第二十八話 勇者リワーク!②【作戦開始】

 

「……やばいぞあいつら、本当にやろうとしている」

 あのふざけたTVCMから数日経ち、開催予定場所にやってきた。

 本当に「勇者リワーク!」を開催するつもりなのか、イベントブースを複数人数で設営している。

 これだけ堂々とイベント開催するということは、逆に考えて罠なのではなかろうかと普通に考えるところではあるが、これを無視はできないのが辛いところだ。

 ちなみにあのCMはこちら側で編集を加え、広場のアトラクションCMとして再放送しているので世間をざわつかせることはなかった。

 アキを含んだSAVは全員参加となっており、各個配置についている。

「おとーさん、いつまでここに待機してないといけないの?あたしはこのままのほうがいいけど」

 アキは色黒の肌によく合う白のワンピースに、つばの広い麦わら帽子で一般人を装っている。

 今回の作戦を伝えると「一回家に帰る!」と言って家に戻り、着替えてきた。

 パンツが見えたら困るだろうと聞いたところ、スパッツを履いているそうなので父親的にはまあ一安心かなと言ったところか。

「その服、良く似合っているな」

 普段はTシャツ、ジーパンの様な簡素な格好を好むアキだが、こういった装いもまたいいものだ。

「けけっ、かわいいしょ?」

 俺は正直な感想を言うと、アキが少し顔を赤らめ白い歯を見せながら、したり顔で言ってきた。

 照れ笑いするしぐさも可愛いな。

 ここは、会場が野外で見通しのいい芝生が一面に広がっている、公園のような場所だ。

 一般の来客もいて、家族でビニールシートを敷き、日向ぼっこやボール遊びなどをしている。

 俺とアキも一般人に混じるようにしてビニールシートを敷き、周りの様子をうかがっている。

「今日はいい天気だね、お弁当作って持ってくればよかった」

「今は任務中だぞ。それはまた今度な」

「――! じゃあさ!今度のお休みに来ようよ!」

「いいぞ。セイちゃんとたまには外で思いっきり遊びたいしな」

 セイカは勉強熱心なのはいいけど最近外に出て遊んでいない事を思い出した。

「ちぇ~二人っきりが良かったのだけどな~。まあいいや!今度のお休み楽しみだね!」

「ああ――」

 何度も同じことを考えていると思うが、アキがSAVに入隊し、俺と一緒にいるとは言え、可愛い娘を戦場に出すのは親の心境的には複雑だ。

 前回ケイカが戦場に出てケガしてしまったことに対して、俺は後悔しているので、尚更懸念事項としている。

 そして俺の心境と対極にあるのが組織側だ。

 組織側からしても戦力が増強されたことは喜ばしいのだろうけど、感情の起伏に波のあるアキをコントロールすることが難しい事は、俺がフルダイブVRから目覚める前から悩みの種だとして聞いていた。

 そこは俺がSAVに入隊することで、ある程度解消されたと考えられているそうだ。

 俺が彼女を管理するように……とは言われてはいないが、二人で居ることで俺がアキをコントロールできていると思われている。

 アキは俺に依存しているからこそ、俺に何かあった時は感情が高ぶり何を起こすかわからない。前例と報告はそこそこあったりしているしな。

 加齢しない俺たち家族の体と心の状態はどうなっているのかわからないが、アキの精神年齢はかなり幼い。

 アキは60歳を過ぎた赤ちゃんなのだ。

 さて、今回のミッションは民間人が居る中で行われるものだ。

 この、のどかな広場が戦場になることは避けたいところだけど、そうもいかない場合もある。

 一般人、公園職員に紛れた組織のエージェントも参加している。

 いざという時、民間人を安全な場所へ誘導するための人員だ。

 笑えるところでは「勇者リワーク!」スタッフの中にもこちら側のエージェントが潜んでいるのだ。

 その「勇者リワーク!」スタッフにライドルトが潜伏している。

 イジーの人質交換の件で帰還者側に面が割れていると思ったのだけど、女装してスタッフ応募の面接に行けとセイカからのめちゃくちゃな指示に従ったところ、全然バレずに潜伏できた。相手のセキュリティ意識ははザルだ。

『あの……ライドルトですが』

 その潜伏中のライドルトからの通信だ。

『どうしたの?』

 セイカがライドルトに応答した。

『多分…なんですけど、三番ブースの受付に座っているのって……』

 ライドルトの通信を聞いてデバイスを使い三番ブースを確認する。

『――左陶鞠子ね。少し見た目を変えているけど』

 セイカが確認して答えてくれたので、ほぼ確実に左陶なのだろう。

 リクルートスーツ+髪留めを使ってボリュームを押さえ、地味にした髪型の左陶鞠子だった。

『なんで左陶鞠子がいるんですかねー?』

 シンプルな疑問をしまこが言ったがこれに対して回答は思惑があるのか、全くないのかの二択だろうな。と思ってしまうくらい、相手の戦略にこちらが油断してしまっている。

『あ、もうすぐイベント始まりますよ』

「セイカ、人払いの方は?」

『現在、エージェントと施設の職員と協力して徐々に開始しているわ。火器使用許可を出せるまで後5分を目指します』

『各員聞いたか?あと5分で状況開始だ。仕事準備にかかれ』

 今回のミッションは出だしから力の抜ける思いだったのだが、一体どうなる事やら。

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最後までお読みいただきありがとうございます!
こちらの物語は『俺の仕事は異世界から現代社会に帰ってきた勇者を殺すことだ【フルダイブVRに50年。目覚めた俺は最強だと思っていたけど、50年後に再会した娘の方が強かった話】』
というお話です。
一話から読んでもいいなと思われましたら、以下よりご覧いただければ幸いです。


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