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Längtan till landet (歌詞について)

はじめに:スウェーデンの歌とワルプルギスの夜

 5月になりましたね。さて、以下は昨日のスウェーデン大使館のツイートです。

 さて、今日は記事の題名にしているこの歌の歌詞を見てみたいと思います。

 ツイートにある通り、昨日はワルプルギスの夜でした。本日5月1日は聖ワルプルガ下画像参照)が列聖された日で聖名祝日になっていますが、その前夜Valborgsmässoaftonということになります。まあ詳しくは調べてみて下さい。

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 ちなみに、ゲーテの『ファウスト』にも出てきますね。

Faust
Du Geist des Widerspruchs! Nur zu! du magst mich führen!
Ich denke doch, das war recht klug gemacht;
Zum Brocken wandeln wir in der Walpurgisnacht,
Um uns beliebig nun hieselbst zu isoliren.
(参照:Faust, erster Teil, 4030 - 4033, [1, p.165])

 ファウストは久しぶりに見ましたが割と好きです。時間があれば、もっと読みたいのですが、口だけでなかなか手を付けられません(笑)

 さて、本題に入りましょう。

本章:"Längtan till landet"の興味深い点 (+ 試訳)

 この歌"Längtan till landet"はHerman Sätherbergにより1838年に作詞されました。ツイートで歌われている部分の歌詞を下に示します。

Wintern rasat ut bland våra fjällar;
Drifvans blommor smälta ned och dö;
Himlen ler i vårens ljusa qvällar;
Solen kysser lif i skog och sjö.
Snart är sommarn här; i purpurvågor,
Guldbelagda, azurskiftande,
Ligga ängarne i dagens lågor,
Och i lunden dansa källorne.
(参照:[2, p.12])

 現代の綴りに直すと以下のようになります。fv → v, qv → kv, -f → -vという典型的な違いが見られます。その部分だけ太字にしてみました。

Vintern rasat ut bland våra fjällar;
Drivans blommor smälta ned och dö;
Himlen ler i vårens ljusa kvällar;
Solen kysser liv i skog och sjö.
Snart är sommarn här; i purpurvågor,
Guldbelagda, azurskiftande,
Ligga ängarne i dagens lågor,
Och i lunden dansa källorne.
(参照:[3])

 これで現在の綴りに従った形になったわけですが、まだこれは『普通のスウェーデン語』ではありません。3つの点からそれを考えてみます。

 ・fjällar:名詞fjällの複数形ですが、現代のスウェーデン語でfjällは中性名詞で単複同形です(例えばSAOLを引いてみて下さい)からおかしいですよね。実は、この単語は共性(男性)名詞としても使われていた時期がありました。kvällarとの押韻の都合もあるのかもしれません。

 ・動詞の複数形:2行目のsmälta nedと、7行目のLigga、8行目のdansaは全て動詞の直説法現在複数です。不定詞ではありません。スウェーデン語は現在では動詞の数・人称による形態の差を持ちませんが、20世紀中葉(の文語)までは複数形と単数形の形が異なっていました(単数形に合流しました)。前回の記事を読んでみて下さい。

 ・複数定形語尾 -ne:7行目のängarneと8行目のkällorneは、それぞれängとkällaの複数定形(既知形)です。現在であればängarnakällornaとなりそうな所ですよね(今では複数不定形を-ar, -or, -erで作る場合はそれに-naを付けるのが複数定形の標準的な形です)。
 実は19世紀当時は-na, -neの両方が用いられていました。正確には、複数接辞(複数形が-arの場合に-ne)や名詞の文法性(男性名詞の場合-ne)に応じて使い分けをしていましたが([5, p.163 - 164])、現代語ほど支配的な規則があったわけではないようです。källorneについては6行目の現在分詞のazurskiftandeとの押韻も考えられているでしょう。

 以下に拙訳を示します。括弧内は比喩的表現の解釈です。引用ではありませんが見やすさの為に引用形式にしておきます。

 冬が我らの山から去った;
 吹き溜まりの花が溶け去る;(吹き溜まりの花 = 積雪)
 空が春の明るい夕に笑い;(空が笑う = 晴れている)
 陽が森や湖の生命に口付けする。(太陽がキスする = 暖める)
 夏がじきに来る;紫の波に乗って、
 黄金色に装い、紺碧に煌めいて。
 草原は日の炎の中に横たわり、(日の炎 = 暖かい日光)
 泉は木立の中で踊る。(泉が踊る = 水が湧出する、流れ出す)

 大意は外していないつもりですが間違っていたらごめんなさい。ご指摘いただけると喜びます。

参考

[1] Faust: eine Tragödie. Erster Theil, Band 1

[2] Jägarens hvila. Poetiska bilder från skogen, fältet och sjön; af Förf. till Skogsharpan

[3] Längtan till Landet (Litteraturbankens Skola)

[4] Svenska Akademiens Ordbok

[5] Svensk Språkhistoria I, Elias Wessén (1948)



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