第二十話 デッドヘッズ【??:??】

≪セイカ視点≫꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°

『マルニ、マルヨン、重ねて言うがこれは極秘任務とする。これから起こる事について一切の口外を禁止する』

『――マルニ、マルヨン了解』

『よろしい、では作戦の概要を説明する――』

・・・・・・

・・・・

・・

『それでは突入を開始する』

これは私、アンドロイドのセイカが単騎で行う初のミッションだ。

現在、対帰還者用機器の試験運転も兼ねて今回の作戦とするものだ。

ゆえに極秘のミッションとなる。後でお父さんには報告するけど今のところ知らない。

実際機械の体で戦えるのかと言われれば、私はそんなに強くない。

私自身、仮想空間での戦闘知識、戦闘経験はあるが、この身体(機械)はその動きに対応できる能力がない。

元々便宜上実体が必要になる場面の為に作った身体だ。戦闘用に作られたわけではない。

とは言えこの機械の体は機密情報が多く搭載されている。万一帰還者に破壊された際、直ちに回収しなくてないけないのでロジャーとジャンカルロを待機させている。

現在四五口の潜伏先。場所は築古のラブホテル。

私は三階の非常階段から突入を待って待機中だ。

サーマルイメージカメラで確認はしたところ、人型の影が一人と内容不明の液体がひとつ。

私の仮説が正しければ、思っていた物体を見ることになるだろう。

『それでは突入開始する……!』

非常口の扉を解錠して部屋に入る。

自分が思った通りの物体を確認した――目標の神崎とスライムを発見。

「…………」

『神崎鳴子と仮称四五口を発見。攻撃開始』

私はスライムに向けて発砲する。室内に突入することから軽量のサブマシンガンを装備してきた。近距離なら適当に撃っても数で当たる。

弾丸はスライムにヒットして部屋一面に液体をまき散らした。

神崎の方は素早く反応し、また霧になった四五口を逃がそうとするのか壁に向けて魔術で氷を発現、壁を吹き飛ばそうと音葉を使うタイミングで――

私は対帰還者用機器を起動させた。

音葉で氷が発射することなく神崎の足元で落下。どうやら成功したようだ。

「…………」

神崎は手元を見てもう一度、音葉を使おうとするが魔法は発動していない。

部屋中に飛び散ったスライムである四五口を見ると霧化が始まっている。

そこへ腕に仕込んでいた薬品をスライムへスプレーする。これは人にとって猛毒の薬品だ。

スライムの霧化は止まり、粘度の低い汚い水となって床を汚した。

それと同時に電池が切れたおもちゃように神崎の動きが止まり、その場に倒れた。

『……対象二体に反応なし、任務完了』

幸いこちらの被害は全くなかった。四五口を無視してこちらに攻撃を仕掛けられたらどうなっていたかは分からなかった。

『し、信じられない……こんなあっさりと。俺達三人がかりで倒せなかったのに』

『あなたたちは原始人のようにただオフィス用品を投げつけてただけじゃないの』

『面目ねぇ……それでどうやってあの霧をやっつけたのですかい?』

『それは簡単、毒よ。貴方達が戦い終わった後、ドローンで霧になった四五口のサンプルを採取して弱点を解析したの……そういえばビルの8階から真下にオフィスデスク落としたのは誰?1970年代のハードロックバンドみたいな事して何を考えてるの?』

『あ、あれは隊長っす!なんかストレス溜まってるんじゃないっすかー?』

『おいJ、アディが運び出すときオマエ喜んで手伝ってたよな?』

『おいチクってんじゃねーよ!?』

『ハーッハッハ』

『はぁ……まあいいわ。状況は終わりよ、現場まで迎えに来てくれる?』

『『了解!』』

『――お疲れ様です。こちらオギツキセイカです。ええ、そう。現場に入る際は猛毒を散布したので防護服着用で。はい。お願いします』

さて、ここから何か状況が変わるとは思えない。現場の処理班に連絡する。

「腕……お父さんとお揃いになっちゃったわね。と言っても指だけか」

音葉をジャミングした機械はその後ショートして爆発、持っていた手の指が吹き飛んだ。

「音葉の解析は済んでいると思ったのだけど、まだ何かあるのね」

そもそも構造的にこの機械が爆発すること自体考えられない。あまり考えたくはないが科学で証明できない何かがあるのだろうか。

アキから教えてもらった話を思い出す。

まず前提として、

・魔術とは自然現象で解説できる事を起こす術(すべ)である。
・魔法とは原理原則のない、奇跡を起こす方法である。

音葉とは魔法を起こすための詠唱……みたいなものらしい。

実際は声帯を振動させて出すものが声であるが、アキが音葉を使った時に彼女の声帯は震えていなかった。どこから出している音なのか聞いても、そもそも喉から出ている音なのかどうか本人もわからないらしい。

