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ブルアカアニメは何がダメだったのか

 私はブルアカアニメがクソアニメと叩かれるのは腑に落ちませんし、とはいえ手放しで褒められる出来でもなかったと思っています。
 自分が感じたことの言語化も兼ねて、何がよくないと思ったのか纏めようと思います。
 当然のごとく原作・アニメのネタバレがあるのでご承知ください。


①そもそもソシャゲのアニメ化が難しい

 大分身も蓋もないですがこれはあります。
 そもそもアニメ、いえアニメに限らず他界隈での発信というのは非常に難しい物です。小説、漫画、ゲーム、アニメ、ドラマ。それぞれ表現は異なり、培ってきた技術も、魅力も、顧客層もまるで違います。漫画が良かったからアニメも良かったとは限りませんし、その逆もあります。
 それでも、特にソシャゲのアニメ化というのは幾つもの困難があると思っています。
 その理由を列挙すると以下です。

1-1:キャラ数が多すぎる

 これは大分根深い問題です。
 キャラ数が多くて何が一番問題かというと、工数と予算を食いまくることです。登場キャラ全員にデザインを作って、原作設定を読み込んで、声優を当てて、各話での登場をストーリーに盛り込んで……。そうして費やしたコストの皺寄せは、ストーリーや作画など他に回ってしまいます。超雑に言えば登場人物が5倍になると、個々人の質(作画・演出等)は5分の1になります。
 ブルアカもソシャゲの例に漏れず、対策委員会、便利屋68、風紀委員会とかなりのキャラを登場させています。

メインキャラクター数は製作コストを膨れ上がらせる

1-2:キャラコンテンツとアニメの噛み合いが悪い

 「じゃあ原作からキャラ数削ればいいのでは?」という安直な発想もあるかもしれませんが、そうは行きません。何故ならソシャゲは基本的にキャラコンテンツだからです。少なくともブルアカは紛れもなくそうです。
 キャラコンテンツが何かというと、キャラクターに魅力を感じてもらう……ようはその為に可愛いイラスト描いて、出来のいい3DやPV作って、有名声優充てて、キャラの魅力を引き立てる物語書いて。そして推しに金をつぎ込んでくださいというビジネスモデルです。基本プレイ無料ガチャシステムが作られた土台はここにあります。
 そんなコンテンツでキャラを削ろうものなら、「私の推しが登場しないとは何事だ」などというお気持ちがユーザーから飛んでくることは間違いありません。ポケモン剣盾で大きく登場ポケモン数が削られた時、滅茶苦茶批判が噴出しました。現実的に考えて今までのポケモン全ての3D作るなんてコストと値段のつり合い考えて無理なのにあれくらい非難されました。ああいう流れになることは目に見えています。なのでキャラもただ登場させればいいというものではなく、各々に喋らせたり見せ場を作ることになります。「私の推しが戦闘で活躍しなかった!」とかいうクレームは容易に飛んできます。そうして尺はどんどん間延びしていきます。
 なにより8話で原作に一切ないユウカ・ノア登場シーンの評判が良かったことから、キャラコンテンツとして評価されているのはやはり確かだと思います。

存在しない記憶

1-3:表現コストが違いすぎる

 これは少し細かく説明します。
 例えばアニメで、会議の途中その場に居る誰かに視線を送る、という描写を入れるのは簡単な事です。ですがこれがゲームの場合、セリフとして「(○○さん、××のことを見ていた……?)」と言ってしまうか、わざわざそのシーンの為にスチルを描かないといけません。
 逆に戦闘シーンなのですが、ブルアカのゲームでは味方も敵もSDキャラを作ってしまえばあとは戦闘シーンが幾らあろうがそんなにコストはかかりません。ブルアカ原作、対策委員会編1~2章における戦闘は19回ですが、これが半分になったり2倍になってもコストはほぼ変わらないでしょう。
 ですがアニメは手書きなので、戦闘シーンの度に動きのある絵を描く破目になります。動きがあるということは当然作画枚数が多くなります。戦闘シーンの作画負担はとても大きいです。
 このような表現方法におけるコストの違いは、原作の表現をそのまま落とし込みにくいという点で製作難易度を上げるでしょう。

1-4:主人公の扱いが難しい

 ソシャゲにおいて、基本的に主人公はプレイヤー視点の為に存在します。特にブルアカはエロゲ文脈を大事にしているため、先生の顔も断定させず、プレイヤーの没入感を高めようとしています。このような前に出ないタイプのキャラは、アニメになると容易にあんまり活躍しない味方キャラになってしまいます。男性向け界隈において弱キャラの評価は非常に厳しいです。強キャラでさえあれば少々素行、人格、言動、品性に問題があろうが好かれますが、その逆は本当に人気に響きます。

前半はほぼ色気だけの男

 この点アニメスタッフも自覚はしていたのでしょう。「あんまり活躍しないのに評価はされる主人公」にならないように、先生への当たりを強くしたのが感じられました。気弱な優男というビジュアルもその一環だと思います。

