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青の余韻

台風が去った朝、街は静寂に包まれていた。昨夜までの喧騒が嘘のように、空には一片の雲もない。真っ青な空が広がり、まるで世界が洗い流されたかのようだ。

アスファルトの隙間から、小さな雑草が顔を覗かせている。昨日までの雨で、その緑は一層鮮やかに輝いていた。街路樹の葉は、朝日に照らされてキラキラと光っている。まるで、自然が都市の隙間から息を吹き返したかのようだ。

しかし、この静寂は長くは続かない。日が高くなるにつれ、街には人々の喧騒が戻ってくる。コンビニの自動ドアが開く音、自転車のチェーンを回す音、遠くで聞こえる電車の走行音。日常が、少しずつ、でも確実に戻ってくる。

午後になると、空には入道雲が現れ始めた。白く膨らんだ雲は、まるで綿菓子のように見える。子供たちは空を指さし、その形を何かに見立てて笑い合っている。大人たちは、その姿を見て微笑みながらも、再び襲いかかる猛暑に顔をしかめる。

夕方になると、空は燃えるような赤に染まり始めた。ビルの合間から覗く夕日は、まるで溶けた金属のように輝いている。人々は足を止め、携帯電話を取り出してその瞬間を切り取ろうとする。しかし、カメラでは捉えきれない美しさがそこにはある。

夜になっても、熱気は収まらない。アスファルトからは、日中に蓄えられた熱が放出され続ける。エアコンの室外機が唸りを上げ、街全体がその熱気に包まれている。それでも、人々は窓を開け、わずかな風を求めて外を見る。

そこには、昼間とは異なる街の表情がある。ネオンサインが闇に浮かび上がり、その光が路面に映り込む。遠くで聞こえる救急車のサイレンが、都市の息づかいのように響く。

台風一過の一日は、こうして過ぎていく。明日もまた、猛暑が続くだろう。しかし、人々の中には、今日見た空の青さと夕焼けの美しさが、確かに刻み込まれている。日常の中に潜む、小さな非日常。それを見つけられる目を持つことが、この都市で生きていく術なのかもしれない。


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