ジョージア料理に恋して②衝撃のファーストコンタクト:ハチャプリはチーズ爆弾
日本人の99%が行かない国、ジョージア
世界一周のバックパッカーが沈没する国、ジョージア
世界で1番日本人の口に合う料理の国、ジョージア
ジョージアに関する情報はまだとても少ない。
私は56歳のとき長年勤めた会社を辞めてシルクロードの旅に出た。
ウズベキスタンからカスピ海を越えてジョージアまで足を伸ばそうと決意したのは、ずばり「食べ物が美味しそうだったから」に他ならない。
特に私の目をひいたのはハチャプリというパン
どうです?
このビジュアル。衝撃的ではありませんか?
ハチャプリとはジョージア語で「チーズのパン」という意味。
(ハチョ=チーズ、プリ=パン)
ハチャプリはジョージア全土に存在し、地方によって見た目も異なるが、ビジュアル的にインパクトがあるのは、ジョージアの西部、黒海に面したアジャラ地方のこのハチャプリだ。
舟形に成型したパンにたっぷりのチーズをのせて焼き上げ、仕上げに卵黄を落とし、さらにバターの塊をのせてサーブされる。
何がすごいってその大きさ。大人の顔よりも大きく、パン生地も膨らむタイプではなくずしっとしている。冗談ではなく1kgはあるんじゃないか??
ずしっと重たい生地に乳脂肪分高めのとろとろチーズ。
少なく見積もっても大さじ3杯分のバターの塊。
炭水化物+チーズ+卵黄+バターだ。
ジョージアにお越しの節はダイエットもグルテンフリーもカロリーオフも全部忘れないといけないのだ。
熱々のうちにまずフォークで卵黄とバターとチーズをぐじゃぐじゃと混ぜてソース状にする。
パンを端から手でちぎってどろどろのハイカロリーソースに浸してから口に運び、ジョージアワインでごくりと流し込む。
美味い。
美味くないはずがない。
ただ、2人がかりでも完食はできなかった…。
翌日、別の店でも再挑戦。
昨夜の店よりの2/3ほどの大きさだったので辛くも完食。
明日もまたハチャプリを食べたいかと聞かれると答えは微妙だ。
いや、トビリシに住んでいる日本人はたいてい口をそろえて「ハチャプリは月に1度で十分」と言う。
それぐらい美味しいけれどヘビーな食べ物なのだ。
ジョージアの人ってこんなにヘビーなパンを日常的に食べているのか
はじめはそう思ったわたしですが、どうも違うらしい。
ジョージアは東西に長い国で西と東とでは気候も違い、採れる農作物も料理もかなり異なる。山岳部と都市部でも違いは大きい。
私たち観光客が思い浮かべるハチャプリは冒頭でも言った通り、ジョージアの西部アジャラ地方のハチャプリ。
首都トビリシは都会のなので様々な地方の料理が食べられるのでこのアジャラのハチャプリを出すお店はたくさんあるが、トビリシっ子が日常的に食べているのは違うハチャプリなのだ。
トビリシの街角で気軽に売られていて、日常的に食べられているのハチャプリはこちら。
イメルリハチャプリ。イメルリとはイメレティ地方いう意味。
中にはもちろんたっぷりのチーズ、表面にはバターが塗られていてもちろんボリューム満点。日本人の胃袋なら1枚を4人ぐらいでシェアするのが賢明だ。
イメレティ地方はアジャラ地方からややジョージアの中心より。
このイメルリハチャプリの上にさらにチーズを載せたのが
サメグレロ地方のメグレリハチャプリ。
サメグレロの特産品の1つにはスルグニというチーズがある。サメグレロのメグレリハチャプリにはこのスルグニがたっぷり使われている。
サメグレロのすぐ南側のグリア地方にもこの地方発祥の有名なハチャプリがある。
大きな三日月形に作り、中にはゴロゴロとゆで卵が入っている。
グリア地方を訪れると必ずご馳走としてふるまわれる郷土料理だが、トビリシなど他の地方でもお正月やクリスマスのご馳走としてこのハチャプリを作った家族で食べるのだ。
ハチャプリ発祥の地がどうも西の方に偏っているけど、きっとこれには訳があるに違いない。ジョージアの食文化はいろいろな広がり方をしているようなのだけど、サメグレロ地方のから広まったものも多いので、大きな流れは西から東なのかもしれない。
ジョージア東部の代表的なハチャプリもご紹介。
カヘティ地方はジョージアの東部で、その北部、国境近くは大コーカサス山脈の3000メートルを超える山々が連なっている。
気候は非常に乾燥しているが、山からの雪解け水が豊富に流れてくる平地は肥沃な大地で、ブドウの栽培に適している。。
カヘティ地方は、ジョージア最大のワインの産地だ。
この地方のハチャプリはコトリと呼ばれる。
前にご紹介したイメルリハチャプリと似ているが、生地が大変薄く、中のチーズは自家製のカッテージチーズを使う。
私はジョージアでたくさんのハチャプリを食べたけど、このカヘティのコトリが一番好き。
生地が薄いので胸やけせず何枚でも食べられる。カッテージチーズに青ネギを刻んで混ぜたものも美味しい。
ハチャプリは地方ごとに形も作り方も違うけど、実は大きな共通点がある。
チーズが入っているところ?
