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短編小説集(ショートショートなど)

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短めの自作小説をまとめています。企画参加ショートショートなど。恋愛系以外も含みます。
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記事一覧

私のこと好き?企画参加「めんどくさい彼女」743字

僕には姉がふたりいる。 長女は聡明で、理詰めで言い負かしてくる。 次女は運動神経が抜群で、なにかと張りあってくる。 どちらにも勝てるわけがないので、適当に受け流して生きてきた。 *** 開口一番、彼女は言った。 「私のこと好き?」 僕は自動的に答えるしかない。 「ああ。はい、好きですよ」 「どこが?」 「どこが?と言われますと?」 外見をほめろと言っているのか、内面のほうか。 僕は頭を働かせ、内面の美しさがにじみ出ている目だと伝えた。 とたんに、彼女のようすがおかしくな

尊敬できる女 555字

ある日、友達と「尊敬できる人間」について語りあった。 わたしには、どうしても挙げねばならぬポイントがあった。 「ラジオ体操第二を踊りきれる人」 友人はうなずく。 「第一はヨユーだけどな。って踊りか?あれ」 「あと、これもはずせない。腹八分ができる人」 「わかる。満腹になんないと満足できないよね」 「ペンまわしの達人」 「あれは特訓が必要らしい」 「初対面のわんこをなでられる」 「ガブッとこられそうだよな」 昨日、突如としてドカ雪が降り、温暖な地に住むわれらは右往左往した。

私のこと好き?企画参加「最強脳トレ」424字

あー、またはじまった。 「質問です。私のこと好き?」 「うん。好き」 「YESNOだけで答えず、理由を述べよ」 難問を投げかけられた彼は、マグカップに手を伸ばす。 「はじめて会ったとき、萌黄色のワンピースを着ていたから」 「えー、それだけ?」 「初デートでアイスを落っことしたのも、かわいかった」 「ドジですみませんね」 彼女はちょっとすねた顔をしながらも、アップルパイを切り分ける。 「職人並みのお菓子づくりの腕前」 「ハイハイ。それから?」 やり手の彼は、答えに変化をつけ

廃番になる女 794字 シロクマ文芸部

雪化粧は、限定モノ。 きれいなのは一瞬で、溶けて土と混じればドロドロに汚れるだけ。 *** わたしはすぐ廃番になる。 もとい、わたしの愛用品は次から次へと販売が終わっていく。 まずは、リップ。 唇の色に近い、ピンクがかったオレンジベージュ。 これがなかなか市販では見当たらない。 やっと見つけて喜んだのもつかのま、限定カラーでした、と棚から撤去された。 次に、オードトワレ。 香水よりもやわらかで、数時間で消えゆくはかなさ。 何より、オレンジの花とネロリなどをブレンドした

ドーナツ総長、世界を救う 460字

休日の午後。僕らはいつものようにドーナツ店でまったり。 「それにしても、ミスタードーナツってすごいよねえ」 彼女はオールドファッションをモグモグしつつ、感服したように始めた。 「ん?なにが?」 「だって、長年世界を牛耳ってるわけだからさ」 僕はなにかがズレているらしいと気づく。 「そんなに世界進出してたっけ?」と慎重に探りを入れた。 「そらそうよ。国連総長やってるくらいだもん」 僕の頭の中は?が渦巻く。 「その人の名前って、知ってる?」と確認する。 彼女は当然のように「ポ

品行方正バーテンダー 584字

職業で人をひとくくりにするのは、やめてほしい。 規律を求められる警察官や教師の酒癖が悪いだとか、バーテンダーは女をとっかえひっかえするだとか。 まあ、タチの悪い酔いかたをするセンセイも一定数いるにはいるが。 深夜に働いているんだから、遊ぶヒマなどない。 *** 「強いのください。ガツンとくるやつ」 道場破りの気迫で、ややこしい客がやってきた。 彼女は美容師で、職場でドロドロの恋愛沙汰に巻き込まれたらしい。 半月ほど前から、閉店間際に現れるようになった。 体調が気になるか

問題作:女子トーク 555字

A実「ねーねー。この前ネットで見たんだけど」 C佳「ええ。何かしら?」 A「ちまたじゃ、ラノベ口調ってのがあるんだそうよ?」 C「ん?ラノベって?」 A「あーライトなノベル。こうさあ、漫画っぽい表紙で?キラキラアオハルっぽくて?」 C「あーハイハイ。軽めの小説ですわね」 A「そーそー。で、売れると即アニメ化ですってよ」 C「お詳しいのね。A実さま」 A「へっ?いやいや、そんなことなくってよ?そういう系に出てくるヒロインが、なんかこう古風なべしゃりなわけなのよ」 C「今どき