しかもこの音葉には言語も法則性もないらしく、願った奇跡を起こしてくれるために使うものと、理解に苦しい説明だった。

逆に魔術は自分の中に落とし込むことができた。

なぜなら自然現象で再現可能なことを起こす事だからだ。

先ほど神崎が氷で壁を吹き飛ばそうとしていたのは、魔術と魔法の複合技だ。

魔術で氷を精製。音葉で氷を浮かし吹き飛ばす。こういう手順を踏んでいる事がアキの説明からわかっていた。

だから音葉の「音波」をジャミングすることで打ち消した。

――だけどどういうことだ。吹き飛んだ手を見る。まあ機械の体なので取替えがきくので特に気にすることはない。

音葉を解析することでわかったのは音波と微弱な電波だ。

これはアキは音葉を使った時の映像から解析してこの機械を作った。

絶対爆発することのない部品で組んだ機械が何故爆発したのか……。私は何かの怒りを買ってしまったのか?

まだまだ謎が多い事だらけだ。

間もなく処理班がこの場所の掃除にやってくる頃合いだ。

霧から床のシミにになった、四五口だった液体をサンプルとして採取。持ち帰って解析だ。

「あとは……」

糸が切れたように動かなくなった神崎だ。

簡単なミステリー小説の謎解きのような考察をした結果、立てた仮説が当たった。

「――亡骸を弄ぶだなんて、本当に腹立たしいわ」

⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰

ロジャーとジャンカルロが迎えに来たので車で移動の道中だ。

私は処理班の報告を受信しつつ興奮した感じの彼らの話を聞く。

「ドクター!これだけ強いなんて聞いてなかったですよ。今後もSAVで任務されるのですか?」

「まさか、攻略法が分かっていたから今回だけ作戦に参加したの。そもそもこの身体は戦闘用に作られていないもの。私の実体をを完全再現したのはいいけど、戦闘に胸は邪魔だとつくづく思うわ」

私のGカップの胸は細部にこだわって製作した完全再現版だ。

意味はあったのかと聞かれることもあったが何事にも手を抜かないことが私流の仕事である。

「ドクター、それは聞いていいのかわかりませんが、便宜上小さく作り替えることはできないのですかい?」

コンプライアンス違反抵触を懸念したのか恐る恐るロジャーが聞いてきた。

「嫌よ。だってお父さん、私のおっぱい大好きなんだから今更作り変えたりしないわよ」

おっと本音が漏れた。最近アキに影響されてきたのか、つい本音が出るようになってしまった。

「……ドクターもそんな冗談言うんスね」

冗談だと思われてしまった。まあその方が都合がいい。

「普段リラックスしている時は冗談くらい言うわよ――ふぅ……今日のミッションはそれなりにリスクがあったから緊張していたのかもしれないわね」

「ドクターって、てっきり冷血漢なのかと思ってたっス。なんか親近感沸きますね!」

「……お調子者のジャンカルロ、口の利き方には気をつけなさい。さもないと軍用デバイスを悪用した証拠を公に流すわよ」

車のモニターへデータを転送した。ジャンカルロが壁に向かって独り言を言っている映像が流れた。

⦅うひょー!アキさんっていい体つきしてるよな~⦆

「あ!こ、これは違うんです!」

「何が違うの?」

⦅なんかエキゾチックというかアジアンビューティーって言うかさ~⦆

これは先ほど私が室内に四五口の存在を確認するためにホテルの外から使ったサーマルイメージカメラだ。これを使って女子更衣室で着がえているアキのボディーラインを壁越しに見ている。

