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不幸ガール|掌編小説

                               981字
彼女はものすごい才能を持っている。
かほるは不幸を見せびらかす女。家庭不和で育児放棄された『かわいそうな』過去が持ちネタ。
媚を売る甘えんぼ口調は、地声よりわざとトーンを上げている。高校の頃から知っているわたしにはわかる。
「かわいいね」
「そんなこと言ってくれるの、宮本さんだけですよ~」
「ぽっちゃり好きなんだ、俺」
「それ太ってるって言いたいんでしょ。ひど~」
自虐を巧みに操り、人々の関心を引く。

SNSでたたかれた際には「あたしって誤解されやすいのかな、もうこれ以上がんばるの無理かも。やめるしかないよお(泣)」と同情をあおり、コメントを集めまくる。その結果、トラブルでフォロワー数が倍増。以来、定期的にやめるやめる詐欺を実施している。
「かほるちゃんは悪くないよ。気にしすぎなだけ」
「ぼくだけはきみの味方だから」

かほるの最大の強みは「弱みをみせる」こと。
こころを開いてくれたと感じ、相手は一気にガードをゆるめる。
そうなれば、かほるの独壇場。大げさにあいづちを打ちながら話をきいてやり、やさしい言葉をプレゼント。あっけなくほだされた男は彼女のとりことなり、貢ぎつづける沼にハマる。

高1で出会ったばかりのとき、わたしは彼女のちょっとした相談に乗った。
「ありがとう。ミユキ、大好き」と言われ面食らったのを覚えている。
ここぞのタイミングで呼び捨てにチェンジ。懐に飛び込む技は、わたしにはとてもまねできない。人なつこい子だな、というのが第一印象だった。
「ミユキはかしこくていいなあ。あたしなんかバカだから卒業できるかもあやしいよ~」
ぷっくりほっぺで、にっこり笑う。
「かほるちゃんといると癒やされる」という意見は間違いではない。

かほるの不幸武器は、張りぼて。
両親は離婚していないし、いびってくる設定の義理の姉も存在しない。父親は再婚していないわけだから。経済的にも、私立校へ通わせられるくらいの裕福さ。都会にあこがれ家出をしたから、お金には困っていたのかもしれない。

結局のところ、かほるはかほるがいちばん好きなのだ。だから、自分以上に大切なひとは現れない。いつまでたっても、満たされることはない。
こうやって冷静に分析しているわたしこそ、不幸なのかもしれない。
かほるのようにしたたかに、好き勝手に生きてみたいのだろうか。

(おわり)

#小説 #掌編小説 #賑やかし帯

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