ゴリゴリの国際科高校生 777字 シロクマ文芸部

布団から出ると、制服に着替える。台所でごはんとお味噌汁を食べる。 公園の入り口で鈴と待ち合わせる。 「おはよ。今日、古文の小テストって知ってた、莉津?」 「Oops! 完全アウトだ、これ」と私はfeeling downになる。 「いとをかし、しか知らんつーの」 ホントホント、とあいづちを打ちながら彼女と並んで歩く。 チリンチリンと音がしたかと思うと、びゅんと自転車が真横を通り越していった。 「Watch out! あっぶな。だれあいつ」 私はくすくす笑う。 「なに?」 「こ

若社長の家庭訪問 777字 シロクマ文芸部

青写真が狂いっぱなしだ、私の社会人生活は。 ウチの会社は、普通じゃない。 「家庭訪問」のならわしがあるのだ。 入社して半年経つと、新入社員の実家に社長がやってくる。 デパートで仕立てたというワンピースをまとった母は、声を弾ませる。 「イケメンよねえ。頼ちゃんとこの若社長~」 「…外面だけはいいんだ、あの人」 「どーするう?お嬢さんを僕にください!とか言われたら……きゃ」 韓国ドラマ脳な彼女は、妄想力がハンパない。 「それはナイ」 「もークールビューティーなんだからあ」 「親

弟君のバレンタイン演習 909字 シロクマ文芸部

チョコレートは甘いから、キライだ。 「では、ネタ提供お願いしやっす」 わたしはペンを構えて、スタンバイ。 漫画家としてキュン量産を課せられている身だが、もともとドラマチックな経験などとくにないうえ、頼みの妄想アイデアも枯渇して久しい。 こういうときに使えるのは、うるわしの弟君。 外見もさることながら、気の利く頼りがいのある男だと評判だ。 電車やコンビニ、駅や道端。週イチで告られる勢いの、歩くネタの宝庫。 今は大学に通うためひとり暮らしだが、呼べばすぐに来てくれる。 チャー

ふぉれすとどわあふ ミユの潜入作戦

こちらの③「クマサン星人、のんびりムード」の続きを書いてみました。 *** 月の裏側にあるクマサン星人の基地。 そこを急襲する作戦が、いよいよ決行のときを迎えていた。 肝となるのは、シマさんエナガさんのおしどり夫婦。 彼らは冬毛が真っ白のふわっふわで、雪と見まごうばかり。 「ハイ。ミユちゃん、気をつけてのってね~」 奥さんのシマさんは、おっとりタイプ。 「では、失礼して…わあ。もっふもふで寝れそう!」 ミユも危機感がまるでない。 一方、夫のエナガさんは切れ者。マサコ司令

ふぉれすとどわあふ 秘密地下組織 640字

ミユは、お掃除好きな女の子。 だが、いかんせん体のサイズがミニマムゆえ、他人の手を借りる必要がある。 それは、ときには猫の手であったり孫の手であったりする。 とくに、モグラのホリーはミユにぞっこん首ったけであるからして、言われたことはなんでもするし、言われなくてもなんでもする。 「ミユさま、いかがでしょう?」 埃まみれの鼻をヒクヒクさせ、ホリーは期待顔。 「えっと、あ…すごいね。ホリーくん、時間かかったでしょ」 森の雑貨屋さん直通の通路を抜けると、そこは別世界。 高級リゾ

ふぉれすとどわあふ 赤い宝石の主

おふたかたのストーリーを踏まえ?まして… *** ミユが生まれたとき、母は難産だった。 それもそのはず、ミユは大きな赤い宝石を胸に抱いていたのだ。 誕生祝いにおとずれた魔女がそれをひとめ見て、泡を吹いて腰を抜かした。 「これはまちがいなく、500年にいちど姿を現すとされる『救世石』じゃ」 肌身離さず慎重に扱うようにと命じられ、ミユは幼少の頃から今に至るまで、宝石をポシェットに入れて持ち歩いていた。 正直、かさばってじゃまなので気乗りしなかった。 が、転んで膝をすりむいて

春の大感謝セール 590字 シロクマ文芸部

梅の花も満開を迎えた今日このごろ。みなさまいかがお過ごしですか? 本日は、とんでもないことになっております。おトク祭りでございます! ―あら、わたし、ラッキーかも。 こちらに特別にご用意いたしました商品。 その名も「エクストリーム・ピュア」 ―あ~、今話題の? ふくよかな香り、まろやな風味。 厳選された素材を使用し、極上の逸品となっております。 至福のひとときを満喫していただけると、我々の自信作です。 ―いちどでいいから、味わってみたかったやつ~ ぜいたく~ おいしさは