見出し画像

「やばい」という言葉について考えてみた。

こんにちは、架空書店「鹿書房」店主・伍月鹿です。
3月といえば出会いと別れ、思いが交差しあう季節ですね。
つまり、本職がとても忙しい時期でもあります。
一人ひとりの方の思いを大切にしたい思いと、もっと皆さま前もって準備をしていただけないでしょうか……、という思いで毎日バタバタする時期、
いかがお過ごしでしょうか。

私は接客業について長いのですが、如何せん体力がない。
自分では平気なつもりでも、無理が続くとすぐに体調に出るタイプです。現在もできたこともないところに吹き出物が出て、困ったなあなんて薬を塗ってやり過ごしています。

さて、本日は言葉の話を一つ。


「やばい」という言葉について考えてみた。


伊坂幸太郎さんの作品「ラッシュライフ」などに登場する「黒澤」に
「やばいってのは野に咲く梅のことだ。野梅だ。」
という台詞があります。
後輩が使う「やばいっすよ」という言葉を受けて告げる、俗世に染まらない黒澤のクールさや天然さを表現した、大好きな台詞の一つです。

いまや若者言葉を通り越して誰もが使う「やばい」という表現。
学術的には戦後から流行した俗語とのこと。
実用日本語表現辞典には以下の意味が記載されていました。

やばい
別表記:ヤバイ

(1)危険または不都合な様子。状況・具合が良くないさま。
(2)非常に興味をひくさま。大変面白いと感じる様子。

https://www.weblio.jp/

言葉は移ろいゆくものだと考えているので、俗語を使うなんてけしからん、なんてことを言いたいわけではありません。
私自身は平成初期の生まれなので所謂「ギャル語」がなかなか抜けなくて、つい枕詞として「むちゃくちゃ」や「超」とつけがち。もっと上品な言葉をつかえるようになりたいものです。

しかし、この「やばい」という表現、文章の中で使う場面は意識したいとふと感じました。
趣味とはいえ文章書きの端くれとして、独りよがりな表現には気遣う身。
本日は、私個人として許せる場面とそうでもない場面を書き出してみようと思います。

「この状況はやばい」

これは上記辞典の1のパターン。
おそらく多くの方が恐ろしく危ない場面を想像することでしょう。
また、言葉を選んでいられないという危機的状況や、パニック状態を表現するために敢て乱暴な表現として使うのも、効果的。語り手の未成熟さすら想像させるかもしれません。

「推しのビジュがやばい」

こちらは2のパターン。文章では興奮状態を表現するのにも適している気がします。想像もしなかった「良さ」で殴られる喜びが伝わってきます。
こちらも若者言葉として使うことで、語り手の年齢を想像させることができますね。

「この映画がやばい」

こちらはどちらの意味にも捉えられる表現。
広告などで使われることも多くなってきたように感じます。
展開が恐ろしいのか、映像が衝撃的なのか、はたまた非常に愉快で突拍子のないストーリーなのか。
想像をかきたて、人々を注目させる言葉でしょう。
YouTubeのサムネにも使われることも多い印象です。
「やばい」理由を曖昧にして興味を沸かせる所謂「つり」というものに使っている人も多いと思います。


ここから先は、私はあまり共感ができない表現です。

  • 「先週のストーリーはやばかったですね」

  • 「〇〇って漫画やばいんだけど」

  • 「〇〇してみたらやばかった」

わかります。
言いたいことはとてもわかります。
仲間内で話しているときは、私もこのような表現をすると思います。

でも、文章として見せられると、一瞬ドキリとしませんか?

「先週の~」はとあるドラマの公式ツイッターがしていた発言です。
原作のファンで注目していただけに、私はその表現に少しがっかりしてしまいました。
その作品は作品の分類を飛び越えた良質なストーリーが特徴で、心震える展開に夢中になって読みました。
なのでストーリーが「やばい」のは知っております。勿論とてもいい意味で。
しかし、不特定多数の方が目にする公式ツイッターでの紹介ともいえる表現が「やばい」は説明不足すぎるだろう……と感じてしまいました。
また、作品の分類が特殊ということもあり、ジャンルに興味のない人からすると「あやしい」という意味に捉えられかねないことにも残念ポイントがあります。あんなにいい作品の映像化なのに。

二つ目の感想としての「やばい」も似た印象を感じます。
もし自分の知らない作品を「やばい」と紹介されて、興味がわく想像がつきません。
繰り返しになりますが、身内での会話では問題ありません。興奮状態を表現するのに適した言葉として処理できます。
でも、誉め言葉としては語彙力が少なすぎると感じざるを得ません。
「この漫画やばい。絵がきれい、話が丁寧で感動した」などと追記があると、ほうほうそれほどまですごいものなのか、と興味を持つことができると思いますし、そうとまで言わせた作品には触れてみたいと思うかもしれません。

余談ですが、学生の頃の私は読んだ本を記録するブログを運営しておりました。
当時、ブログや個人サイトが不特定多数の方と関わるツールでしたので、ブログ内ランキングやコメントでの交流などでインターネットを楽しんでいた時代です。
そこで私は読んだ本の感想に「面白い」を使わない、というルールを設けておりました。

私がずっと大好きで応援している方に「可愛い」と言われたくない方がいます。
また「頑張って」などの無責任な言葉も嫌いと言い、若い頃はそれでファンと喧嘩している光景は珍しくないものだったと言います。
それぞれが言葉に対するイメージが異なり、彼の考え方には共感できる部分も多くあるため、私も彼の考え方を尊重したいと常に考えております。

それぞれのこだわりとして、言葉を取捨選択するのも、使い方の一つ。
一介の読者に過ぎない私が、大尊敬する文豪様方に気軽に「面白い」なんてとてもじゃないが言えません。なんて恐れ多い。

ただ、言葉は毎日使うものですので、全てがダメというわけではないのは繰り返させてください。作品を面白いと言っていただけるのはとても嬉しいことですからね。
でも……「伍月さんの作品やばいっすね」と言われたら……ちょっとカチンとするかもしれませんね(笑)

最後に「〇〇してみたらやばかった」
これはインスタグラムやYouTubeなどで頻繁に見ます。個々が表現法を様々に得て発信できる時代、自分の経験や考えを残すのはおもしろおかしく楽しめる時代です。

でも、こういうタイトルの場合の「やばい」は大体良い意味なの、なんなんですか!!!???

つり広告と意味は近いかもしれませんが、キャッチコピーとして計算されたものとは違う軽薄さを抱き、なんだか納得いかない。そんな表現です。


こちらの記事に興味深いアンケート結果も掲載されておりました。
子育てとは無縁の人間ですが、子供の語彙は学校で影響を受けるからコントロールしにくいと母が言っていたことがあります。
乱暴な言葉を喜んで使っていた子供時代にはっとした記憶が蘇りました。

こんな記事を書いた翌日に、私自身も誰かに「やばい」と言い放っているかもしれません。
改めて言葉というものは難しく、面白いものだなあと感じます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?