【もの作りファクトリーの1日#05】

MR TUHIN

わたしが大好きなタンナーのオーナー MRトゥヒン

わたしは、とひんと呼んでいる。

初めて会った日から今日まで、彼はまっすぐにわたしに語りかけた。
そう、初めて出会った時、わたしは散々な目にあっていて、落ち込んでいた。

とひんは、不思議な人で欲がない。
きっと心の奥には、野心や希望があるのかもしれない。
でも、彼は哲学をよく知っていて、それを望んだり欲しがったりはしない。
うまく自分をコントロール出来る人だ。

その頃のわたしは、人間不信になっていた。
当時わたしは、日本のアパレルブランドの会社の製品の生産管理をしていた。OEMのレザーバッグを作っていた。

アパレルブランドの製品を作るには、まず下請けの会社がある。
その下請けの会社がわたしたちのような工場に注文をする。

ところが現地は生き残る為の争いだ。
注文欲しさに嘘を広める日本人たちがいた。知らない間に嘘を言いふらされた。

当時のわたしはこんなゴシップのような嘘を信じる会社、日本人がいるなんて思いもしなかった。

結局 アパレルの下請け会社の為に買った資材まで、請求できず負債となった。ロゴの入った金具までも。

嘘を信じた下請け会社は、利益があったのか、わたしに何も告げず別の工場に移った。
いや、もっと正確にいうと、そのブローカー会社がそれらの注文を得て、当初は現地の提携工場に依頼して、繋ぎとめ最終的に踏み倒し、形だけの自社工場を新たに作ったのだ。

沢山の人が困ったのを、日本人たちは、勿論しらない。知ろうともしなかった。

当時のわたしは、ショックもあったが、他のお客さんに迷惑をかけてはいけないと、目の前の仕事を大事にする為必死だった。

そんな時に出会ったのがとひんだった。

彼もまた、わたしと同じような経験をしていた。
わたしは、彼の話を聞くとなんで彼が平然としているのか、理解できなかった。

彼は日本のブランドの為に革を作っていた。そのブランドがまだ小さい時から一緒にビジネスをしてきた。

彼もまた、わたしのように世界を信じていた。
話し合いで解決できること、ビジネスをする前にまず人であること。
世界は、もっと暖かくて幸せであること。

しかし、ビジネスは、ビジネスである以上、まずは金銭の利益が大前提。
だから、わたしやとひんの様な人間は、不要になったら不要なのだ。

彼は何も言わないが、ショックのあまり会社に朝来ることは無くなった。
彼は何も言わない。

外側からは、何も気にしていないように、前を見て笑っている。
わたしが落ち込んでる時、わたしは彼のストーリーを知らなかったから、彼が言っている事に耳を傾けなかった。

彼はひたすら、悪い経験は忘れた方が良いとわたしに言った。

動画で彼が言ったように、私たちのようなものづくりを行う者には、供給経路のチェーンが無数にある。

無数のチェーンは、目に見えないが、職人の家族を入れてもかなりの数だ。

わたし達の上には、お客さんがいる。
OEM工場であれば、直接のブランドに挟んだメーカーやもしくは直接のブランドが相手になる。

そしてその更に上にエンドユーザー
いわゆる消費者がいる。

こんな話をしたら、あるメーカーさんは、いやいや、それは違う。
ものつくりが1番上で、1番下(川下)に、消費者がいると。

しかし、工場からすると山の上に消費者がいて、注文が下に流れてくる。

途中のブランドやメーカーが正しい取引をしないと、そのサプライヤーチェーンは一気に壊れる。

消費者は、ブランドやショップしか見ない。
だから、私たちのような川下の作り手たちがどんな環境にいるのか、知る由もない。

多くの欧米ブランドは、消費者が選ぶ知識を得たおかけで、知る権利を設けた。
闇があるブランド体制を消費者は受け入れない。

目に見えないサプライチェーンは、厳しい消費者のチェックが入り、正常化されつつある。

日本のマーケットは、まだブランド主義である。
ブランディングを行う為に、汚いものは、綺麗に映るよう訓練されている。

もしくは、本質はきれいなものも、先入観や固定概念で汚いと勘違いされる。

わたしは、バングラデシュのビジネスでこういうものを山ほど見てきた。

劣悪な環境で、作られている製品を生み出したのは、現地ではない。
川上の消費者に求められるから、売り上げに苦しむ中間のメーカーやブランドがそう押し切るのだ。

また、別のパターンも沢山みた。
現地に援助をしている、良いことをしていると言う会社は、現地の人を悪に変える。

大抵時間がたつと内部は、利権争いになる。良かった人も欲が出て、騙したり、内心と外見がピエロのように変わるのだ。

では一体どうしたら良いのか。
わたしは、ものつくりは、やはり人間と人間の関係が基礎にあると信じている。

わたしが尊敬しているとあるブランドのデザイナーは、いつもわたしにこう言う。
対等な関係、作り手とデザイナーの共同作業。

わたしはこの言葉を誇りに思う。
そして出来るだけわかりやすく、工場の職人に伝える。

職人もわたしと同じように誇りを持って仕事をする。

余計な言葉はあとはいらない。
ただ一緒に悩みながら仕事をするだけだ。

現地を救ってあげる、現地に指導する
そんな言葉はとても失礼である。

デザイナーが言ったように、わたし達は、共存関係にある。お互いの伝統や文化を受け入れて、良い人と一緒に仕事をする ただそれだけだ。

そこには、上下関係はない。
ものつくりは、ビジネスである以前に人としての関係が非常に大切である。

沢山の人を支え、支えられて、正当でみんなをハッピーにする繋がりができるようになると良いなと思います。

そして、消費者の方にはぜひ、しってもらいたい。絵柄が良い人ばかりが主役になりがちですが、こういったものつくりを支えているのは、スポットがあたらない人であるのが、真実であることを。

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