「悪かった!俺が悪かったからもうやめてください!」

⦅これで歳取らないんだろ?絶倫な俺なら一生楽しめるのにな~いいな~⦆

「J……おまえ流石にこれは擁護できないぞ」

ロジャーボーンも流石にこれはと引いていた。

「…………」

ジャンカルロは黙ってしまった。

「自称絶倫なジャンカルロ、申し開きは?」

「とりあえずその呼び方も勘弁してください……このデータもう流出しているのでしょうか?」

「取りあえずお父さんには送っておいたわ」

「俺……多分死ぬわ。トレーニング中の事故を装ってスパーリングとかでアディックに殴り殺される……俺が父親なら絶対そうする」

ジャンカルロの表情は悲壮感でいっぱいになっている。完全に車中の会話は止まってしまったけど、それならそれで別業務にリソースを振るだけだ。

「……そういやドクター、アディの方の作戦はうまくいったんですかい?」

「ええ、オギツキケイカ所長の救出に成功、負傷したけど命に別状なし。イズライール・ブルースの捕獲に成功。――あとはオギツキアツシが爆弾で片腕を損傷、顔にやけどを負う重症ね。現在病院で治療中よ」

見かねたロジャーボーンの助け舟でジャンカルロの話題が切り替わった。まあちょっと厳しくするだけで特に懲らしめたりすることはない――今のところだけど。

「隊長大丈夫なんスか!?」

「今のところ命に別状なしね」

「……隊長の復帰の目途とか立ってますか?」

真剣な面持ちでジャンカルロが聞いてくる。自分の事を心配しているのか、お父さんが心配なのかわかり辛いわね。

「それについては今のところ不明ね。ただお父さんの予定は詰まっているから、どうあろうと早めに復帰してもらう事になるわ」

「ドクターは……いやなんもないっス」

「そう?ほかに質問はある?」

「じゃあ教えて欲しいのですが、さっきの霧野郎を始末したと同時に女の方も倒れたように見えたのだけどあれは何故ですかい?」

「そうね……今回は”帰還者は一人だった”という事よ」

また本部までは移動時間がある。この場でできる仕事はないのでロジャーとジャンカルロにこの件についての仮説を含めた全貌を話した。

「これは四五口が消失した当日の話なのだけど、同日に神崎鳴子も消えていた」

「それもオフィスに血痕が残されていて解析結果が神崎のものだった。四五口による事件の可能性が高かったのよ」

こちら(IF-MOSA)も異世界転移だと確証が持てずに桜田門も介入することで捜査は難航した。

消えた四五口を経歴を洗うと過去に小動物をいたぶり殺害する遊びをしていて逮捕歴があった。

その際の精神鑑定では解離性同一性障害(二重人格)の診断もあった。

最終的に事件の捜査と並行して、こちらは異世界転移のデータを揃えつつ、あのビルを買い上げることで強引に現場を押さえることができたのだけど。

そして、先に帰還したのが神崎だったので事件についての線が消え、帰還者認定する事となった。

まさか二人同時の異世界転移なんて今までなかった事だ。

「今日あなた達が改めて神崎と接触した際、様子がおかしかったので解析した結果、生体反応がなかったの。だから四五口が神崎を先に現実世界に送り込んだのだと仮定してこの作戦に私が参加したの」

こんなウルトラCなミステリー初めてよ。

「仮定した結果だけど、四五口宗助の能力って”死者を操る魔法”だったのだから」

それに加えてスライムにメタモルフォーゼしていたなんて誰が予想できただろうか。

「……四五口は何故神崎を殺したのでしょうか?異世界に連れていくために殺したとか?」

「そんなの知らないわよ。ただ異世界転移者と犯罪についての因果関係などを調べてサンプルとして記録に残すくらいね」

「……ドクター、こんなややこしいミッションがこれからも続くのですか?」

「それこそわからないわよ。ただ帰還者が勇者だと断定して考えない方がいいわね。あれはただの死霊使いネクロマンサーなのだから。あんなのが勇者なんて片腹痛いわね」

「後味の悪い仕事でしたね」

甘い事を言うのはやっぱりジャンカルロだ。この子はこの仕事に向いていないのかもしれない。

「何言ってるの?私たちは後味のいい仕事なんてした事ないわよ」

二人とも黙ってしまったのでこれ以上、私から話す事は無い。

本部に到着するまでの間、私は次のミッションについてのスケジューリングを開始する。

ひとまず次の予定は幼い私を連れて空港に行かなければならない。

………………‥‥‥‥‥・・‥‥‥‥‥………………
最後までお読みいただきありがとうございます!
こちらの物語は『俺の仕事は異世界から現代社会に帰ってきた勇者を殺すことだ【フルダイブVRに50年。目覚めた俺は最強だと思っていたけど、50年後に再会した娘の方が強かった話】』
というお話です。
一話から読んでもいいなと思われましたら、以下よりご覧いただければ幸いです。


#創作大賞2024
#ファンタジー小説部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?