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大昔にUSCPAを受けた話

はじめに

 完全に思い出話です。お役に立つかどうかはわかりませんが、これから受ける方の参考になればと思います。

1. 受けた理由

 当時海外にいたのですが、会計バックグラウンドが無いにも関わらず、英語で財務諸表を読む必要に迫られたためです。また、体系的に会計を学ぶ機会がこれまでなかったので、ここいらでやっておくか…と思い勉強をスタートしました。

 もちろん、会計の勉強自体は本を読めばある程度はできますが、なにか目標があったほうが良いだろうと思い、USCPAを受けることにしました。死ぬほど安直な考えだったのですが…

2. タイムライン

・t年8月: 思い立つ。予備校に申込み勉強を開始する
  ーなお、受験州はNYにしました(登録しないため、雰囲気で選びました)
・t年10月: FAR(財務会計)受験→合格。88/100
・t+1年1月: BEC(ビジネス教養+管理会計等)受験→合格。86/100
・t+1年1月: AUD(監査)受験→不合格。74/100
・t+1年2月: REG(税制/会社法等)受験→合格。87/100
・t+1年4月: AUD(監査)再受験→合格。82/100

3. 予備校選びと失敗の原因

 さすがに完全独学だと厳しいだろうと思い、Webで受けられる予備校のうち某社(絶対に具体名は出しません)に申込みました。数回の授業を受けた後、これは自分の頭に全く合っていないな、完全にやっちまったなあと気づきました。

 というのも、各種仕訳ルールを暗記するベースで講義が進んでおり、ルールの背景にあるロジックなどの説明がけっこう端折られていたからです。

 突然ですが、記憶にはいくつかのタイプがあると思っています。どこかに元ネタもある気がするのですが、①物事や規則の名称と内容、②物事同士の論理的連関、③具体的エピソードの三種類が相互に絡み合って記憶が形成されるのではないかと思っています。

 で、完全に自分語りですが、わたしは物心ついた時から①の能力が極端に弱く、常に「その概念やルールがなぜ生まれたか、なぜそのような名称になっているか」「その概念やルールが関係する具体的なエピソードは何か」を抑えないと、それはもう記憶が定着しません。あらゆるペーパーテストを、②③を深堀りすることでなんとか乗り切ってきました。

 翻って当該予備校の講義は、例えば「退職給付債務の評価損益はOCI(その他の包括的利益)に直入するんや」みたいなルールそのものの説明が中心になっており、そのunderlying logicについては省略される傾向にありました。こういう形式の講義は、丸暗記が得意な方にとってはめちゃくちゃコスパが良いです(実際に多くの合格者を出しています)が、これは全く自分の頭の作りに合わんなあと途方に暮れてしまいました。

 ※補足ですが、日本でライセンスを持っている方や、業務として経理や内部監査に携わっている方は基礎ができていると思うので、ルール(JGAAPとUSGAAP/IFRS)の相違を中心に抑えればそこまで苦労しない気がします。
上記の苦難は、会計初学者向けの話です

4. 予備校が合わなかったことに対するリカバリ策

 で、今更別の予備校と追加で契約するお金もなかったので、講義は1.5倍速で一回ししつつも、ロジックや背景の部分は自分で補うことにしました。

 そのときに非常に役に立ったのが、MBA向けに出版されている会計や監査のテキストです。幅広いレベルの学生を対象にするからだと思いますが、背景やエピソードも含め死ぬほど丁寧に書いてあります。この方法に出会うまでに、丸暗記的な頭の使い方で脳にストレスが掛かっていたため、教科書を通読した際には感動の連続でした。

 具体的には以下の教科書を使いました。版が古いものであれば60ドルくらいで買えたと思います。

会計:
Financial Accounting: An Introduction to Concepts, Methods and Uses

監査:
Auditing & Assurance Services

5. 各科目の対策

①FAR(財務会計)

 講義ビデオ(1.5倍速)+上記の教科書を隅から隅まで読んだ後、Wileyの過去問を一周しました。当時集中的に時間があったため、講義ビデオ含めて計200時間は勉強した気がします。
 いま私はバイサイドの片隅で仕事をしているのですが、ダントツで役に立っているのがこの科目です。仕訳を徹底的にやることで財務三表の繋がりが肌感覚で分かるようになりましたし、必要な場合は自分で仕訳をしてモデルに組み込むことも一応出来るようになりました。また、日本と海外の企業を横比較する際に、各会計基準の違いをアジャストするといったことにも役立っています。
 (まあ正直なところ、基礎的な会計知識という面では、日本で簿記二級を取れば概ね十分な気もしています)