②元のストーリーに1クール分の土台が無い

 これはブルアカアニメが好きな人には少々キツイことを言います。
 ソシャゲのストーリーが評価される場合、基本的にストーリーは一気読みされます。対策委員会編であれば、大概のユーザーはまとめて1~2章を読むでしょう。公開当時や配信者だったとしたら1章ごとかもしれませんが、おそらくそれくらいのボリュームだと思います。1章読んで面白かったかどうかの感想を抱くわけです。
 それに対しアニメは1話見て、1話毎に基本評価が下されます。
 対策委員会編の原作ストーリーに、アニメ12話全部を面白いと思ってもらえるような盛り上がりが幾つも、12個もあったかと言われると無いわけです。原作ストーリーの盛り上がりは銀行強盗回か、ホシノが退部届を出してからの流れになるでしょう。
 これを踏まえると8話の水族館回は英断だったと思います。

9話めっちゃ良かった

 こう言うと原作勢は「いやいやそれは12話全部見てから評価してよ」と思うかもしれませんが、アニメ勢からしたら面白くない話があるというのはそれだけで評価が下がって仕方ないとは思います。アニメの出来というのはどんどんインフレしていますし、1クールなら「12話全部がそれぞれ良かった」というのが目指すべき地点でしょう。顧客の体験を重視するならそうなるはずです。
 もちろんそれが「ブルアカはストーリー良いって評判だったけど実態はこれかぁ」という叩き棒にされてしまうのはあまり好ましく無いですが……。

③戦闘シーン

 ここまでは「まあ難しいことやろうとしてたから仕方ないよね」という点です。
 ここからはそれ以外になります。
 まず真っ先に言いたいのは戦闘シーンです。ブルアカアニメに肯定的な人も「戦闘シーンはちょっと……」みたいな意見はちらほら言ってます。
 私は正直1話の戦闘シーン見て大分うーんとなっていました。 

ポケモンバトルはちょっと……

 何が悪いのかと一言で言うと「カッコ良くない」のが一番の問題だと思います。勿論全部の戦闘シーンがそうじゃありません。対策委員会相手に無双するイオリのアクションは大分よかったですし、10話のアルちゃんのスナイパーライフル片手撃ちも良かったです。

なんかイオリのアクションやたらカッコよくありませんでした? 気のせい?

 ただ全体的にカッコ良くない、あるいはちゃちぃ戦闘シーンが多かった印象はどうしてもあります。
 これは近年のアニメと質を比較してもそうですし、何よりブルアカ公式のPV、そしてOPと比べてレベルが違いすぎるというのもあります。勿論OPに力を入れるのはわかりますし、基本的にどのアニメでもOPのアクションが一番作画が良いです。だからと言ってPVやOPでカッコいいアクション見せておいて、アニメ本編でのアクションがちゃちぃとやはり残念ではあります。

④30分アニメの経験値が足りてない

 もう色々すっ飛ばしてブルアカアニメの何がダメだったと思うか列挙していきます。
・ストーリーの進まなさ(「カイザーの所為で学校がピンチだよどうしよう~」から話が全然前進しない。かつ同じような内容の言い争いを続ける)。
・戦闘シーンの物足りなさ。
・次回が気になるような引きが、便利屋初登場時とホシノ救出前くらい。
・会話の線が多すぎて頭に入らない(喋るキャラ数が情報量を肥大化させている)。
 これらは先述の通り、作る前から原作上仕方ない面も多いです。ただそれにしても、もう少しどうにかならなかったのかと思う所はあります。ブルアカのOPがそうだったように、Yostar Picturesは非常にショートアニメーションのクオリティが高いです。アークナイツやブルアカの15秒CMなどでも、新興とは思えないくらいの素晴らしい仕事をしてきました。それに比べると……とは、どうしても思ってしまいます。勿論アニメを見てて、少しでもいいものにしようと尽力したのは随所で感じられます。しかしやはり、30分アニメ、1クールアニメの経験値自体が足りなかったという印象ではあります。後半になってカットの使いまわしという小技を使い始めたので特に。

2020年に出来たばかり

⑤前例がない

 先述の通り、ソシャゲのアニメ化は非常に難しい物です。
 デレマスやウマ娘といった成功例はありますが、それらは原作とは全然異なるストーリーをやっていました。原作ゲームのストーリーを踏襲しつつヒットしたソシャゲアニメ、というのは前例がありません(もしあったらコメントで教えてください)。
 前例が無いなら作ればいい。それはその通りです。ですが知って欲しいのは、そもそも原作ブルアカが数多の前例を土台にして作られたゲームということです。
 ストーリーは一昔前のエロゲとfate、メモリアルロビーやレアリティはプリコネ、F.SCT攻略戦は魔神柱、設定は聖書をベースに世界各地の神話ごった煮、用語は思想、芸術、文芸、特撮……とにかく大量の元ネタがあります。生徒や地名の設定で元ネタがない物の方が珍しいくらいです。当の先生も最終章で「物語のジャンルなんてなんだって構わない」ともう開き直ってます。

