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映画「ナポレオン」予告解説3

こんにちは! 架空書店「鹿書房」店主、伍月鹿です
映画「ナポレオン」の予告をまじまじと鑑賞して、妄想と考察を繰り広げた解説の最終回です
前回同様、素人のざっくり知識ご容赦くださいませ


◆後半の断片的な映像

後半は予告の内容や映像もダイジェストになっているので、正直まだ予想ができないシーンばかりです

前回解説した戴冠式のあと

◆草原をかけているシーン
◆兵士がぐるぐるして何かを包囲している
◆燃えてる街
◆なにかを燃やしてる?
◆人々に出迎えられている

などのシーンが断片的に登場します

このあたりは本編を見てみないとなんとも言えませんが、ナポレオンが皇帝になったあとの会戦は「オーストリア戦役」「ドイツ・ポーランド戦役」「半島戦争」「ロシア遠征」と続きます
予告の後半は1805年の「アウステルリッツの戦い」が描かれますが、ダイジェストを見る限りジョセフィーヌをはじめとした女性関係の描写も多そうですし、映画では離婚が成立する手前くらいまでの物語なのでしょうか

となると、燃えている街を見て真っ先に浮かぶ「モスクワの大火」ではないのかなとか、シュタップスによる暗殺未遂事件は描かれないのかしらとか、いろいろ考えてしまう数秒間です

ぐるぐるしてる真ん中には、ナポレオンがいるのかもしれません

優秀で忠実な古参兵が多かったという皇帝近衛隊・親衛隊は、身を挺して彼を守ったといわれています
後期の戦況では自分を守る親衛隊を温存しすぎて勝機を逃す、ということもあったくらい、最後の切り札として常にナポレオンを護衛してました
ロシアからの敗走の際、ナポレオンに見捨てられたと発覚して自殺をする者がでるほど、その忠誠心は高いものだったようです
ナポレオンはあまり背が高い人ではありませんでしたが、親衛隊は長身でなければなれなかったらしいです。周囲の人間が大きいから、ナポレオンが余計小さく見えたという話もあります

映画で描かれるか不明の「シュタップス暗殺未遂事件
このエピソードはアレクサンドル・デュマの「リシャール大尉」でも描かれるなど、ナポレオンが皇帝になって権力を得た当時の緊張状態を表したエピソードのように思います

これまたわたしの「推し」の話にはなってしまいますが、ドイツの若い男性によるナポレオン暗殺事件、未然に防いだのはラップ将軍なのです

ドイツの学生フリードリヒ・シュタップスは、1809年ウィーンのシェーンブル宮殿にて閲兵式を行っていたナポレオンに近づこうとします
ナポレオンの忠実な参謀長ベルティエが若者を止めますが、男はなおも食い下がる
そこでベルティエは、ラップ将軍に若者を下がらせるよう指示します
憲兵を呼び、拘束をしようとしたところ、ラップは若者の手にナイフが握られているのを発見。そのまま拘束となり、ナポレオンの命は救われます
この出来事からナポレオンは跡継ぎが必要と考えた……ともいわれており、ジョセフィーヌとの離婚にもつながる話なのかもしれません

サヴァリの自伝に「稀有」と表現されていますが、ラップはフランスとドイツの国境付近の街出身のため、ドイツ語も流暢に話せたようです
(当時のフランス軍だとネイもドイツ語を話せたことで有名ですね)
そのため、ナポレオンが直接犯人を尋問したいと言ったときも、ラップが通訳を務めたようです
軍医を交え、男の精神状態や陰謀組織への加担などを確認したナポレオンは、若者に寛大な措置を取ります
「リシャール大尉」の中では、暗殺はドイツを脅かすナポレオンへの恨みが理由とされています。同胞なはずのラップに捕まえられたシュタップスの運命に、切なさや運命めいたものを覚えるのはわたしだけでしょうか


ところで、ラップが現在様々なところで「最良」の副官・司令官と呼ばれているのは、おそらくラップ将軍の自伝冒頭にある「ラップほど天性の良識と見識のある者はいないと、頻繁に発言していた」(翻訳ソフトによる直訳)というナポレオンの発言が元になっています
小説の中でも「用心深く真面目」と描かれ、その他暗殺を防いだことを描かれた資料でも、ナポレオンに忠実で仕事ができる男として表現されることが多いのが嬉しいポイント

そんなしごでき男なのに、コルシカ出身の奴は信用ならないとコルシカ出身の陛下に言ってしまったり、悪口書いた手紙がバレて怒られたり、と微笑ましいエピソードもあるから彼は沼なのです
映画に出てくるといいなあ

という閑話休題



◆「ヨーロッパ中が敵となった」

ナポレオンの歴史には様々な戦役があり、常に彼は戦場に立たされています
何故なら「解説1」で少々言及した「対仏大同盟」が何度も組まれているからです
ナポレオンが権力を握って以降は、フランスというより対ナポレオンといった形となり、対立していたオーストリア帝国やイギリスを中心に何度も同盟が組まれ、連合軍ができます
そのたびにナポレオンは戦力で黙らせ、条約を結ばせ、ヨーロッパの支配勢力を広げていきました

歴史あるあるですが、前回は味方だった国が今回は敵になり、友好的になったと思うとまた敵になり……を繰り返しているのがややこしいポイント
どんなときでもイギリスは敵なのがわかりやすいですね
また、ナポレオンもイギリスを制圧するために様々な手段を講じるのですが、結果それが他の敵を生む形となります
このあたりの流れは面白い部分でもあるので、もし興味を持たれましたらじっくりと追ってみてほしいポイントです



