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なぜか感動~映画編①~

今年、2023年は、世界映画史上最高のアクションスターにして伝説の武術家~ブルース・リーの没後50年にあたる。


ブルース・リーといえば、詠春拳を基礎にボクシングなど世界のあらゆる格闘技術を研究し抜いたすえに、《ジークンドー》という独自の拳法を確立したことで有名。

世界中の各界に弟子がいて、スティーブ・マックイーンやジェームズ・コバーンもその名をつらねた。


そのブルース・リーがはじめて監督・制作・音楽監修・主演・脚本・武術指導を手がけ、自ら創始した「ジークンドー」の奥義を存分に表現した作品こそが、


「ドラゴンへの道」(1972年・香港)


なのだ!


(※ネタバレ注意)

舞台は、イタリアのローマ。亡き父から中華レストランを継いだ、若き女店主チェンは、地元マフィアから立ち退きをせまられ、日々いやがらせを受けていた。


当然、客は怖がって店に来なくなる。困り果てた女店主チェンは故郷・香港の弁護士に相談する。


ところが弁護士が急病になり、代わりに中国拳法の達人である、従兄のタン・ロン(ブルース・リー)がやってきた。


タン・ロンを空港で出迎えたチェン。目の前に現れたのは、純朴な田舎の若者…。現地の言葉もわからないという、なんとも頼りない「弁護士の代理」にチェンはがっかり。


そのうえ、店の従業員たちもタン・ロンに冷ややかだった。というのも従業員たちは、マフィア対策として日夜空手の練習に励んでいたし、しょっちゅう腹をこわしてはトイレにかけこむタン・ロンの姿は《頼れる用心棒》とはあまりにかけ離れていたからだ。


ある時などは、マフィアが店に来て、明け渡しの《最後通告》をして帰るまぎわ、ちょうどトイレから出てきたタン・ロンは客と間違えマフィアにニコニコあいさつをするありさま…。


これを見た従業員達からタン・ロンはもう完全に《頼りにならないヤツ》との烙印を押されてしまう。


そんな折、ふたたび店にマフィアが訪れ、またもいやがらせ…我慢の限界に達した従業員らは自分たちの手で決着をつけようと店の外へ…


双方ならんで相対した従業員らとマフィア。日頃練習している空手の力を発揮するべく、まず従業員の1人が威勢よく前に進み出た。


そして、目の前のイタリアンマフィアのガッシリしたヒゲ面の男に「カーッ!」と叫びながら、いざっ、飛びかかったっー!


ほとんど同時に、ヒゲ面のあくびまじりのカウンターパンチが炸裂、体ごと吹っ飛ぶ。


地面にたたきつけられた従業員を介抱しながら「大丈夫かっ!」と何度も身体を揺するも返事はない。


それを見たマフィアの連中は「話にもならない」と大爆笑。


仲間を痛めつけられ、怒り心頭に達した従業員たちーー


張りつめた空気の中、もう1人の従業員がスクッと立ち上がり、ものすごい形相で叫んだ、

  

  「今度は、俺が相手だっ!」


そのとき、それを制する声がーー。


タン・ロンだ!


彼は、従業員に通訳を頼んだ。


タン・ロンはマフィアの獣たちに言った。


 「中国拳法を見せてやる」


従業員が通訳をして伝えると、イタリアンマフィアの野獣たちは、今、倒した相手よりも、さらに小柄なタン・ロンを上から下までながめ、「さっきのヤツより話にならない」といわんばかりの眠たげな顔…


タン・ロンが「さあ、かかってこい」と手まねきをしても、体格のいいヒゲ面は、またも、あくびまじりに、ダルそうにかまえ、その様子を従業員らと見守る女店主のチェンも、頭を左右にふりながら、「もう見てられない…」と失望の色あらわ…。ここにいたって完全にあきらめと敗北の空気がたちこめ始めたーー。


そして、いよいよタン・ロンを血祭りにすべく、あの、ひげ面マフィアが、得意の超重量パンチを繰り出したっ!


その瞬間である、

    

    「スパーンッ!」


タン・ロンの蹴りがひげ面の背中にムチのように唸った!

続いて、タン・ロンの鋼のような後ろ回し蹴りが、ヒゲ面の頭に想いっきり炸裂!ひげ面は「うぉぉほっ!」と叫びながらバタッとその場にぶっ倒れ、気絶したデカい図体が無残に地面に横たわった…


従業員らと女店主チェンは、何が起こったのかわからないという顔で、ただただ唖然…
マフィアの野獣たちまでもが呆然と立ち尽くしている…


と、我に返ったマフィアの連中が、次々に襲いかかる!

悠然とかまえるタン・ロンは、その輩をあっというまに一人残らずリングならぬ地面に沈めた。


このシーンに私は、【実力】というものが持つ『厳然たる力』を見せつけられた思いがした。

アクション自体はつくりものだが、ブルース・リーの身のこなし、身体の動きは、格闘技を越えて、もはや【芸術】の域に到達している。


ムダな肉がすべてそぎ落とされ「格闘」だけに必要な最低限の筋肉。身体動作を自在に操る中国雑技団並みの柔軟性。そして武術で鍛え抜かれた不動の「体幹」から繰り出される「蹴り」や「突き」の超人的なキレとスピードは、おそらく過去においても現在においても、いや、未来永劫、他の追随を許さないであろう。

伝説のボクサー、カシアス・クレーは


「蝶のように舞い、蜂のように刺す」


と形容されたが、ブルース・リーの場合は、


竜のように跳ね、稲妻のように撃つ


とでもいおうか。


ともあれ、ブルース・リーの【実力】のよってきたる淵源は、いかに多忙でも欠かさなかったとされるストイックな鍛練である。


ジャンルは違うが、アルゼンチン・タンゴのナターシャ・ポペラージ氏は語る

「たった3分間の演技時間ですが、何千時間という練習の成果が、微妙な身のこなしとなって表れるんです」


まさに、これこそがブルース・リーのアクションから発散する本質的な魅力なのであり、たゆまぬ努力は【実力】を醸成し、その【実力】は、いざというときに、厳然たる結果をもって見るものをして圧倒する!


世界中のアクションシーンを観てきたが、一度「ドラコンへの道」のブルース・リーのキレとスピードを観たあとは、どれもこれも、少し速めのスローモーションにしか見えず、もどかしい気持ちにさえなる。


そして、この作品のラストは、実際に何度も全米空手チャンピオンに輝いたアクション俳優、チャック・ノリスと、ローマのコロシアムで対決する。この格闘シーンこそは、時の洗礼を経て、未来永遠に残りゆく、全世界における唯一無二の《一流の芸術》の一つである。


     






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