バンテリンの宴 第一章 邂逅 2002年 夏
1.
「君ハ平成ノ怪物?」
突然、後ろから声をかけられた大輔は、驚きを隠せなかった。
大輔は無類のゴルフ好きである。
今日も練習をサボり、クラブハウスに足を運んでいた。
ここで、ゴルフのプロ・アマ交流戦が行われるからである。
「えっ!?」
振り返ると、そこには背の高い黒人男性が立っていた。
髪は短く、瞳の色はブラウンだ。
黒い肌が太陽の光を浴びて輝いている。
服装は派手な赤シャツだが、スタイルが良いため、とてもよく似合っていた。まるでハリウッドスターのような男。
そう。タイガー・ウッズだ。
ゴルフ好きの大輔でなくとも、誰もが知っているスーパースター。
今日の交流戦にスペシャルゲストが来るという噂を聞いてはいたが、まさかタイガー・ウッズとは。
「すげー! 本物かよ!」
思わず歓声を上げた。
そんな大輔を見て、黒人選手はニヤリと笑う。
そして――。
「君ハ平成ノ怪物? 人違イカナ?」
流暢な日本語で問いかけてきた。
「日本語しゃべれるんすか!?」
「ワタシ、日本大好キダヨ。勉強シタネ」
タイガー・ウッズは爽やかな笑顔を浮かべる。
「うおおおぉぉ……マジで感激っす!」
大輔は興奮して叫んだ。
憧れのタイガー・ウッズが目の前にいるのだ。
しかも自分のことを『平成の怪物』と呼んでくれた。
嬉しくないはずがない。
「あなたガ噂ノ平成ノ怪物カ」
タイガー・ウッズはゆっくりと歩み寄ってくる。
そして、右手を差し出してきた。
「お会いできて嬉しいです!」
大輔は興奮しながら握手に応じた。
その瞬間――。
大輔の視界が暗転した。
意識が急速に遠ざかる。
(なんだ……?)
全身から力が抜けていく。
立っていられないほどの目眩に襲われ、地面に膝をつく。
大輔は必死に耐えようとするものの、身体はまったくいうことを聞いてくれない。
朦朧とする意識の中、大輔はタイガー・ウッズが何か呟いていることに気が付いた。
(バンテリン……?)
意味不明の言葉だった。
タイガー・ウッズは、なぜこんな言葉を口にするのか。
しかし、それを気にしている余裕はなかった。
急速に視界が狭まっていく。
やがて完全にブラックアウトし、何も見えなくなった。
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