◆各国の旗を並べて会議しているシーン

お待ちかね、1805年「アウステルリッツの戦い」です
アウステルリッツの戦いは別名「三帝会戦」とも呼ばれ、芸術とも評価されているナポレオン戦争における代表的な戦いです

ナポレオン関連のWikiなどでもよく使われているフランソワ・ジェラールの絵画が非常に有名

右側で白い馬に乗っているのがナポレオンです
次に、中心で敵陣の旗を献呈している人物に注目していただきたいです

彼がどなたかわかりますか?
ここまで読んでくださった方には、わたしがここまでもったいぶる理由がもうおわかりかと思います
はい。そうです。わたしの「推し」のラップ将軍です

↑ 最近だとラポートの本の表紙に採用されてました
こちらの本、とてもわかりやすかったのでおすすめ

ナポレオンの功績や歴史を御存じない方でも、一度は目にしたことがあるであろう絵画です。wikiで「ナポレオン戦争」と検索するとこちらの絵画が見出しになっています
推しが、その真ん中にいるんですよ
なのに、ラップ将軍は日本でほとんど知られていないんです。何故。
もっと評価されるべき。いや、自伝が英訳されている時点で注目はされているのはわかっています。ありがたいです。でも、もっと注目されてほしい……!

という、厄介オタクにとってもスルーできないアウステルリッツです

フランス皇帝に即位してからちょうど一年後、ナポレオンはプロイセンのアウステルリッツ近郊で決定的な勝利を収めます
フランス軍は撤退を装い、オーストリアのフランツ1世とロシア皇帝アレクサンドル1世の軍勢を欺きます
9万人いたロシア軍は3万人の兵士を失ったのに対し、フランスは7万3千人の兵士のうち7千人を失っただけといわれていることから、その輝かしい勝利の規模を感じることもできるでしょう

予告の中でナポレオンが立っているのが、戦況を大きく変えることになったプラツェン高地だと思います
彼は敵の攻撃を誘うためにわざと連合軍に戦いに有利なプラツェン高地を取らせ、罠をしかけます
また向かう軍をわざと手薄にみせて敵を誘いだし、一気に形勢逆転
密かに待機していた援軍が襲いかかり、いつの間にか有利だったはずの連合軍が追い込まれている……という流れが鮮やかです

「大変です、敵に見つかりました」
といっているのがベルティエかな、と期待
ここでナポレオンが「グッド」と無表情で答えているのがかっこいいですね

様々なピースがかみ合い、ナポレオンの期待通りに進んだ戦況は連合軍にパニックをもたらします
脱走し始めた兵士は凍った池を渡りましたが、そこにフランス軍が砲撃を落とし、多くの兵が冷たい池に落ちたとのこと
予告の終盤を飾る印象的なシーンはその再現ですね

しかし、実際に池の底から出てきた死体はほんの数体だったようで、何万もの兵が池に沈んだとされているのは「ナポレオン伝説」の一つのようです
国内の情勢も変わりやすく、ナポレオンも人気や支持を得るためには情報操作も厭わなかったため、彼は発表する内容を盛りがちだったというのは現代では有名な話
敢て伝説に則り劇的に描くシーンや、監督の「完璧」と噂の時代考察とのバランスも、映画・歴史好きとして見逃せません

ちなみにジェラールが描いたのは、激闘を後押しするために近衛兵とラップ将軍率いるマムルーク兵が投入され、「小さな力で得た決定的勝利」のシーン
怪我が多いラップ将軍はこのときも頭にサーベルの傷を受け、血まみれだったということです

有利に進んだかのように思えた戦況も、連合軍の必死な抵抗でぐだる瞬間があったとかなかったとか。そこで長期化するのを避けたいナポレオンがラップにいくつかの師団を預け「行け」と指示をした、というのがわたしのアウステルリッツお気に入りの描写です

資料によってはいろんなことが書いてあります
アウステルリッツの戦いは芸術的であるという評価と、実際には偶然の連続だったのでは、という意見、様々な見方がされています
解説なども多い会戦なので、映画の前にそれぞれの立ち位置などを理解しておくとより楽しめるのではないでしょうか

映画でナポレオンが語られるのは間違いないとして、他に誰に焦点をあてるかで見方がかなり変わりそうな気がします
アウステルリッツの功労者として浮かぶのは、スールト、ダヴ―、ミュラ、ベルナドット、スーシェ、ランヌ……など優秀揃い
誰がヒーローとして描かれるかも注目したいところです



3回にわけて語りたいように語らせていただきました予告鑑賞
キャストや登場人物など、事前情報がどのくらい発表されていくのかはわかりませんが、人々に忘れられつつあるナポレオンを現代に再現する大作になるのは間違いなしの注目度ですね
英語を話すナポレオン、というのが多くの人にとって引っかかるポイントとなっているようですが(わたしも欲を言えばフランス語で見たかった)、リドリー・スコット監督の時代考察には定評があるようなので、安心して期待ができております

新情報が入り次第、また考察と妄想を繰り広げる気満々です
ぜひお付き合いいただけたらと思います
もっと詳しい方の解説や考察も見たいです。有識者様、よろしくお願いいたします


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