②AUD(監査)

 講義ビデオ(1.5倍速)+上記の教科書を隅から隅まで読んだ後、予備校の過去問題集を一周しました。また、そもそも監査というものについて一切知らなかったため、雰囲気を掴むために日本語の会計ビジネス小説的なものを2-3冊読んだ覚えがあります。
 そのうえで、まあ割といけるやろくらいの感覚で一度試験を受けたら一点差で普通に落ちてしまい、反省してWileyの過去問を一周しました。
 なお、完全にマークシート問題向けに知識をアジャストしてしまったため、監査の体系的な知識がついたとは凡そ口が裂けても言えません。が、監査とはどのようなもので、会計士はどこを見ており、粉飾の際にはどういう点でブックに無理が出るのかという雰囲気が掴めたのは、なんとなくその後も役に立っている気がします。

 この時点で学習という意味での目的は達成していたのですが、せっかくなのであと2科目も頑張って受けることにしました。

③BEC(ビジネス教養+管理会計)

 BECについては、経済、経営戦略、ファイナンス、ITシステム等が薄く広く問われることに加えて、管理会計が問われます。経営管理に関わるトピックをざっと知るのに良い科目だと思います。

 BECは、管理会計を除いては元々の知識でいける方も多いと思います。私は、足りていない部分については、日本語の超基礎的な本(サルでも分かるITシステムみたいなもの)をKindleで買って読みました。基礎的な知識で足りるため、英語のテキストを読まずとも、日本語で勉強してWileyの過去問を解けば割と大丈夫というか、それが最も効率的な気がします。

 ちなみにですが、管理会計はもっと設問数や配点が高くてもよいのではないか…と思っています。実務で触れることが多い割に、USCPAの試験では少ししか触れられていないです。

④REG(税制や会社法など)

 この科目が最も辛かったです。人生で経験した勉強の中で精神的に一番辛かったかもしれません。法人所得税や会社法周りはある程度土地勘があったのですが、個人所得税や資産課税がとにかく苦痛でした。個人向けの税制優遇措置の内容を暗記する羽目になるのですが、近いうちに移住するわけでもないアメリカという国の寄付控除の上限金額など、言い方は悪いですが正直知らんがなと思いながら頑張って暗記しました。前述の通り暗記は死ぬほど苦手なのですが、一応2週間くらいは記憶が持つため、直前にめちゃくちゃ詰め込んでなんとかしました。仮にいま試験問題を見ても、冗談抜きで一問も解けないと断言できます。

 身も蓋もないですが、REGについては、会計/税務プラクティスの人以外にとっては割り切りの問題だと思っています。税法も会社法も、日本の法体系とけっこう違うため、その後日本で使える部分はFAR等に比べて少ないです。これが片付けば合格だと思って我慢するしかない気がします。

6. 結局、役に立っているのか

 まず実務ですが、前述のとおり、FARについては実務上非常に役に立っています。が、それ以外については、仕事として監査(内部監査含む)や経理に携わる方以外は、もう少し効率的な勉強法があるのかなあ…というのが正直な感想です。(勉強にコスパを求める事自体が間違っている気もしますが)

 転職に役に立つのかという点は、本当に人と転職先によると思います。例えばNon-MBAの人が外資の事業会社を受ける際に、最低限の英語ができる+一定程度会計が分かるというCredentialになることはあり得ると思います。
 他方、いわゆる戦略コンサルでは、事実としてUSCPA合格者をあまり見たことがないです。なお私は二社目が戦略だったのですが、転職先に内定をもらったタイミングはUSCPA受験のだいぶ前ですので、実際有利になるのかどうか不明です。
 バイサイドでは、運用であればCFAを目指すのが一般的ですし、バイアウトならUSCPA合格よりも「コンサルで3年間DDにまみれていました」という方が訴求力が大きいと思います。
 監査/経理については業界の人間ではないので全くわかりませんが、グローバルな経理や監査に携わるなら間違いなく役立つだろうなと思います。

 以上です。もし受験上のお悩みがあり、何かお役に立てるなら個別にご連絡いただければ幸いです。

 




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