すすきのの闇と寒さの中で出逢う、おでんと日本酒の快。
「おでん処 わんらうんど」2021年1月11日(月・祝)
もしも、この寒さに頷くとすれば、
体も心もとろけるような温もりを欲する。
もしも、この空腹が満たされるならば、
染み入るような食と酒を求める。
その願いと期待に反して、街のネオンの数は乏しく闇に支配されつつあった。
歩いても歩いても、シャッターで閉ざされたおどろおどろしい空漠しかなかった。
妥協と諦念の只中に揺れ動く空腹。
そこにどこか穏和な灯が雪の中に揺らめいていた。
おでんという文字とその店名の違和感を抱きながら扉を開けた。
地下1階へ降りて行き、ゆっくりと店のドアを開く。
おでんのイメージとは相反する洗練された内装の中で、女性客1名がカウンター席で女将と語り合っていた。
女将は朗らかな笑みを浮かべながら、カウンター席へと導いた。
生ビールを飲みながらメニューを見渡す。
5種という多彩なお通しに、選択するという窮屈な自由からの解放を感じ取った。
そうなのだ、我々は時に選択できない不自由に身を任せたくなるのだ。
お通しだけでも満足感を得ることは容易なのに、日本酒の多彩さがそれを惑わす。
一連のおでんの穏便な味つけに寄り添う日本酒を求めた。
5種のお通しに対して生ビール2杯を飲み干し、おでんに相応する日本酒の選択には自らの意思が求められる。
まずは、俳優の実家が営む京都の「聚楽第」。
それは軽やかな辛さを運んだ。
次に、華やかに澄んだ長野の「大信州」。
明日を忘れさせる酒は、新たなるおでんを追い求めた。
さらに、京都の深みを放つ「こんてき」。
そこに、朗らかな女将の柔和なサービスによって粕漬けをいただいた。
気がつけば、インパクトの強い青森の純米新酒「初しぼり」。
もはや、おでんを食べ尽くして、さらに新たなサービスのアテまで頂戴した。
すすきのの惨状や人の少ない雑居ビルの水道凍結の多発、という話題に耳を傾けていると、足元から痛々しい寒さが襲いかかって来た。
地下ゆえに寒さはこの上なく、カウンター席の下の棚に置かれたブランケットを膝上に置いた。
けれど、日本酒という暖房の方が何より心地よい。
締めは、北海道の酒として名を馳せる「ニ世古」。
スタンダードのおでんと日本酒を存分に愉しむ祝日。
未来はしばしば不安と腕組みをして人を惑わす。
そんな時は、我が食欲と酒欲に忠実になれば良い。
迸る満足感は、凍りつく街の空隙に只ならぬ不安に白い息を吹きかけてくらました…
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