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【(粒)メン限】桃色フラグ

どうぞよしなに。小粒です。
昔書いて賞に落ちた小説を供養します。
ネガティブ幸運系主人公とサイコパス女の子の導入ストーリーです。
短編だったのでどうにか詰め込もうと頑張ったのですが…
良ければ、感想をください!


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桃色フラグ

「殺人事件です!」
死体を前にして探偵が叫んだ。
僕は“歩く死神”に出会った。

とある孤島に来ていた。
人生の行き止まりに迷い、ただ何処かへ逃げ出したかったからだ。15年連れ添った彼女にあっけなく振られ、納得がいかずに粘ったが、無駄だった。そんな折、遠方の親戚から1本の電話がかかってきた。離れた土地に住む母が重度の認知症を患っているという。急いで帰郷したが、母の目は摺りガラスのように曇り、僕を映し出すことは二度となかった。心にぽっかりと穴が空き、何もかも失ったような気持ちだった。死にたい、とぼんやり思ったが、自殺する勇気すら持てない。それなら、いっそ誰かが僕を終わらせてくれれば──そんな無意識の願望が、僕をこの旅へと誘った。

やって来たのは、陰鬱な島だった。どこか沼のように暗く淀んだ雰囲気が、僕の心そのものを映しているように思えた。観光する気分にもなれず、ただ部屋に閉じこもっていた。何のために来たのかも分からないまま、ただ時間だけが過ぎていく。
他に9人のツアー客がいるらしいが、こんな気分で参加しているのは僕だけだろう。

外からぽつぽつと水滴が落ちる音が聞こえ始めた。やがて、それは勢いを増し、轟々と窓を打ちつける嵐へと変わっていく。古びた木枠の窓がギシギシと軋み、薄暗い空に陰影を落としていた。

「きゃあああーーー!!」

突如、耳をつんざくような悲鳴が廊下に響いた。重い体を無理やり引き上げ、外に出ると、他のツアー客たちも同じ方向に引き寄せられていた。廊下の先にぼんやりと人影が見える。……あれは何だ?好奇心が僕を動かし、ゆっくりと、だが確実に足を進めていく。赤い羊毛の絨毯と、飛び散った血液が入り混じる異様な匂いが鼻を突く。腹部に突き刺さった刃物からは、えぐれた内臓が見え隠れしている。脳内で警報がけたたましく鳴り響く。見てはいけない、と本能が叫ぶが、足は止まらない。

やがて、ぼんやりとした輪郭は美しい女の姿へと変わり、僕はその場に立ち尽くしていた。
そんな凍りついた空間をかき消すように、男の声が響いた。

「これは、殺人事件です!」

孤島、嵐、そして殺人。まさか、本当に僕はドラマのような連続殺人事件に巻き込まれたのか?あの男は「歩く死神」と呼ばれる探偵なのか?茫然としつつも、頭の中で情報が必死に整理されていく。そして、探偵は僕たちに命じた。

「部屋に戻りなさい」

指示された通り、ベッドに寝転がりながらスマホをいじると、面白いワードを見つけた。

「死亡フラグのさしすせそ」──こんなものを口にする奴、本当にいるのか?
  さ「先に行け、奴は俺が食い止める」
し「死にたい奴らはここにいろ、俺は部屋に戻るからな!」
す「好きだったぜ、俺お前のこと」
せ「戦争が終わったら俺、結婚するんだ……」
そ「そうか!そういうことだったのか!」

確かに、これを言ったキャラクターは物語の中で確実に退場させられる。だが、僕は気づいた。自殺する勇気もない僕が「殺し待ち」をしている状況で、これほど「死」を招く呪文はないのではないか?もし次に殺人事件に遭遇したら、試してみよう。
妙な期待感に心が膨らんだ。だって、あの女は、血を流して倒れていたのに、とても幸せそうに見えたから。

目が覚めると、第二の殺人事件が起きていた。探偵が現場を検証している。昨夜のネット記事を思い出し、僕は無意識に呟いた。

「死にたい奴はここにいろ、俺は部屋に戻ってる」

他の客たちはポカンとしていたが、不思議なことに言い終わった瞬間、得も言われぬ高揚感に包まれた。部屋に戻れば、僕はきっと殺される。だが、待てども誰もやってこなかった──。

以後、殺人事件は二度起こったが、僕はどのフラグを立てても死ぬことはなかった。第五の事件では「好きだったぜ」と囁いてみたが、結果はこの通りだ。
人生は思い通りにいかないものだ。まったく滑稽な話だ。

「この事件の謎は解けました」
探偵の声が響く。……結局、僕は死ねなかったのか。だが、これでいい。大切な人を失った絶望は、ほんの少しだけ晴れた気がする。これからはポジティブに生きていこう──。
そう、心に誓った瞬間だった。

「好きだったぜ、俺お前のこと」

その瞬間、視界が真っ暗になった。

赤と女。瞳を開くと、彼女は微笑んでいた。

「私もあなたのことが好きになりました」

怪しく光る瞳に、桃色の光が灯っていた。
僕は、フラグを間違えた──。

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