んにゃ。チーズが入っていなければそもそもハチャプリとは呼ばれない。
それはどのハチャプリも「太陽」を意味している、というのだ。
このことを教えてくださったのは、
ジョージアガストロノミック協会の代表、ダリさん。
ダリさんは、ジョージア料理研究の第一人者だ。
イメルリハチャプリやメグレリハチャプリ、カヘティ地方のコトリは丸い形をしているが、これはそのまま太陽を表している。
キリスト教がジョージアに入ってくる前の時代は、ジョージアでも信仰の対象は太陽だったためと伺った(私の語学力ではこれが限界…)。
信仰の対象である太陽を模して作られるハチャプリは、ジョージアの人たちにとって単にお腹を満たす以上に大切な存在に違いない。
ジョージアのコインに刻まれているこの文様。
この伝統的な文様は太陽を意味し(諸説あります)、かつてはこの文様をハチャプリに刻印していたという。
一方、アジャラ地方のハチャプリの形は独特だ。
内陸部が多いジョージアだが、アジャラ地方は黒海に面しており、海を通じて諸外国と、世界と太古からつながっていた。おそらくさまざまなヨーロッパ文明がジョージア西部の港からジョージアに伝えられたであろう。サメグレロ地方がどこかヨーロッパの香りがするのは気のせいではないはずだ。
(ロシア贔屓の人はジョージアにヨーロッパの文化を伝えたのはロシアだと主張するけど、私はジョージア西部が直接ヨーロッパと交流していたという説をとります)
アジャラ地方のハチャプリは、ジョージアと世界との接点であった黒海に浮かぶ船と黒海に映る太陽を表現している。
ジョージアは国土のほとんどが内陸部なので黒海沿岸の地域に行かないと当たり前だけど「海に沈む夕陽」を見ることができない。
バトゥミというアジャラ地方の街で初めてジョージアの「海に沈む夕陽」を見たとき、昔の人がこの形のハチャプリを作った理由がなんだかわかった気がした。
穏やかな黒海にオレンジ色の太陽が静かに静かに沈んでいく。
何時間でも眺めていられる厳かで神々しい光だった。
丸いハチャプリやこのアジャラのハチャプリが太陽を表しているというのはわかりやすいが、三日月型のグリアのハチャプリも太陽がモチーフなのだ。
え?なんで?って思いますよね。
これは「太陽の目」なんですって。わたしたち人間を天から見ている太陽の目。
気になる作り方
ハチャプリに限ったことではないのだけど、ジョージアの料理のレシピは聞く人ごとに違う。
家庭料理なんだから当たり前かもしれない。。
一番一般的なイメルリハチャプリのレシピをご紹介。
≪生地≫
生地は当然パンの生地だけど
粉は中力粉なのか薄力粉なのか強力粉なのか…。ジョージアではこういう分け方はされていないので、おそらく中力粉だと思います。
日本に住んでいたジョージア人の方はいつも強力粉を使ってたというし、在日ジョージア大使夫人のレシピには薄力粉と書いてある。
トビリシで習う時には、毎度小麦粉の袋を見せてもらっていたけど、タンパク質は10g~11gとまちまち。でもそれを選んで買ってきたジョージア人の先生は別に気にしていないみたいだった。
イースト発酵させる場合もあればベーキングパウダーの場合もあるし、生地に卵を入れたり入れなかったり、水分はお湯を足す人もいればヨーグルトだけの場合もある。
正解はわからない。
カヘティの山では自家製カッテージチーズを作ったときのホエイで発酵させていた。
フィリングも当然ジョージアのチーズがいいんだろうけど日本では手に入らないので、私は心置きなくどっさり使えるようにとハナマサでシュレッドチーズを買っている。
ここに卵を混ぜる人混ぜないひと、バターを混ぜる人混ぜない人…といろいろだ。
それらをもろもろ試した結果、比較的美味しくて簡単なレシピにまとめてみた。こちらからどうぞ。
忘れちゃいけないのは、仕上げのバターだ。
両面にたっぷり塗ったら必ず熱々のうちに召し上がれ。
私が主宰する日本唯一のジョージア料理専門の教室はこちら。
現在はお問合せ、リクエストがあった場合に不定期に少人数でレッスンを開催しています。
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