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『ルクセンブルク語入門』(大学書林)で誤りを疑う箇所

最終更新:2022/03/07

0 内容の説明

 田原憲和先生の『ルクセンブルク語入門』(大学書林、2013)を読んでいる中で気づいた、誤植かもしれない部分のメモです。

 前提として、この本がルクセンブルク語中央方言に関する入門である(明確には書かれていない……気がしますがこれは間違いないと思います)と考えて他の資料を参照しています。

 何か間違って(間違いや誤植でないものを)指摘していたらお気軽にご指摘ください。

1 誤植が疑われる箇所

 以下、
・ページ数(行数):注目部分(『』で囲む):コメント
の順で記していきます。引っ掛かった箇所修正候補太文字で示します。
(133~139頁は動詞変化表なので行数ではなくて何番目の動詞かを示します)

 また、2019年11月の正書法改正で古くなってしまったと思われる部分には[2019正]と示しています。当書籍の出版年は2013年ですから、これらは誤植ではありません

-------------------------------------始まり----------------------------------------

・3頁(14):『Meedchen [メートェン]』 :ルクセンブルク語のchは後舌母音に後続する場合以外は無声歯茎硬口蓋摩擦音[ɕ]なので[メートシェン]あたりの方が近いかなと思います。

・5頁(7):『noch [ッホ]』:nach [ナッハ]だと思います

・23頁(4):『Mir kaafen ...』:kafenだと思います

・27頁(下から2):『は ...』:文頭のDirの訳なので君たちもしくはあなたと訳する方がベターだと思います

・28頁(10):『Ech kaafen ...』:kafenだと思います

・28頁(下から1):『... de Professor』:Professerだと思います

・31頁(下から1):『... は ...』:mirの訳なので私たちだと思います

・40頁(下から5):『... mar akaufen.』:akafenだと思います

・41頁(6):『foffzéng』:fofzéngだと思います

・41頁(6):『foffzeg』:fofzegだと思います

・41頁(11):『sechs-honnert-fënneg-an-nonzeg』:sechs-honnert-fënnef-an-nonzegだと思います

・53頁(4):『links』:lénksだと思います

・53頁(10):『Zowaach』:Zowaaschだと思います

・59頁(4):『... Auer obgestanen.』:opgestanenだと思います

・59頁(下から6):『ボーイフレンド一緒』:ボーイフレンド一緒

・[2019正]61頁(下から8):『zréckkënns』:zeréckkënns

・61頁(下から2):『matbrénkt』:matbréngt

・65頁(下から1):『病院はホテルの…』:Gareの訳なのでだと思います

・[2019正] 73頁(11):『... ähnlech.』:正書法改正でänlechになりました

・74頁(15):『foffzéngt』:fofzéngtだと思います

・84頁(表2行目3列目):『hift / hutt』:hieftだと思います

・88頁(下から3):『..., dat virum der Gare ...』:der Gareの前ですからvirunだと思います

・91頁(下から5):『dem säi』:deem säi

・101頁(5):『... en Handy kaafen』:kafenだと思います

・[2019正] 107頁(下から8):『zréckzekommen』:zeréckzekommen

・112頁(3):『aachtzeg』:achtzegです

・112頁(10):『Affekot m. -n』:Affekot m. -en です

・112頁(11):『★akaufen』:akafenだと思います

・112頁(下から10):『★ausféieren』:★がついていますが、不規則動詞表に不登場です。また「遂行する、実行する」意では規則動詞としての変化、不規則動詞としての変化が混在するようです。

