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何度も聴きたいロック名盤をご紹介 ⑰

アーティスト:コクトー・ツインズ
名盤:ヘブン・オア・ラスベガス

体験したことのない浮遊感、独自の揺らぎ感、幽玄な世界感、どれをとっても唯一無二です。あなたも味わってください。
コクトー・ツインズ(Cocteau Twins)は、1979年から1997年に活動したイギリス、スコットランドのロック・バンドです。
1979年に、ロビン・ガスリー(ギター)とウィル・ヘッジー(ベース)がバンドを結成し、これに、地元のディスコで出会ったエリザベス・フレイザーがボーカルとして加わりました。
1980年代に一時代を築いた4ADと契約し、アルバム『Garlands』でデビューしました。
2枚目のアルバムからその本領を発揮し始め、エリザベスもロビンこの時期にはそれぞれの自分の“強み”を掌握した感じがあります。
4ADの創始者による音楽ユニットThis Motal Coilでの活動を経て、早くも3枚目となる『Treasure』にてその独自な世界観を徹底的に完成させますが、
1986年には『Victrialand』にてドラムレスの幽玄な世界観をアルバム1枚かけて形作り、そこにはもはや、ポップフィールドに完全に背を向けたかのような唯我独尊の世界が広がっています。
コクトー・ツインズが追求し始めたスタイルは、1990年後半にリリースされた6枚目のアルバム『ヘブン・オア・ラスベガス』で頂点に達し、このアルバムは商業的に最も成功しました。

1." Cherry-coloured Funk"
冒頭の曲というのはアルバムの印象を決めてしまいかねないところですが、この曲はまさに最初から「コーラスでトロットロな音色になったギターのリフレイン」と「実にCocteau Twins的な神々しさを見せつけるサビのファルセットのメロディ」で本作の印象の方向性を決定づけることに成功しています。
このバンドにおいて、Elizabeth Fraserのファンタジックでありヒステリックでもあるこのファルセットのボーカルがどれだけ武器なのか、冒頭からまざまざと見せつけられるし、いかに後世のドリームポップ勢が今作を目指しても、このボーカルの独特の“神に取り憑かれた”みたいな質感はなかなか再現できないでしょう。

2." Pitch the Baby"
冒頭曲の雄大さからすると意外な、どこか内へ内へと滑り落ちていくようなトリップ感がループするトラックや、メロディよりもリズム感が効いた曲です。
ひたすらループしていくリズムとウネウネしたシンセはどこかハウス的で、都会的な病みのテイストを有しているようにも。ギターもギターロックバンドとしての感じは全くしないです。ボーカルも超越的な感じも感情的な部分も見せず、割とスルッとした具合に言葉を重ね、サイケなファルセットをしています。

3. "Iceblink Luck"
本作でもとりわけ爽やかなサウンドで、フォーキーで青空に向かって開けていくかのようなポップさがある曲です。本作の先行シングルとしてリリースされており、それも頷けるくらいにポップさが突き抜けている。『Treasure』あたりとはまるで別バンドみたいな軽やかさがあります。
シンセっぽいノイズが伸びてリズムが入るイントロからして爽やかさの極み。歌が始まる頃にはこの曲のフォーキーっぽさがより明確に聴こえてきます。
ボーカルはさほど超越的だったりミステリアスだったりはせず、曲の爽やかさに合わせてファルセットの使用なども清涼感に満ちています。

4." Fifty-fifty Clown"
この曲もまた「フォーキーな歌もの」から離れた、トリップポップ的な要素を感じさせるハウスフィールの効いた楽曲。シンセがうねってるのも2曲目と同じです。
2曲目と同じく、実に淡々とトラックはトリップしてリフレインしていく。ボーカルのクセも全然Cocteau Twinsらしさが抑制されているしエコー具合も実に垢抜けています。

5. "Heaven or Las Vegas"
イントロからして実にCocteau Twinsって感じのギターフレーズが鳴り響く、そして見事にポップさを獲得したサビのメロディも素晴らしい、アルバムタイトルになったのも納得の名曲。この曲はこのバンドでも最上位の名曲だろうし、少しワイルドな開放感がとても素晴らしい。
冒頭のギターが響いた瞬間に「ああ、Cocteau Twinsを聴いているな」と思わせるに十分すぎるほどの神々しさ・儚さのようなものが響き渡る。この「降りてくる感じ」こそ!そのフレーズがひたすら印象的です。

6." I Wear Your Ring"
やはりハウス的・トリップポップ的な曲に仕上がっていて、特にメロディのウネウネした組み方等がこのバンドらしさを感じれて、最もこのバンドらしい“異様さ”を内包できているように思います。
それでも、この曲の明確にサビ的なボーカルが多重録音でふわっと乱れ飛ぶ有様はなかなかにCocteau Twins的です。最後は音程の上がったボーカルの畳み掛けに色々エフェクト的なボーカルを被せつつ、ゆっくりフェードアウトしていきます。

7. "Fotzepolitic"
もしかしたら本作でも『Iceblink Luck』以上に爽やかで朗らかなメロディを持っているかもしれない、不思議にエスニックな郷愁を少しばかりエモーショナルに壮大に歌い上げる曲です。
吸い込まれるようなエフェクトの後にキラキラしたギターのカッティングが聴こえてきて、その程よく揺らいだ音色が魅力です。

8." Wolf in the Breast"
ここまでの都市的な神経質さとは打って変わって、ここではミドルテンポのリズムに本作でもとりわけウォームなギターフレーズを重ねて、不思議な節の付け方ながらしっとりとポップなメロディが重ねられる、まったりと快い感じの曲となっている。
このバンドも普通にギターロックやってるなあ、という感じの曲です。音色のちょっとした独特さと、そこに乗るメロディの少しばかりの奇妙さはあるけども、特にメロディが低いところに落ち込むときの感じがなんとなくチャイナな感じです。

9. "Road, River and Rail"
以前のバンドの冷んやりしたギターの質感がかえってきていて、冷たく閉じたようなコードで進行していく曲です。

10. "Frou-frou Foxes in Midsummer Fires"
アルバムの最後は、キリスト教的な厳粛さを思わせる静寂のパートから、荘厳で宗教儀式的な、つまり以前のCocteau Twins的な展開を見せるパートを挟んで展開していき、少しプログレ的にも思える曲です。

以上が今回のアルバム評となります。ロック入門の一助になればと思います。ご参考になればうれしいです。

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