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「バーチャル瀧本」ができるまで

久保田です。

今回、瀧本さんのおそらく最終作となるであろう『2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義』をオーディオブック化しました。

制作するにあたって、一番強く意識したのは「あー、瀧本さんだ!やっぱいるんじゃん!」と思ってもらえるようなクオリティを目指しました。

僕自身、まだイマイチ信じられていない部分があって、ひょっこり出てきたりするんじゃないかという淡い期待を抱きながらも、どこかでそれは叶わないことも理解しています。

よく言われることですが、人の死は2回あって、1回は実際に亡くなること、2回目は人々の記憶から忘れ去られてしまうことだと。

今回「瀧本哲史さんってどんな人だったの?」と言ったときに「こんな話する人だよ」と音源を流せば人となりが立体的にイメージできるような、本を読んだことはあるけど、会ったことがない人にもイメージでき、語り継がれていくための道具になるような、そんな存在を生み出したいと思いました。

湿っぽい話をしたくなってしまう気持ちは山々なのですが、どんな時も希望を捨てない、可能性にベットし続ける瀧本さんだからこそ、意欲的な取り組みにしたいなと、色々と考えました。(湿っぽい原稿も書いちゃったんだけど、これはどうするか迷い中...)

そして、思いつきました。

オトでバーチャル瀧本を生み出してしまおうと、そう思ったのです。

これまでオトバンクは15年近く、試行錯誤を重ねに重ねながら、山のように自分たちの手で音声コンテンツを制作してきました。
出戻りのCTOには「あいかわらず町工場みたいな会社」と揶揄されるほど。
他のことは詳しくないけど、オトのことだったら誰にも負けないという、 “オトの職人たち”が会社にたくさんいます。多くが、創業間もない頃から何らかの形でかかわってきていた仲間たちです。

なので、僕たちの会社の魂には、音声コンテンツの作り手の血液が色濃く反映されています。今回こそ、この見えない財産をフル稼働させるべきだと、そう考えました。

そして、こういう取り組みは、ドラえもんが大好きだった本人もきっと喜んでくれるのではないかと思い、今は聞くことが叶わなくなった肉声に少しでも近いクオリティを実現したいと制作陣に話をしました。

まずは、瀧本さんの声に近い音感・音域を出せる読み手探しから始まりました。ものまねだったら、出来る人が出てくるかもしれないけれども、何時間も続けて安定した声で読み続けるとなると、音質的にも音波としても近いクオリティが必要だと考えたのです。

無理を言って制作のみんなに協力をしてもらい、大量のサンプルを取り寄せて、1つ1つ聴きながら近しい方を抽出していき、その上で、絞られた候補の方々に実際の講演音源を聞いていただいたうえで、実際に講演と同じ内容をしゃべったものを収録していただきました。

そこで選ばれたのが、この方です。

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横関さんです。

https://astx.jp/actor/yokozeki/


いま日本で一番瀧本さんに近い声を出せる人なのは間違いないと思います。

収録には、実際に収録するディレクターとは別に、創業間もない、オーディオブックのフォーマット自体が存在していない時からオトバンクに関わっている制作トップの伊藤さんにも同席してもらい、万全を期して収録に臨みました。

この本は、2012年6月30日に行われた実際の講義をベースにした本なので、編集者の柿内さんから音源をいただき、制作に関わる人全員で、イメージを膨らませました。

最初の収録の際に「読めてても、瀧本さんぽくないところは、全て録り直しましょう」という珍(?)ディレクションで横関さんを多少困惑させながら、収録開始。

柿内さんと制作する前に『「ぼわあ」を完全再現出来たら最高ですね』と話していたので、瀧本さんが良く使っていた「瀧本ワード」については、特にこだわりました。

こちらにも書いてありますね。

気になるところは、こんな感じで、納得いくまでやっていただきました(すみません。。。)

「瀧本ワード」のところは、あまりにもこだわりすぎてディレクターが呆れて「まわしとくんで、一番良かったテイク言ってください」とまわしっぱなしで、

「ぼわあ」

「ぼわあ」

「ぼわあ」

と延々と響き続ける奇妙なスタジオとなってしまいました。

「12,18,27,46,73番目が良かったです」と言って
「え、ちゃんと聞いてたの…」とディレクターもドン引き。

それ以外の部分でも、このときの瀧本さんは胸を張っているのか、屈んでいるのか、実際の講義音源のトーンと普段の行動をつぶさに観察していた自分の感覚とを合わせていき「ここは前30度くらい屈む感じで目線を誰にも合わせない感じで」とか「ここは、声を遠くに投げる感じで、でも腹から出す声ではなく、のどから声出す感じでちょっと鋭めです」とか、まあ本当に細かく調整をお願いしました。

自信が持てないときは全員で講義録を聴き「たぶん、これで間違いない」と確認しながら進めていきました。

その全てに応えていただいて、横関さんには感謝しかありません。
全収録に同席して思ったのは、非常に勘のいい役者さんで、最初の収録はニュアンスをつかむのに多少苦労はされたものの、以降は、本人の早口も相まってスイスイと収録が進み、後半の収録では、スタジオ入りのあいさつが既に瀧本さんぽくて「あ、瀧本さんだ!」と思うほどでした。
本当に横関さんにお願いしてよかったです。
制作が終わって、マネージャーさんにいかに素晴らしかったか、超長文を迷惑にも送りつけてしまいました。ありがとうございました。

瀧本さん関係の映像や音源を制作されることを検討されている制作会社の方々には、ぜひ横関さんをおすすめしたいです。
既に完璧に演技指導は済んでおります笑

ただの一人読みで演技指導ってなんだよって感じですが、まあ本当に演技指導と言えるほど細かく対応していただいたと思います。

ただ、音感を合わせるために収録の休憩の時などに講義音源を流したのですが「ちゃんと聞き取れないところが多いから、今回の作品は、特徴はおさえられてる、聞き取りやすい瀧本さんの音源になりますね(なんじゃそりゃ)」とこれを本にできたのすごいな、どうやって聞き取ったのあの人は、と編集者の柿内さんの超人ぶりに制作現場のみんながたまげました。
(これはこれで、どこかでお話を伺ってみたい)

自分も久しぶりに制作の現場に関わることができ、そして横関さんのクオリティのおかげで、瀧本さんと一緒の時間を過ごせた気がして、とても楽しかったです。

やっぱり現場が好きだなあ、と思ってしまいました。
(そういう仕事は君の仕事ではない!と、空からめちゃくちゃ詰められそうでこわい。。。)

最後に、クオリティを追求しすぎて特定箇所について言えば100回近く読んでくださった横関さん、星海社の皆さま、編集者の柿内さん、ツドイの今井さん、そして伊藤さん、内田さんをはじめとした制作スタッフの皆さん、そして茜さん、本当にありがとうございました。
皆様のご協力なしには、実現できませんでした。

バーチャル瀧本、どうだろうか。
喜んでくれるといいなあ。。

できれば、ひょっこり出てきたりしてくれると、いろんな人が喜ぶと思うのだけど。

「宿題、ちゃんとやってきてから来てください」と追い払われそうな気がするので、もうしばらくこっちで頑張りたいと思います。

では皆さん、「バーチャル瀧本」ぜひお楽しみください。



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