生きる理由


夕方にカスタードデニッシュを食べたせいで、お腹が空いたと気づいた頃にはもう、21時をまわっていた。

重い腰を上げ台所へと向かう。

冷蔵庫を開けると、あるのは我が家の冷蔵庫界の主となりつつある大根。

今日はこいつをなんとかせねば。


とりあえずYou Tubeを開き、

「大根_レシピ」

と検索してみる。

いや待て。

今から買い物に行くなんてことがあるはずもない。

だったら冷蔵庫の中にある材料で何か考えるのが妥当である。



もう一度冷蔵庫を開く。

大根、もやし、えのき、卵、納豆、、、、

うーん、、、、卵か。

肉など入っているはずもなく、同じタンパク質である卵を渋々選択する。

困ったら卵である。


「大根_卵_レシピ」

さっきよりも範囲を狭めて検索をかける。


スクロールしていくと、

「心に染みわたる!しみしみ大根の作り方!」 


これだ!

食欲そそられるサムネイル!今日はこれを作ろう。

やはりYouTube様様である。なんだって教えてくれる。


冷蔵庫から卵2個、そして大根を取り出す。

まず、ゆで卵を作り、その間に大根を切り、皮を桂剥き、そして面取りをする。

さらには、炊飯器の中が空っぽだったため、米を炊く。

一人暮らしだったら考えられないこの数分間である。

まずゆで卵なんて作らないし、皮はついたまま。煮崩れなんかどうでもいい。米はレトルトパック。

ていうか、卵かけご飯。 以上。


人といるとご飯を作ろうという気が湧いてくる。

かといって同居人に出来たものを振る舞うわけでもないのだが、何故だか創作意欲が刺激される。

料理の頻度が増えたのは、シェアハウスをしている功罪のひとつといえるだろう。


ゆで卵が完成した。

次は大根を炊きながら卵の殻を剥いていく。

時間の有効活用。日中のshort動画に費やした時間をここで取り戻す。


卵が剥き終わり鍋に投入する。

最後にあたかも普段からやりなれているようにキッチンペーパーで落し蓋をする。

こんなのやるはずない。

味がよく染みるようになるのらしく、やりながら意味あるのかと疑いながらもYouTubeの指示に従っていく。

調味料を加え、ここからは大根とご飯が炊けるまで待機。

シェアハウスをしているとこの時間も待ててしまう。


20分程経ち、再び鍋の元へ。

さっきから薄々気づいていた美味そうな香り。

もう食欲を隠し切れない己の右手で、蓋を開ける。

一気に炊けたにおいが部屋の中を埋め尽くす。

臭いから匂いへ。

まるで実家のキッチンにいるような安心する丁寧な香りである。



散らかったテーブルをかき分け、食卓を作り出す。

米と大根を並べ、いざ、いただきます。

大根を一口、口に運ぶ。

美味い。

美味すぎる。

今まで気が付かなかった自分の中の井之頭五郎が登場してきそうだ。


ここで私の好奇心が芽生える。

「これ、明日まで残しておいたらもっと美味くなるんじゃね?」

よし、決まり。

最後の一つは明日の朝にとっておく。

好奇心が食欲に勝利した。



気づけば部屋はシンとしている。

我が家の一日が終わりかける。

今日よりもさらに味の染みた大根を食べる。

「生きる理由なんてこんなものでいいんだろうな」と、どこかで聞いたことあるそんな言葉が自分の声で再生される。









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