第三十話 勇者リワーク!④【SAV攻撃フェイズ】

 現時点で「勇者リワーク!」で釣れた帰還者は一名だけだと言うセイカの報告を聞き、俺は動き出す。

 先ほど左陶に近づき会話をしていた海老根だったが、受付テーブルを跨いで離れていた。

『ロジャー』

『あいよ』

『左陶に向けてライフルを撃てば、海老根はまた左陶を庇って弾を掴みに来るはずだ。ロジャーは左陶を庇って移動した先に居る場所を予測して、海老根を撃て』

『ロジャー了解。失敗しても文句言うんじゃないぜ?』

『今日は静かだけどJ聞いているか?』

『ヒィッ!?』

 先日、アキをエロい目で見たとセイカから報告を受け、Jは訓練のスパーリングで連日、俺直々に”かわいがり”を受けたので、俺に対する恐怖が体に刻まれてしまった。

『お前、そんなんでライフル撃てるのか?』

『ひゃい!大丈夫です!』

『ではJは左陶の脇腹を狙え、できるか?』

『できます!お父しゃん』

『あ?』

『ひえっ!すみません隊長!』

 Jはうっかりお母さんみたいに言い間違い、声が上ずっていた。大丈夫かな……もうちょっとしばいとく?

『富子』

『はい。隊長』

『富子は左陶の頭だ。できるか?』

『はい。問題ありません』

『では、俺の合図で三人同時に撃つように』

 全員の「了解」の返事と共に俺は再び左陶と海老根の会話に集中した。

【あの、桜島大根って言いましたよね。鹿児島の大根でしょうか?】

 は?途中聞いていなかったとはいえ、今は何の話をしているんだ?

【ああ、そうだ。過去に潜伏先近辺の畑で野菜をとっていたら、謎の組織に見つかって死にそうになったことがあったのだ。以来遠出して、食料の調達をしている】

 ああ、逃走中の苦労話の類か。若いのだから苦労は買ってでもやれ。決して他人事と思っているわけじゃないぞ。

『よし、狙え……撃て!』

 Jと富子に関しては、左陶は動かない対象なのでまず狙撃を外すことはないだろう。

 問題は海老根の方だ。ここに来ると仮定しての狙撃なので、ロジャーの腕の見せ所だったのだが、無事海老根の左ももにヒットし、Jと富子の放った左陶への弾丸は海老根に大根を食べながらキャッチされてしまった。

 海老根はやっぱり左陶に気づかれないようにこちらからの攻撃を受けている。足にはライフルの弾を受けて血が流れている。よく痛みに声を出さずに我慢していると思う。

 ともあれ足にダメージを与えられたことは僥倖だ。

『よし、海老根は負傷したが何が起こるかわからない。各員油断せず光学迷彩を使用し、目標へゆっくり近づけ。ロジャーはポイントを変えて遠距離から援護を頼む』

 光学迷彩を使用し、カメレオンのように周囲の景色に溶け込んだ隊員を目視で確認し、自分も光学迷彩を使用し姿を消す。

 俺達は目標の前方に向かって距離を縮め、アキは認識阻害の魔法を使い、目標の後方へ回ってもらった。

 徐々に海老根と左陶との会話が盗聴器からの音声ではなく肉声で聞こえる距離まで近づいてくる。

「ところで左陶さん――」

「はい」

「僕たちは包囲されているのだと思うのだが、この人たちは左陶さんの同僚だろうか?」

 姿を消していたが、どうやら気付かれていたようだ。

『富子、ソゥは逃走用車両をセイカが割り出してくれている。先回りして退路を断て。アキは後方から逃走した場合に迎え撃ってくれ』

 スッと富子とソゥの気配が消えた。仕事が早い。

「いえ、こちらの方々は私たちの命を狙う謎の組織です」

 俺とJとしまこは立ち上がり――

『撃て!』

 掛け声とともに一斉射撃をする。

 海老根は即座に左陶を庇って射線上に入り、弾丸を一手に受けた。

 だが、弾丸はガムのように溶け落ちて海老根に届くことはなかった。

「大丈夫か左陶さん!?」

「……からこう……って言っ……ん。…ホなの……国は」

 銃撃の音で何を言っているのか聞き取り辛いが、何か恨み言をつぶやいているのだろう。

 左陶はこの銃撃が全く脅威ではないのか、余裕で海老根に向き合ってデバイスを渡し、役目を果たしたとばかりに左陶は土の山に変わった。

 読み通りだとすると、左陶は北海道の空港でアキから受けた傷はまだ癒えておらず、土の魔法で自分のデコイを作り出し、今回のイベントを運営したのだという事になる。

 こんな衆目に晒される事こそリスクだし、当たり前か。

「アキ、富子とソゥのところに居ると思われる、左陶の本体を追ってくれ」

「はーい」

 アキは認識阻害の魔法を使ってはいるが、デバイスを持っているので位置情報で動いているのが分かる。移動を始めたのでセイカに声をかけた。

「セイカ!」

「はい。MJS(マジックジャミングシステム)起動」

 これは四五口をセイカが一人で行ったミッションで使ったものらしい。

 魔法を使う際に放つ音葉を無効化させる音波を出す機械だそうだ。

 数日前からこのイベント会場にMJSを6基設置していた。

 機械の効果があったのだろう、海老根が被弾し始めてダメージを受ける。

 全身に弾丸を受け、支えている足が折れて地面に倒れ込んだ。普通の人間ならとっくに死んでいるだろう。

『全員銃撃停止だ』

『やったか!?』

 Jが海老根を確認に近寄き始める。

『MJS1基破損』

 俺はあっさりと海老根を倒せたことに嫌な予感がしていた。

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最後までお読みいただきありがとうございます!
こちらの物語は『俺の仕事は異世界から現代社会に帰ってきた勇者を殺すことだ【フルダイブVRに50年。目覚めた俺は最強だと思っていたけど、50年後に再会した娘の方が強かった話】』
というお話です。
一話から読んでもいいなと思われましたら、以下よりご覧いただければ幸いです。


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