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歌姫たちの闘い|掌編小説 秋ピリカGP

レザック所属の織姫とつむぎはデュオ。
群を抜く容姿とダンスのキレ、うつくしいハーモニーで聴衆をとりこにする。

ふたりの折り合いが悪いのは、公然の秘密だ。
ほっぺをぴったり合わせる仲良しショットを強要され、舌打ちする織姫。
紬はウエットティッシュで頬を拭い、メイクさんに化粧直しをさせている。
ダンスレッスンも単独で受け、合わせるのは数えるほどという末期状態。解散まで紙一重だと、関係者はささやく。

「ほらー、つむじを曲げてると笑顔までひねくれるよ?」
マネージャーの宮衣みやぎぬは胃薬が手放せない。
「休みの日まで一緒にショッピング~?んなわけあるかい」
織姫は口が悪い。
「誕プレ交換。今年はなに設定?」
紬は理論派。
「設定じゃなくて、実際に贈り合うってのは…」
「却下!!」と息の合った返しに、宮衣は笑うしかない。
どちらかが折れてくれれば…と願うのは、むなしい。
「だいたい、なんで織姫&紬なわけ?紬&織姫に改名希望~~」

そんなとき、彗星のように現れたのがOKミューズ所属キララ。作詞作曲をすべて手掛けるギター女子。ツウをうならせるマニアックな音楽に、ファン層は男女比が半々。気さくで裏表がなく、非の打ちどころがない。
キララのオーラに危機感を抱いた彼女たちは、停戦協定を結ぶ。

スタードリームプロジェクトとして、事務所の垣根を越えたコラボが決定。
「織姫さんて、高音まじエグイっすね。何オクターブいけるんすか?」
「紬さんのビブラート、性癖っす」
毒気を抜かれた織姫&紬は、敵に対抗すべく歌唱やダンス練習に熱を入れた。
キララは屈託のない笑顔でスタッフにも溶け込み、ふたりの個性を活かした楽曲を制作。異色トリオ「ファーストヴィンテージ」は業界を席巻した。

「宮くんさあ、よくもつよね。あのコらの御守り。幼稚園児じゃん。ウチに移籍すれば?」
「同じ職場はまずいだろ」
「それもそっか」
雲母きららは舌を出し、宮衣の肩にもたれた。
一枚上手うわてのキララを潜入させ、やぶれかぶれの紙を修復させる。
歌姫たちにパシリ扱いされる宮衣は、もめごとを丸くおさめる達人だった。

(おわり)(847字)

「紙の専門商社・竹尾」さんが扱う紙の名称「レザック96オリヒメ」「レザック80ツムギ」「OKミューズキララ」「みやぎぬ」「スタードリーム」「ファーストヴィンテージ」に想を得ました

こちらの企画に参加いたします

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