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ビールの歓喜とランチの悲嘆、そして劣化する未来?

「和食創作 蝦夷蔵 札幌店」2021年1月6日(水)

年末年始における大寒波は、雪は多くをもたらさずとも、身がすくむような寒さで覆い尽くしていた。
外出することが非日常となってしまった今、その寒さは格好の理由ともなるのだが、現実の社会はそうもいかなず、社会は個人の集合体で成立しているにしても、リモートワークやテレワークといった戦術が通用しない組織体もあるのが実情なのだ。

それにしても、昼時なのにこの閑散ぶりは空襲を恐れる戦前の様相を模写しているのだろうか?
人も疎らな札幌駅前で看板を置くスタッフが見受けられた。
ちょうどランチを告知する看板設置に勤しんでいたようだ。
「いらっしゃいませ」の一言に呼び寄せられて、古びたビルの地下に降りて行った。
以前にも訪れた記憶がある場所に新たな店名が刻まれることは、別段特異なことではない。が、店名自体が不明確でしかも2店の名が同時に並んでいることに奇妙な違和感を覚えたが、ひとまず厳し過ぎる寒さから避難することに安堵した。
ランチメニューに目を通すと、「ビール1杯無料」というPOPが視線を釘付けにしたのだ。
しかもランチメニューのお客様限定とある。


アルコールには滅法強いという自負は、午後からのスケジュールなど淀みなく打ち消し、躊躇なくビールを呼び寄せた。
むしろランチの選択に迷走しつつあった。
先に運ばれてきたビールを飲みながら、スタッフにランチメニューを尋ねることにした。


すると、どのメニューに対しても明確な回答を有していない。


例えば、「日替わり刺身定食」のネタへの質問には答えられず、「からあげカレー」と「唐揚げ定食」における唐揚げのボリュームの違いに対してもどこか辿々しく、
『からあげカレーは4個、唐揚げ定食は10個です』と頼りなく応じた。
その個数の大きな相違とビールとの関係性からして「唐揚げ定食」に的を絞ることにした。
しかし、そこにも誤算が生じた。
ビールが「唐揚げ定食」が届く前に呆気なくなくなってしまったのだ。
さすがにビールのおかわりは、ランチ自体にも支障を来たす。
その時、「唐揚げ定食」が飛来するようにテーブルに置かれた。


一見するとボリューム感溢れる唐揚げでも、箸を伸ばすとその肉感の欠如が伝わってきた。
唐揚げ10個のうち、肉感のあるものはおそらく4個ほどであろうか?
それ以外は、唐揚げというよりは皮揚げのような印象で、なかなかご飯が進まない。
それはこの店にとってのランチレベルなのか、昨今の社会情勢下での劣化によるものなのかは定かではない。
とまれかくまれ、昼時のビールの格別さだけは、ランチのネガティブな印象を打ち消し、仄かな温もりを体に宿した。
店を出ようとレジ前に立った。
口数少ないスタッフが幾度となくレジを打ち間違えた。
ほんの束の間であったが、否応なくレジ前で待たされ続けた。
どうもレジの打ち方すらままならないようだ。
謝罪もないままに、違うスタッフがレジの打ち方を教えているうちにも、店の入口から入り込む隙間風が全身を冷酷な世界へと引き摺りこんでゆく。
あらゆるものが劣化してゆくのか?
それは近未来のキーワードのような気がした…

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