・[2019正] 113頁(下から14):『Bir』:Bierになりました

・[2019正] 114頁(下から22):『Chines』:Chineesになりました

・114頁(上から12):『Bléiwer』:Bréiwerです

・114頁(下から17):『Cousinnen』:複数形は-ënです(Cousineën

・115頁(上から18):『déier』:deier です

・118頁(13):『foffzéng』:fofzéngだと思います

・118頁(14):『foffzeg』:fofzegだと思います

・118頁(15):『foffzéngt』:fofzéngtだと思います

・118頁(17):『Fousball』:FoussballもしくはFussballだと思います

・119頁(24):『gëster』:gëschterです

・120頁(下から12):『Hierscht, m. -en』:-erです

・122頁(下から9):『kléng』:klengです

・122頁(下から7):『Kolleg』:Kolleegです

・123頁(39):『Léit』:Leitだと思います

・124頁(5):『links』:lénksだと思います

・[2019正] 124頁(20):『Mäerchen』:正書法改正でMärchenになりました

・125頁(22):『näscht』:näischtです

・125頁(下から12):『noch』:nachでしょうか

・126頁(19):『Pabeier m. -er』:複数形は-enです

・126頁(23):『Papp n.』:男性名詞m.です

・126頁(30):『Philippinen』:ルクセンブルク語ではnを重ねます:Philippinnen

・126頁(下から9):『Professerin(高等教育における男性の)』:女性です、またProfessorinです

・127頁(4、5):rennenの後にreesenが来ていますが、文字列のソート的に逆ですね

・127頁(7):『rekommandéieren』:recommandéierenです

・128頁(下から13):『sichzeg』:siechzegだと思います

・128頁(下から12):『sichzéng』:siechzéngだと思います

・130頁(1、2):treffenTréierの前に来ていてソート順が変です。

・131頁(下から14):『wéiso』:wéisouだと思います

・132頁(10):『wouhir』:wouhierだと思います

・132頁:『Zowaach』:Zowaaschだと思います

・[2019正] 132頁:『zréckkommen』:正書法改正でzeréckkommenになりました

・133頁(2番目):『hie(n) schléft 』:hie(n) schléiftだと思います

・133頁(5番目):begréissenの過去分詞としてbegossが当てられていますが、begossを過去分詞とする動詞の不定詞はbegéissenですし、begréissenの過去分詞はbegréisstだと思います(規則動詞です)

・133頁(6番目):『du behaaps』:du behaaptsだと思います

・134頁(8番目):『empfueren』:empfuelだと思います

・134頁(11番目):『erausklommen』:erausgeklommもしくはerausklommenだと思います

・134頁(12番目):『erënnern』:erënnerenだと思います

・136頁(4番目):『hie(n) hësst 』:hie(n) kësstだと思います

・136頁(5番目):『geklaamt』:geklommenもしくはgeklommだと思います

・136頁(下から5番目):『dir loossen』:dir loosstだと思います

・138頁(下から5番目):『vergiss』:vergiessだと思います

・[2019正] 139頁(下から1番目):『zréckkommen』:正書法改正でzeréckkommenになりました

・[2019正] 139頁(下から1番目):『zréckkomm』:正書法改正でzeréckkommになりました

・139頁(下から1番目):『dir konnt』:kommtだと思います

・140頁:dierfenの活用(接続法)でduに対して『dierfs』、mir, siに対して『dierfen』となっていますが、それぞれdierfts, dierftenだと思います(過去現在動詞)

・141頁:『vergissen』:vergiessenだと思います

・142頁(下から2):『Walferlingen』:Walferdingenだと思います

・142頁(下から1):『Zowaach』:Zowaaschだと思います

-------------------------------------終わり----------------------------------------

2 その他(発音に関する記述に関して)

 2~8頁の発音に関する記述ですが、参考文献[2]~[4]とは違う記述になっている部分がいくつかありました。具体的には同一音節内の他の子音に後続する <w> の発音、また、 <ch> や <g> の歯茎硬口蓋摩擦音としての発音 [ɕ, ʑ] を [ʃ, ʒ]や [j] として説明している部分などです(ただし [ɕ, ʑ] と [ʃ, ʒ] に関しては合流する傾向が見られるようですし [ʑ] は [ʝ] と自由交替する場合があるようです)。[4]では実際に音響解析を行っており、説得力が高いように感じます。また、[2]や[3]での音声表記も[4]と同じですので個人的にはこちらを信用しています。

 これはこの本の入門書としての性質(網羅性より簡明さを優先する?)によるものかなと思います。ただ、上で指摘したMeedchenの発音に関してはどちらにしても「ヒェ」とは聞こえにくいかなと思ったので書いておきました。

3 参考

[1] Luxemburger Wörterbuch (LWB)
 Infoluxで利用することのできる辞書の中では最も新しく、規模の大きな辞典です。ただ、1950年から1975年にかけて出版されたものなので、ところどころ正書法などが古くなっているものと思われます。

[2] Lëtzebuerger Online Dictionnaire (LOD)
 ルクセンブルク文化省による新しい辞書です。変化表を見たり音声を聴いたりすることができますが、たまに強勢位置など発音記号が間違っていることがあるように感じます。[1]と合わせて主に参照しました。

[3] Lëtzebuerger Orthografie
 『ルクセンブルク語入門』は下の[4]と同様におそらく1999年の正書法に基づいている(言及はありません)のだと推測しますが、2019年11月に正書法改正があったようです。リンク先は最新の正書法の概要です。

[4] 西出、(2014) ルクセンブルク語の音韻記述 (北海道大学 学位論文)
 参考文献を探したり、発音の確認に使いました。n-規則などについても体系的に理解することが可能でした。書籍(北海道大学出版会、2015)にもなっています。

[5] Gilles, (2011) Morphophonologie des Partizips II im Luxemburgischen (Linguistische Und Soziolinguistische Bausteine Der Luxemburgistik, Peter Lang Pub Inc 内)
 ルクセンブルク語では動詞の過去分詞でge-を付けないケースが標準ドイツ語と比べて多くあります(完了のアスペクトを有する動詞、閉鎖音で始まる動詞の一部など)。それと関係して、誤りかどうか([2]にも誤植が全くないというわけでも無さそうなので)自信が持てなかった部分についてこちらを参照しました。

はじめにも書きましたが、何か間違って指摘していたらどうぞお気軽にご指摘ください。

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