この節操のなさ

 だからブルアカがダメ、といいたいのではありません。「可愛い女の子と距離の近い時間を過ごしながら世界の危機に立ち向かう」というフォーマットが同じでも、キャラクターが違うだけで全く別のドラマを作れます。対抗戦1位に居る程度のユーザーとして、ブルアカはいいゲームだと思います。人にも勧められます。ゲームのあちこちから、スタッフの高い技術レベル、そしていいものを作ろうという熱意が感じられる作品です。
 ただ、そういう創り方をされてきた作品が、『原作ストーリー・原作ファンありきのソシャゲアニメ』という成功例の無いものに挑む。これは相当な困難だったろうという話です。

良かった点

 ここまでは良くなかった点の纏めでした。
 それを踏まえて、アニメの良かった点を纏めていきたいと思います。

①OP

 まずは何よりもこれです。
 私は初めてブルアカアニメのOP見た時、この先アニメの中身がどれだけのクォリティだったとしてもこのOP作られただけでアニメ化した価値があったなと思いました。それだけの出来、Yostar Picturesが培ってきた映像技術の集大成です。妹に「ほんへ見なくていいからOPだけ見て」と当時DM送ったのを覚えています。

②原作尊重

 これは8話の水族館でもそうですが、原作のキャラクター性、生徒一人一人の物語を尊重するという姿勢は強く感じられました。随所のアニオリも、批判があったのは先生の「私のおかげかな……」くらいで、基本的に評価が良かったと思います。
 Yostar Picturesに1クールアニメのノウハウがないだけなら他のアニメ会社がやれば良かったねという話なのですが、そういう話では済まない理由がここにあります。それくらいブルアカアニメは丁寧に原作を踏まえた作品作りをされていました。先述の通り、他メディアでの発信は非常に難しい物です。元のストーリーそのままじゃ駄目だから変えればいいという話ではないのです。原作改変で死人が出た例すらあります。

③原作とのシナジー

 これはアビドス3章を今読んでいる方ならすぐわかるかと思いますが、3章は露骨にアニメを見ている前提の描写をちらちらさせていました。そしてアニメもまた、今まさにアビドス3章を見ているユーザー向けの描写が含まれていました。

 原作でユメセンパイの過去が描かれるのに並行して、アニメでユメセンパイに声を付けたり原作に無かった過去を描写する……こういう魅せ方は良かったと思います。

④意見の反映

 後半から、アニメの質は目に見えて良くなっていました。それは単に改善されたというのでなく、ネットなどでの声を見て作っているのが感じられるものでした。評価の良くなかった戦闘シーンの魅せ方はカッコよくなって行きましたし、ノアユウの評判が良かったからか11話は他章生徒をチラチラ見せています。

ユーザー「やれ」先生「はい……」


 ブルアカは原作からそうですが、ユーザーの声を汲み取ることを非常に重視しています。アニメもまた、そういう姿勢に満ちていたと思います。
 ただしこのような制作スタイルが、現場に負担をかけていたことは想像に難くありません。「客先都合による仕様変更」がどれだけ工数を増やすか、どれだけ厳しい納期を強いられるか、多くの方はご存知のはずです。


⑤先生のビジュアル

 これは完全に私の個人的な癖で申し訳ないのですが、私は先生のビジュアルが発表された時、この優男スマイルでアコちゃんとSMプレイしているかと思うと興奮していました。ブルアカのキャラクターたちはアズレンとはまた違ったベクトルで「どうぞどうぞエロい目で見てください!」という造形をされていますが、先生もエロい目で見られる気満々のビジュアルだったと思います。

この顔の近さには黒先クラスタもにっこり

まとめ

 まとめると「まあ難しいアニメ作りだったとは思うし熱意は伝わったけど、前半面白くないのは円盤売れないよね」という感じです。
 これだけだと「じゃあそもそもブルアカをアニメ化したのが失敗だったのでは」と言われかねないのですが、私はそうは思いません。なぜなら昨今、大きな予算のアニメ・ゲームは基本的にIPが前提になっているからです。
 ブルアカという今ホットなタイトルだからこそ予算が付き、それに見合うスタッフが集まり、注目されました。このコンテンツ飽食の時代、どれだけクォリティの高いアニメやゲームがあると言われても、全く知らないタイトルに消費者は触れてくれないのです。
 何より、しがらみ一切なく創作活動をしたいなら、今は個人で幾らでも出来る時代です。だからこそ商業クリエイターには、多くの予算や注目の元大規模なプロジェクトに取り組んで欲しいと私は思っています。
 今回の挑戦で、間違いなく後の世に残るものは有りました。ブルアカもまた、あのOPとともにこれから語られる作品になっていくでしょう。

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