかることですが、もう二度と会えない二人の関係が終わり、そしてそれでも二人は自分の人生を作っていくわけです。雨は、単なる破壊ではなく、植物を育む物質でもあります。ですから強い雨は、何かを終わらせリセットさせると同時に、成長、生命を育むポジティブな要素の比喩であると考えられます。
Aメロ2
Awaken from a dream
夢から覚めている
Arising from a slumber
まどろみから起きて
I’m far away from home
家から遠く離れている
On my own
たった一人で
Aメロ2は、ある意味で、ぼんやりとした世界に以前はいたことを示唆しています。そういう微睡の中から arise = 起きて、立ち上がって、たった一人で自分の道を行こうとしているわけです。そのために雨の破壊と再生を待っています。
Bメロ
Hear my yearning
私の切なる思いを聞いて(あなたに聞いてほしい)
(yearning = 憧れ、思慕、切なる思い、切望)
See the crimson flame
真紅の炎を見て
Like a ruby
ルビーのように(真っ赤に燃え盛る真紅の炎)
It’s the hope
(その炎は)私の希望
In my eye
(その炎)が瞳の中に燃え盛っている
Bメロでは、Aメロの雨といった水の、イメージから、炎のイメージに転換しています。一人で生きていくことの強い意志が炎に例えられています。
サビ
If you go away
もしあたなが行ってしまっても(去ってしまっても)
And I don’t see you anymore
そして、あなたもう二度と会わないとしても(会えないではなく、会わない、自分の意志で)
I still wouldn’t sway
それでも私は揺らがない、動揺しない
(still は wouldn’t と同じで、動揺すると一般的に思われることを、それに反して、というニュアンスが含まれます。あなたは私が動揺すると思っていると思うけど、そうじゃないということ)
But I’d be Missing you
でも私はあなたに会いたかった
(I had be なので過去の状態です)
Now don’t be afraid
でも心配しないで(もしくは恐れないで)
You the flower couldn’t sting
あなたは棘で刺すことができない花だった
You can hide in my shade
私の影に隠れることができる(現在)(どういうこと?)
Or maybe I…
それとも私が(あなたの影に隠れていた)
Could I be safe
In yours?
あたなのところで私は安心できていたの?
サビでは、あなたが去っても私は会おうとはしない。それでも心が揺れることはないと言っているけど、でも過去において(二人が別々の道を行くことを決めた前のことだと思いますが)あなたに会いたかったと言っています。わざわざ別れともう二度と会わない決心を告白した後すぐに、でも会いたかった、という坂本真綾。いいですね。
その後は、あなたは棘で刺すことができない花だったと言ってます。これがどういう意味なのかははっきりわからず、非常に詩的ですが(詩だから当たり前なのですが)、おそらくは「あなたは弱い繊細な人間だった、人を傷つけることもできないような(ゆえにあなたは私に何もしてくれなかった、関係を築けなかった)」というようなことなんではないかなと思います。人と人が関係を築くためには、深く距離を縮める必要があり、そうすれば当然誤解や、傷つけあうこともあります。ヤマアラシのジレンマ的なことです。そういう人として深く関わることのできない弱さのようなことを You the flower couldn’t sting = 棘で刺すことのできない花だったと表現しているのでしょうか。
そのあとは私の影に隠れていれば安全だということを言っています。優しく強い坂本真綾いいですね。でも、Or maybe I… Could I be safe In yours?本当は私の方があなたの影で安寧を得ていたのかもね、という言葉でサビが終わります。エヴァンゲリオンが好きなのでどうしてもエヴァが想起されてしまいますが、アスカ的な、わかりやすい強さを表面的には出しつつも、加持さんに安心を求める、そういうキャラクターなのかな。もしくはミサトさんが、シンジに対して上司として人生の先輩として信頼のある人間を演じながらも、弱さを抱え、シンジがいることで安心できている側面もある。そんな感じもします。
全体を通して
Aメロ1では坂本真綾は強い風の中に立っていて、嵐を待っています。雷を、強い雨を待っています。情景は自然の中にあります。(強い雨は再生を示唆します)
Aメロ2では、少し情景が自分の内的な側面に移ります。微睡から目が覚めて、意識がはっきりしつつあり、馴染みの場所から遠く離れて、たった一人で風の中にいる坂本真綾です。決心が伺えます。(一人の道を行く決心)
Bメロでは、情景は完全に坂本真綾の内部に移ります。今までの風や水のイメージから、炎のイメージに転換します。自分の瞳の中に燃え盛る真紅の炎は私の希望であり、その思いを聞いてと。(意志の強さが炎に例えられている)
サビでは、直接的に相手への気持ちが語られます。強い坂本真綾と寂しい弱い坂本真綾が交互に現れます。ここでは相手を花に喩えています。Aメロの雨と植物の対比がここで起きています。
ということで、まずは意味を取りました。ここから先は、この意味から、適切な日本語を探していきます。
翻訳学では「中間言語」という概念があります。これは要は意味の骨格です。You can shit down、座っていただいてもいいですよ。英語と日本語では全く字面は違いますが、意味の骨格は全く同じです。この意味の骨格を中間言語と言います。まずはこの中間言語として、意味を捉えるという作業を今までしました。この中間言語として把握できてしえば、あとは各言語の適切な表現を見つけるだけです。
話はちょっとそれますが、言語によって表現できることが変わる、と思っている人、主張する人がいますが、この理論によれば、基本的にそんなことはないだろう、どんな言語も同じことを表すことができる、ということになります。言語が違うくらいで、そんなに大きなことは起きません。しかしこういう主張は今でもよく見ます。が、そういう人は大抵複数言語を使ったことがないだけです。
ではまた!
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